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第3話

 これは冗談なのだろうか?


 私――神代愛梨は幼馴染から差し出されたクリスマスプレゼントを前に、困惑した。


 肩叩き券。

 母の日に低学年の小学生がプレゼントするような代物だ。


 クリスマスに“好きな女の子”にプレゼントするようなものではない。


 別に高価な物が欲しいわけでも、お洒落な物が欲しいわけでもないが……。

 果たしてこれには“気持ち”が込められているのだろうか?

 プレゼントを用意していなくて、今日の朝、慌てて作ったんじゃないか?


 もしかして、私の勘違いで、一颯君は私のことなんて好きでも何でもないんじゃ……。


 そんな私の気持ちが顔に出ていたのだろうか。

 一颯君は慌てて弁解を始めた。


「いや、俺もこれはどうなのかなって思ったんだけどさ。その、お金がなくて……何も用意しないよりはマシかなと。埋め合わせは、するから!」

「お金がないって……」


 何か、無駄遣いでもしたの?

 私はそう言いかけ、慌てて口を噤んだ。


 そう、一颯君は最近、無駄遣いをしたのだ。

 正確には私が無駄遣いをさせた。


 遊園地に連れて行ってもらった。

 遊園地に連れて行かせた。


 もちろん、私は一颯君に全額、払わせるつもりはない。

 私の我儘で何万円も出してもらったら、私自身が遊園地を楽しめない。

 だから後で半分お金を出すと、約束した。


 約束しただけだ。

 まだ、払っていない。


 割り勘分を払えるほどの貯金が、なかったからだ。

 だからお正月……お年玉をもらえるまで、待って欲しいと一颯君には伝えていた。


 要するに一颯君に手持ちのお金がないのは、私のせいだ。 


 もちろん、今すぐ返せと言われれば返せる分は返すつもりでいるけれど……。

 一颯君の方から「クリスマスプレゼントを買うから金を返せ」とは言えわけがない。


「ふふっ……そっか」


 申し訳ないという気持ちもあるが、それ以上に私は安心した。

 一颯君にとって、私は“肩叩き券”程度の女ではなかったのだ。


 考えてみれば、あの遊園地自体がクリスマスプレゼントみたいなものだ。

 リップクリームだって、もらったし。


 そう考えてみると、“肩叩き券”でお茶を濁そうとする一颯君の行動が、可愛らしく見える。

 

 それはそれとして……。

 “肩叩き券”はないと思うけど。


 もうちょっと、こう、なかったのだろうか?

 確かにパッと思い浮かばないけれど。


「えーっと……愛梨?」


 私がニヤついていると、一颯君は心配そうな表情で呼びかけて来た。

 怒っていると思われてしまったのだろうか?


「大丈夫。事情は分かったから」


 私がそう答えると、一颯君は安堵した様子で小さく息を吐いた。


「ありがとう。えっと、埋め合わせは……」

「大丈夫。別に埋め合わせは必要ないから」


 私だって、大したものを渡しているわけではない。

 大事なのは気持ちだ。

 そして気持ちは十分、伝わった。


「あぁ、そ、そう……?」


 しかしどういうわけか、一颯君は不満そうな表情だ。

 

 やっぱり、“好きな女の子”へのクリスマスプレゼントが“肩叩き券”というのは、嫌みたいだ。

 一颯君、見栄っ張りだし。


 可愛いところもあるものだ。

 でも、そうだなぁ……埋め合わせか。


「代わりと言っては何だけどさ」

「な、なんだ!?」


 私の言葉に一颯君は身構えた。

 少し嬉しそうだが、同時に不安そうな顔だ。

 ちょっと、面白い。


「この肩叩き券……肩叩き以外にも、使っていい?」

「どういうことだ? 腰とか、足裏マッサージに使いたいって意味か?」

「そうじゃなくてさ」


 私は一颯君手作りの“肩叩き券”をヒラヒラさせながら、言った。


「“肩叩き券”、じゃなくて“愛梨ちゃんの言うこと何でも聞いてあげる券”にしてくれない?」


 これを使って、一颯君()遊んであげよう。

 そう思いながら私は一颯君に提案した。 


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書籍版第一巻、4/15GA文庫様より発売予定です
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