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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第二章 アクアセルシス王国
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アクアセルシス王国2





 荷物を持つ彼が、息を切らしついてくる様子を見て男性は大きく息を吐いた。男性が思っていたよりも力がなく、使えないことに落胆しているのだろう。

「思ってたよりも力はないし、使えないし……誰かこいつを買ってくれねぇかね」

 息を切らして立ち止まってしまった彼を見ながら、誰かに聞かせるわけでもなく呟く男性の言葉は、他の歩いている者達にも聞こえているだろう。しかし、気に留める者は誰もいない。

「俺が買いましょう?」

「あ?」

 突然聞こえた声に男性は振り返った。そこにいたのは、笑顔を浮かべた龍だ。男性はまるで値踏みでもするかのように龍を見てから、口元に笑みを浮かべた。

「……いいだろ。だが、5万スピルトだ」

「わかりました」

 ほんとに出すとは思っていないのだろう。男性は財布を取り出した龍を見て僅かに驚いた表情を見せた。財布を取り出すと、龍は5万スピルトを男性に渡した。

「それでは、ご確認ください」

「あ、ああ……ちょうどだ。お前! 今から、お前のご主人様はこの人だ。荷物を置いて、精々捨てられねぇように役に立つこったな!」

 上機嫌にそう言うと男性は近くにいた馬車へと向かって行った。荷物を運んでもらうつもりなのだろう。荷物を置いた彼は、男性の背中を見つめてから龍を見た。

「あんたが、今から俺のご主人様?」

「ご主人様になったつもりはない」

「じゃあ、なに? もしかして、女じゃなくて男好き? 性奴隷でも買っていつでも楽しめるようにとか? 女じゃ子供ができるし、男のほうが安心できるから? 痛いの嫌だから痛くしないでね」

「痛くしなければいいのか? って、そうじゃない」

 首を振る龍に彼は首を傾げた。奴隷を買う理由が他にあるのかと考える彼に龍は目を見つめて答えた。

「奴隷としてあんたを買ったつもりはない」

「なら、なんで?」

 純粋にどうして自分を男性から買ったのかわからなかったのだろう。奴隷として男性の元にいた彼を買ったのだから、同じように奴隷として扱われるとしか思っていないのだ。

「あんたは、俺が買ったことによって自由になったんだ。奴隷でもなくなったんだよ」

「どういうこと?」

 理解できないのだろう。彼がどのくらい奴隷として過ごしてきたのかは、龍にはわかるはずもない。あの男性の前にも彼を買った者がいたかもしれない。

 奴隷としていらなくなったから闇オークションで売られた可能性もある。もしかすると先ほどの男性が最初の主人だったのかもしれない。

「だから、あんたは好きな場所に行っていいってこと。家に帰るなり、奴隷になる前にいた場所に戻るなりしていいってこと。俺はあの時、あんたを救えなかった。だから、今奴隷から解放すべきなんだと思う」

 龍の言葉に彼は、悲しそうな表情をすると小さく息を吐いた。

「帰る場所はない」

「え?」

 普通であれば、帰る場所はあるだろう。以前住んでいた場所が誰にでもあるのだから。ツェルンアイのように特殊な者もいるかもしれないが、彼もそうだとは限らない。

「俺は、森で暮らしてた。狼の群れのリーダーとしてな。今は人よりの獣人の姿だけど、俺は狼にもなれる。それに、普通の獣人とは違うから力も弱い。普通の獣人は狼にはなれない。たぶん俺は、獣人女性にも力で負ける自信がある!!」

「そこに自信をもつなよ」

 思わず突っ込みを入れる龍に、彼は小さく笑い続けた。

「俺以外全員狼で、群れの仲間も妻も毛皮にするために殺された。俺は狼にも獣人にもなる珍しい存在として生かされた……だから、今の俺には、帰る場所はないよ」

「そうか……」

 悲しく笑う彼に、龍はそうとしか言えなかった。けれど、彼をこのままにしておくことはできない。小さく息を吐いて龍は口を開いた。

「なら、俺と一緒に来い。このまま放っておくこともできないし、家族として迎えるよ」

「家族。何処の誰かもわからないのにか?」

「今更だな。俺の家族はそんなこと気にしない。全員、血の繋がりがないからな」

 勝手に決めてしまったが、エリス達も彼を追い出すようなことはしないだろうと龍は思った。帰る場所のない者を追い出すのなら、ツェルンアイの時にしているだろう。

 彼女には白龍を助けてくれたということもあり、追い出すことをしなかったのだ。彼には家族として家に招く理由はない。それでも大丈夫だろうと龍は思っていた。

「そう……。で、『あの時』ってさっき言ってたけどいつのこと?」

「ん? 闇オークションで……」

「やっぱり、奴隷探してたんじゃないか」

 闇オークションと聞いて、彼は笑いながら言った。奴隷を買うことのできる闇オークションにいたということは、奴隷を買うためだったとしか思わないだろう。

「違う。家族が誘拐されて、あそこにいるって知ったから行っただけだ。まあ、あそこにはいなかったけど」

「じゃあ、その家族は……」

「見つかったよ。今は、別行動中」

 あそこにいなければ、家族は見つからなかったのだろうと思うだろう。しかし、見つかったという言葉に彼は安心したように見えた。

 もしも見つかっていなければ、その家族の代わりとして家族に迎え入れたのではないかと思ったのかもしれない。

「俺は、あの時売れなかったから1万スピルトでさっきの男が荷物持ちとして買ったんだ。他にも荷物持ちはいたけど、奴隷じゃなかったから人使いが荒くて辞めたんだよ、そいつ。俺を買ったあとすぐに海を渡って、こっちに来て荷物持ちとして働かされたけど、俺は力がないから文句ばかり言われてたよ。そう考えると、あんたに買われて良かったのかもな。5万スピルトも出してたけど」

「お前が自由になるための金額だったって思えば安いもんだろ」

 それは、龍の本心だった。彼が自由になるのなら、たとえ1万スピルトで買われた彼に、先ほどの男性が「10万スピルトをだせ」と言っていたとしても龍は躊躇うことなく渡していただろう。

「……ところで、名前は?」

「名前はご主人様がつけるもんだろ?」

「だから、ご主人様じゃない。元々の名前があるだろ? 俺の名前は龍。……狼の群れで暮らしてたから名前がないとか?」

 ツェルンアイにさえ名前があったのだから、彼に名前がないとは思えなかったのだ。全ての狼の群れの仲間に名前があるのかは龍は知らない。けれど、名前はあるだろうと思っていたのだ。

「いや、あるよ。サーチャだ。ウー・サーチャ」

「サーチャか。よろしく」

「よろしく、主人」

 龍が差し出した右手をサーチャは笑顔で握り返したが、龍を名前で呼ぶことはなかった。名前で呼べと言ったとしても、今のサーチャは名前で呼んではくれないだろうとわかっていた龍は何も言うことはなかった。

 先ほどの男性が馬車に乗る人物と何かを話している姿を見ながら、龍とサーチャは当てもなくアクアセルシス王国を歩き出した。













―――――

サーチャは奴隷ですが、鎖などはついていません。

初期設定では、口輪をしていたのですが、いらないやと外しました。

因みに、サーチャはこの話のプロットを書いている時に浮かんだキャラです。そのため、前回の闇オークションのプロットにはおりませんでした。

サーチャも、元々いるオリキャラですが、性格や設定などこの作品用に変更しております。

あと、とある設定もありますが、鷲獅子編で語ることができるはずです。

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