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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第六章 救出
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救出3








******






 扉が開いた音がして、誰かがゆっくりと階段を下りる音がする。入ってきた人は警戒しているようで、なるべく音をたてないようにしているようだ。警戒をするということは、あの男ではないのだろう。

 けれど、扉を閉めていないのか地上の音が大きく聞こえる。人の声や鈍い音など様々だ。警戒しているが、どうやら扉を閉めることを忘れてしまっている人に私は思わずくすりと笑ってしまった。

「大丈夫よ。ここに見張りをしている者はいないから」

「……そうか」

 本当に来たのが龍という人かもわからないのに、私は声をかけてしまった。あの男だとは思わなかったのと、白龍が「龍」と名前を呟いたから大丈夫だと思ったのだ。警戒しながらも返された言葉に、何故か安心することができた。悪い人ではない。そう思った。

「龍!!」

「白龍!!」

 返答を聞いて、牢屋の入口へ走りながら名前を呼んだ白龍の声に、すぐに返答が返ってきた。同じように牢屋へ走ってきた全身が黒い男。彼がきっと、白龍が言っていた龍なのだろう。私は初めて見るためわからないが、白龍の様子からわかる。どことなく白龍に似ているようには見えるが、兄弟ではないのだろうと何故か思った。

 鉄格子越しに龍が白龍を抱きしめると、白龍は嬉しそうに抱きしめ返した。いつ誰が来るかもわからなかったが、2人は暫く存在を確かめるように抱きしめあったままだった。







******






 階段を下りて扉を開いた先にも、5段ほどの階段があった。警戒をしながら、ゆっくりと階段を下りる。床はコンクリートになっており、小石を踏んだ靴がじゃりと小さな音を立てた。小さな音にすら誰かが来るのではないかと心配になったが、それよりもこの先からしている白龍の気配のほうが気になるのだ。

 扉を閉めることを忘れていたことに気がついたが、見張りが近づいてくる気配もないので、もしかすると見張りはいないのかもしれないと考えて、扉を閉めずに中へと進んで行く。絶対にいないとは言えないため、警戒することは止めない。

 気配は多くしている。だが、そのどれもが何かを恐れているように龍には感じとれた。ゆっくりと一歩を踏み出すと、何処からか小さく笑うような声が聞こえた。そしてすぐに聞こえた声は、笑った女性のものだということがわかった。

「大丈夫よ。ここに見張りをしている者はいないから」

「……そうか」

 言われた声に少し考えはしたが、信用できると思いそう答えた。声は思ったより近くから聞こえた。扉に近い何処かにいるのかもしれない。

 薄暗く、明かりもない地下がどうなっているのかわからない。まだ何処の部屋も、扉も見えないのだから。足音は消したまま、いつも通りの速さで歩こうと考えた時、突然知った声が聞こえてきた。

「龍!!」

「白龍!!」

 小さく走る音が聞こえ、龍もすぐに走り出した。大きな声だったが、すぐ近くから声が聞こえたような気がした龍は階段を下りた前にある通路を走った。

 左右に道はないので、この通路に見えている扉の近くにいる。そう思いながら走っていると、通路の右側に鉄格子が見えた。その鉄格子の斜め向かいにも、同じように鉄格子が見えた。それぞれ斜め向かいに、同じように鉄格子が並んでいる。通路の奥は見えないが、いったいどのくらいの数の鉄格子があるのだろうか。

 ――まるで、牢屋みたいだ。

 見えたそれに、そんな感想を持ったのと同時に、一つめの鉄格子の先にいた者に涙が出そうになる。牢屋に近づくと、ズボンが汚れることを気にすることなく両膝をついて鉄格子越しに抱きしめた。

 同じように抱きしめ返してくれるので、抱きしめる力が少し強くなる。そのことに何も言わない。痛くないはずはない。嬉しさのあまり、力を抜くことができない。それでも白龍は黙ったまま、龍を抱きしめ返すだけ。

 暫くそのままでいたが、龍が力を抜くと白龍も力を抜いて2人は離れた。しかし、龍の右手が上がり、白龍の頭に置かれてゆっくりと撫でた。

「よかった。怪我もなさそうで。……家に、帰ろう」

 今でも泣いてしまうのではないかという声で龍が言うと、白龍は声を出すことなく大きく頷いた。それを見て龍は、一度白龍に危ないからと言って鉄格子から離れてもらう。

 白龍はツェルンアイの元まで戻ると、鉄格子から一歩後ろに下がった龍を見た。龍は白龍のそばにいるツェルンアイを見たが、何も言わず左手を持ち上げた。そして、左手の上に右手を翳した。すると、右手の下に一本の大太刀が現れた。

 そのことに白龍とツェルンアイは驚いた。それもそうだろう。2人は、龍が左手の薬指にしている指輪のことを知らないのだから。龍は大太刀の柄を右手で掴むと、左手で鞘を掴み大太刀を抜いた。そして、鞘を軽く床へ向かって投げた。床に落ちた鞘の音が響いていたが、龍は気にすることなくゆっくりと息を吐いた。

 そして、力強く柄を握り、刃先を牢屋の扉へと向けた。扉には鍵のかかった和錠がついている。待っていれば、誰かが鍵を持ってきてくれるかもしれない。しかし、それを待っていたらいつになるのかわからない。今すぐ、ここから出してあげたいのだ。自由にしてあげたいのだ。

 目の前の牢屋の中にいる白龍を、今すぐに鉄格子越しなどではなく抱きしめたいのだ。体温を感じ、怪我がないことをしっかりと確認して、生きていることを直接抱きしめて感じたかったのだ。

 大太刀で斬れるとは思えないが、やらなければわからない。鍵が外れればいいのだ。ただ、それだけのこと。一度目を閉じる。次に目を開いた時、龍の目は赤く猫のような目になっていた。

 その目は、少し離れている白龍とツェルンアイからも見えた。薄暗い地下であっても、先ほどよりも赤く輝くその目。ツェルンアイはその目を見て小さく呟いた。

「綺麗……」

 あまりにも小さく呟いたため、その言葉は白龍にも聞こえていなかった。彼女の目は、龍からそらされることはなかった。

 右手と同じように、左手で大太刀の柄を握ると振り上げた。そして、振り下ろす。すると、抵抗なく和錠が斬れた。僅かに龍が驚いたのと、真っ二つになった和錠が床に落ちて甲高い音を立てたのは同時だった。

 それを見た白龍は、心臓が大きな音を立てた気がして首を傾げた。しかし痛みもないので、気の所為だと思い、それ以上気にすることはなかった。この心臓の痛みの意味に気がつくのは、まだ先の話。

「……まあ、外れたんだからいいか」

 そう呟いて、龍は鞘を拾い、大太刀を収めるとクリスタルに翳した。右手から大太刀が消え、クリスタル内に収まっていることを確認して牢屋の扉を押した。

 問題なく開いた扉に安心した時、前方から衝撃を感じた。それは白龍だった。龍の服を掴む白龍を見て、龍は白龍の頭に右手を置いた。すると、服を掴む手から力が抜けたので、龍は白龍の両脇の下に両手を入れて抱き上げた。

「何を我慢してるんだ? 今まで頑張ってきたんだから、我慢しなくていいんだぞ」

「りゅ、龍……りゅう」

「ああ。俺は、ここにいる」

 顔を見て言うと、白龍はしゃくり上げて龍の胸に顔をつけて泣きはじめた。白龍が落ちないように左手で支えて、右手で一度白龍を抱きしめてからあやすように背中を軽く叩く。鉄格子越しではなく、直接抱きしめることができて龍は小さく安堵の息を吐いた。怪我をしている様子もない。

「怖、かった……」

「うん。1人にしてごめんな。でも、守ってくれる人がいたんだろう?」

「うん。うん、いたよ。いた」

 ツェルンアイを見て言う龍の言葉に、白龍は頷いて答えた。龍がツェルンアイを見ていることは知らないだろうが、ツェルンアイに守ってもらっていたことを小さく呟いた。

 泣いているため途切れ途切れではあったが、白龍の言葉は龍にしっかりと届き伝わっていた。ゆっくりとツェルンアイに近づくと、龍は彼女の前でしゃがみ右膝を床についた。

「白龍を守ってくれてありがとう。怪我を治してあげたいんだが、生憎、俺は治療魔法が使えない。けど、一緒に来ている仲間が使える。申し訳ないが、もう少し治療を待っていてほしい。それと……その鉄の首輪を外すには鍵でなければ駄目だ。俺の刀で斬れるかもしれないが……俺は、まだ扱いが上手いわけじゃないからな。和錠が斬れたのは、古いものだったからだろう。その首輪は、まだ新しいもののようだし。それに鍵は仲間が探してくれてるから、もうすぐ外せると思う」

「助けるのは、白龍ちゃんだけじゃないの? どうして私のことも助けようとしてくれるの? 白龍ちゃんを守っていたから?」

 ツェルンアイの言葉に龍は首を傾げた。何故首を傾げるのかわからず、ツェルンアイも龍と同じように首を傾げた。数秒2人は同じように首を傾げていた。

 龍にとっては、何故そんなこと言われるのかわからなかったのだ。他の屋敷にいる奴隷は助けることができなくても、この屋敷に捕らわれている者達は白龍を助ける時に助けようと龍は考えていたのだ。

 もしかすると、エリスには無理だと言われるかもしれなかったが、スレイをここまで追い詰めておいて、白龍だけを助けて他は助けないということを龍はしたくなかったのだ。

「白龍を守ってくれたことは関係なく、助けるんだ。貴方だけじゃなくて、まだ奥にもいる人達のことも助けるよ」

 微笑んでそう言った龍に、ツェルンアイの心臓は大きな音を立てた。その音の意味をツェルンアイは知っていた。何故なら、それは一度は諦めたものだったから。

 ――この人が、私を救ってくれる人。

 白龍の仲間である龍が、自分を救ってくれる人だとはツェルンアイは思ってもいなかった。少しだけそうであればいいとは思ったこともあったが、本当にそうなるとは思っていなかったのだ。

 もしかすると、今の地上の騒がしさと関係しているのかもしれないとツェルンアイが思っていると、龍は抱き上げていた白龍の背中を軽く叩いた。すると、いくらか泣き止んだ白龍が龍の服から手を離した。

「白龍、俺は他の牢屋の鍵を開いてくる。ここで待っていてくれるか?」

「うん。……大丈夫。待つ」

「いい子だ。白龍をお願いします」

 白龍の頭を右手で撫でてツェルンアイに言うと、龍は立ち上がり牢屋から出た。他の牢屋の鍵を開けるため奥へ向かおうとした時、階段を下りる音が聞こえた。誰か、この屋敷に関係している者が来たのかと龍は思ったが、白美とラアットがいるのだからそれは無理だと考えた。

 黙って階段方向を見ていると、姿を現したのはリシャーナと『迷犬』だった。『迷犬』は龍を見つけると、足元に走り寄ってきた。その口には、白い毛玉がついた鍵をくわえていた。

「見つけてきてくれたのか。ありがとう。でも、なんでこの鍵、白い毛玉のイヤリングがついてるんだ」

 『迷犬』から鍵を受け取った龍は、鍵にイヤリングがついていることに首を傾げた。目立つようにと考えてつけたとしても、イヤリングにしている意味がわからなかった。龍が鍵を受け取ったことを確認すると、『迷犬』は一度小さく吠えた。そして鍵を渡したからなのか、『迷犬』は突然足元に現れた魔法陣の中に姿を消してしまった。

「鍵ってこれだけ?」

「ええ。一つだけ。その犬が見つけられなかっただけか、全部同じ鍵かのどちらか。……でも、牢屋の鍵はこれじゃないわね」

 落ちている和錠を見て言ったリシャーナだが、龍はそれでも構わなかった。先ほどと同じように和錠を斬るつもりだったからだ。どうやら、『迷犬』は一つの鍵を見つけて満足してしまったようだ。だから、他の鍵を探そうという考えはなかったのだろう。龍は持っていた鍵をリシャーナに渡した。

「俺は他の牢屋の鍵を開けてくる。リシャーナは彼女の首輪を外してくれるか?」

「わかった。外したら、他の子達のも外せるのかやってみるわ」

 そう言ったリシャーナの言葉に龍は頷いて、通路の奥へと歩いて行った。それを見て、リシャーナは白龍とツェルンアイのいる牢屋の中に入った。その右手には鍵が握られている。

「白龍ちゃん、久しぶり。怪我がなさそうでよかった。さて、今から私は貴方の首輪の鍵を外すわ。触ってもいいかしら?」

「構わないわ。もしかして、貴方は獣人に触りたくないの?」

「え? どうしてよ」

 本当にこの鍵で外すことができるのかと疑問に思いながら、リシャーナはツェルンアイの後ろに回った。首輪の鍵穴は首の後ろにあるのだ。前から見て鍵穴が見えなかったので、リシャーナはすぐにそこに鍵穴があることに気がついた。もしも何かの道具があっても、自分で首輪を外されないようにと後ろにあるのだろう。

 鍵穴に鍵をさしながら、どうして獣人に触りたくないと思われたのかと思い、リシャーナは尋ねた。余程汚いものでなければ、リシャーナは何であろうと触ることができる。嫌いなものは、触りたくないと思うことはあるけれど。場合によっては、嫌いなものや汚いものでも触ることもある。

「私に、触ってもいいかって聞くから……」

「それは当たり前でしょう? 知らない人に何も言われずに触られるなんて嫌じゃない。それに、貴方はここに捕われていたんだから、人に触られるのは嫌がるかもしれないと思ったの。……さあ、外れたわ」

 そう言われて、確かに触られるのを嫌がっていた声を聞いたことがあるとツェルンアイは思った。外れたというリシャーナの言葉に、ツェルンアイは自分の首にある首輪に両手で触れた。すると、それはすぐに外れた。久しぶりに軽くなった首に右手で触れる。

 首輪を自分の左に置いて、鎖のついた壁を見るとそれは首輪に繋っているだけで、今のツェルンアイには繋がっていなかった。漸く、自由になったのだ。

「それに、私も一応獣人だから、獣人に触りたくないって気持ちなんかないわ」

「そうなの……。ねえ、その鍵見せてもらってもいい?」

「いいけど、鍵はまだ使うからね」

 そう言いながら、ツェルンアイの首輪を外したため牢屋から出ようとしていたリシャーナは振り返り、ツェルンアイに鍵を渡した。

 鍵を渡され、ツェルンアイはそれについている白い毛玉を手に取った。そして、思っていた通りだと思い、一筋の涙が流れた。

「……もしかして、知ってる子?」

 ツェルンアイの様子から、白い毛玉が何かリシャーナは気がついて声をかけた。何も言わずにツェルンアイは頷いた。同じ群れにいた白い毛の狼だと、それを見ただけでわかったのだ。

 暫く黙って見ていたリシャーナだったが、優しくツェルンアイの手から鍵を取ると、鍵からイヤリングを外してツェルンアイに渡した。

「貰っちゃいなさいな。私は、その白い毛の子を知らないし、生きているのかも聞かないけれど、それならずっと一緒にいられるでしょ? その青い毛の子と同じでね」

 そう言って、リシャーナは右手の青い毛のブレスレットを指差した。何も言っていないのにそう言ったリシャーナに、ツェルンアイは何か知っているのかもしれないと思いながら何も言わなかった。

「でも、イヤリングじゃ落としちゃう」

「それなら、ピアスにしてあげる。そうしたら、落ちる心配もないでしょう? 耳に穴だってあけてあげるわよ」

「……どうして、そんなにしてくれるの?」

 鍵からイヤリングを外し、そのイヤリングをピアスに変えてくれると言うリシャーナに疑問に思ったのだ。

「白龍ちゃんを守ってくれたから。私は貴方の怪我を治すことができない。だから、その代わりにそれをピアスにしてあげるし、耳に穴だってあけてあげるの」

 そう言ってリシャーナは、白龍の頭を右手で撫でて今度こそ牢屋から出て行ってしまった。残されたツェルンアイは右手にイヤリングを持ち、牢屋の外を見ていた。

 そばに近づいてきた白龍が、ツェルンアイにくっつくと、もう大丈夫とでも言うように顔を見上げて笑顔を向けた。













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