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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第六章 救出
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救出2








******





 エリス達が2階へ行き、龍が地下へ向かった頃。ラアットは目の前にいる執事を吹き飛ばし、他に近づいてくる者がいないことを確認して呟いた。

「もういいだろう」

「え? なにが?」

 白美がメイドと執事を相手にしながら尋ねたが、ラアットは答えなかった。ラアットに近づく者がいないといっても、白美には向かってくる者がいる。代わりに目を閉じて、魔力を解放した。魔力の解放は、魔法を使う時よりも体力の消耗が激しい。そのため、余程の理由がなければ解放することはない。

 もしも敵に追われて隠れている時に、仲間に自分の居場所を知らせようとして魔力を開放したならば、仲間以外にも敵が来ることになってしまう。だが、それ以外にも魔力を解放する理由はある。たとえば、離れた場所にある魔法アイテムを使用する場合だ。それが一度だけ使うことのできる、爆発するものだったら、離れた場所から使用したほうが安全である。

 遠くから敵が近づいてきたことを確認して、魔力を解放して爆発させればいいのだ。今回ラアットがしたのは、これと同じこと。魔力を解放したことにより爆発させるものではないが、魔法アイテムを発動させるには魔力を込めなければいけないのだ。発動させるには、少しの魔力でいい。だから、ラアットが魔力を解放したのは一瞬だけ。白美以外の誰も気がつかなかったほどだ。

 ラアットが目を開くまでに、数人が目を閉じたラアットに気がついたのか向かって行こうとした。しかし、何かをしようとしているラアットに気がついた白美はメイドと執事が向かって行かないように攻撃をした。そして、突然の魔力の解放。驚いて目を見開いた白美は、近くにいた者を吹き飛ばしてゆっくりと目を開いたラアットに尋ねた。

「なにを……したの?」

「ん? 大丈夫。すぐにわかるよ」

 ラアットは白美の言葉に答えを言わなかった。すぐにわかると言ったラアットの言う通り、玄関扉の外が騒がしくなった。今まで静かだったのに、突然外が騒がしくなったことに白美は驚いた。向かってくる相手を凍らせて、軽く蹴り床に倒して割ることは忘れずに扉を見た。

 すると、壊れるのではないかと思う勢いで扉が開かれた。そこにいたのは20人ほどの自警団だった。格好から、ヴェルリオ王国の自警団だとわかる。だが、何故突然彼らが現れたのか。一番可能性が高いのは、ラアットが解放した魔力で何かをしたということだ。

「白美ちゃん、久しぶり」

「あな、たは……ガヴィラン・ジーテドー」

 自警団のリーダーである男が、そこには立っていた。笑顔であるガヴィランだが、彼がヴェルリオ王国を出るのは珍しいことだった。何故彼はここにいるのか、どうやって屋敷に来たのか。

 言葉にせずに黙って見つめる白美に気がついたガヴィランは、同じように黙って見つめた。だが、自分が見つめられている理由にすぐに気がついた。

「お前……言ってないのか?」

「何も言ってません。あれの存在を知っているのは龍だけですが、彼にも何なのかを話してはいません」

 その言葉にガヴィランは目を細めて、長い溜息をついた。どうやら呆れているようで、ガヴィランは右手をポケットに入れるとそこからあるものを取り出した。

 それは、青いビー玉だった。ラアットが持っていたもので、庭に投げたものだ。しかし、そんなことを知らない白美はそれを見せられてもわかるはずもない。それを見ていたのは、龍だけだったのだから。首を傾げて、白美はそれは何なのかとガヴィランを上目遣いで見た。

「これは、魔法アイテムだ。魔力を込めると、転移することができる。ただ、 試作品の所為なのか魔力を込めたほうに転移するんだ。対となる同じ魔法アイテムがあるが、魔力を込めてそちらに移動できればいいんだが……魔力を込めたほうにしか転移できない。魔力を込めなくても、少し触れる程度でも転移できるのは考えものだな……」

 魔力を持つ者は、自分自身でも気がつかないほどの微弱な魔力を常に放出しているのだ。その僅かな魔力にすら、魔法アイテムは反応してしまうのだ。

「リーダーは転移してすぐに俺の顔なんか見たくはないでしょう?」

「ああ。どうせなら、一番最初に見るのは白美ちゃんがいい」

「俺が許すはずないでしょ?」

 笑顔で言うラアットの言葉に、ガヴィランも笑顔を浮かべて見つめる。どうしたらいいのかわからない白美は、自警団の誰かに助けを求めようとしたが、誰も2人に関わりたくないようで、メイドと執事の相手をしていた。

「一度行った場所には行けるようなものだったらいいんだけどね」

「それって、犯罪者が持っていたら目の前で逃げられる可能性があるんじゃ?」

「……それは、困るな。でも、使うのに2人の人間が持っていないといけない。転移する時は魔力を込めるってのは不便なんだよな……まあ、触れてるだけでもいいんだけど、魔力を込めた方が転移するもの素早くできる」

 そう言ったガヴィランは右手に持つ青いビー玉を見つめた。2人の人間が持つということは、一つは誰かが持っているのか。今一つはガヴィランが持っているが、この屋敷に来る時にはラアットが持っていたのだ。

 もう一つはガヴィランが持っているのか。それとも、他の自警団の誰かが持っているのだろうか。黙って青いビー玉を見つめる白美に気がついたガヴィランは、青いビー玉を手にしたまま答えた。

「もう一つはヴェルオウルにいる俺の部下が持っている。帰る時は、これに一瞬だけ魔力を込めて帰るから魔力を込めろって教えるんだ」

 魔力を込めると、素早く転移することが可能となる。だが、対にそれを上回る魔力を込めると対へと移動することができるのだ。魔力を込めるとビー玉が光るため、それを合図として魔力を込めてもらい対に移動するのだ。

「帰る時は全員一緒でいいだろ?」

「あたし達は構わないよ」

 また馬車で時間をかけて帰るよりも、一瞬でヴェルオウルへ帰れるのならばそちらのほうがいいだろう。たとえ聞かれたのが白美でなくとも、同じように答えただろう。

「それにしても……ここに『浄化の力』を持っている奴がいればよかったのにな」

「え?」

 自分の足元に転がってきた首を、ガヴィランは躊躇うことなく拾い上げて言った。ガヴィランが首を持ち上げたことに、眉間に皺を寄せながらラアットは首を傾げた。

 何故、今そのようなことを言うのか。何を考えてガヴィランがそう言ったのか、ラアットは理解することができなかったのだ。白美にも理解できず、ガヴィランを見上げながら首を傾げている。

「いや、元々死んでいるといっても、首を飛ばすのは可哀想だろ。『浄化の力』があれば、首を飛ばさずに消滅させることができる。……腐敗してるけど、もしかしてこいつら生きてたりする?」

「いいえ、ここにいるメイドや執事達はすでに亡くなっています」

「そうか……」

 他の自警団のメンバーが眉間に皺を寄せながら、向かってくるメイドと執事達を倒す。その様子を見ながら、ガヴィランは小さく息を吐いた。たとえ生きていないとしても、人の形をしたかつては生きていた人間の首を、誰も飛ばしたいとは思わない。

 中には、頭にナイフを刺されたあとがある者も倒れている。戦争であっても人を殺したくないと思う者が多いのに、全員を倒さなければいけないことに思った言葉がガヴィランの口から出たのだろう。

 しかし、『浄化の力』を使える者は存在しているのだろうか。過去に使える者がいたと本に記載されていても、直接それを使っているところを見た者は誰もいないのだ。

「『浄化の力』を使える人なんて存在するの?」

「可能性としてはエリスだな。あの子は光関係の魔法、回復魔法、補助魔法が使えるからな。練習すれば使えるかもしれない。あとは、人ではないが白龍なら使えるだろうな」

「白龍ちゃんが?」

「そうだ」

 きっぱりと頷き答えたガヴィランは、昔何となく読んでいたという本に記載されていたことを話してくれた。

 『白龍』は攻撃魔法が得意ではない。自分を守る程度は使えるが、戦争などで戦うことは不可能なのだ。その代わり、回復魔法や補助魔法が得意なのだという。

 そして、一番得意なのは浄化だという。本に記載されているもののため、それが真実なのかはわからない。だが、『白龍』には『浄化の力』があるのだ。

 そのため、邪な心を持つ者には弱い。どんな『ドラゴン』達よりも弱く、すぐに体調を崩してしまうほどに。『浄化の力』を持っていたのは、いつの『白龍』かはわからない。

 しかし、今の『白龍』も『浄化の力』を持っている可能性が高いのだという。いつの『白龍』かというより、今までの全ての『白龍』が『浄化の力』を持っていた可能性が高いのだ。

「あの白龍は歌を歌うんだろ?」

「え? うん。雨乞いをする時に歌ってたよ」

「それだよ。『白龍』は『浄化の力』を使う時は歌うらしい。今は子供だからわからないが、大人になれば自然と使えるようになっているかもしれない」

 いつ大人になるのかもわからない白龍が、大人になれば『浄化の力』を使えるかもしれない。『浄化の力』は希少だ。今のような状況以外で使うことがあるかはわからないが、使える者が1人でもいればいいかもしれないと白美は考えた。

 すでに死亡している者が操られて動くということはあまりないだろうが、もしもそんなことがあれば『浄化の力』で戦わずして浄化することが可能なのだ。『浄化の力』は、死亡している者にしか効果はない。生きている者がそれを受けても、痛みは無いのだ。その代り、死亡した者が『浄化の力』を受けると肉体諸共浄化される。だから、もしものことを考えれば『浄化の力』があったほうが良いいのかもしれない。

「落ち着いたら、エリスちゃんに話してみるかな……」

 エリスは、練習をすれば使えるかもしれないとガヴィランが言っていたので、落ち着いたら話そうかと白美は呟いた。その呟きを聞いて、ガヴィランが思い出したように口を開いた。

「そういえば、エリスは?」

「ユキと黒麒と一緒に2階に行きました」

「そうか。それじゃあ、俺は用があるからエリスのところに行くわ」

 そう言ったガヴィランに、ラアットが何かを渡す。それを確認するガヴィランに、ラアットは何かを耳打ちした。

 すると、ガヴィランは目を見開いて一度頷いた。白美にはその顔はまるで、今にも泣きそうに見えた。一度大きく息を吐くと、ガヴィランは2階へと上がって行った。ついてこようとする自警団に、首を横に振りついて来なくていいと告げた。階段を上りながら1階を見下ろすと、多くのメイドと執事だった者が倒れていた。

 しかし、中には服だけになり姿を消している者もいた。ガヴィランはそれを見て、目を細めた。先ほどまで、そこには倒れたメイドや執事だった者がいたのだ。

 ――肉体が残らないほど前に死んでいる者もいるのか……。

 死亡してから長時間が経っている場合、動かなくなってから暫く経てば肉体は消滅する。しかし、服はそこに残される。もしかすると、ここにいる全員が服だけを残して消えてしまうのかもしれない。そう思って、ガヴィランはゆっくりと目を閉じたがすぐに目を開いた。

 階段に残るメイド服や燕尾服を踏まないように歩きながらが、ガヴィランは死屍累々としている方向へ進んで行く。そろそろ階段を上りきるという時、一つの部屋から1匹の犬が飛び出してきた。

 そこの部屋にエリスがいるのだと、ガヴィランはわかった。何故なら、その部屋からエリスの声が聞こえたからだ。犬は階段とは反対方向へ進み、隣の部屋の前で立ち止まると器用に二本足で立ち上がり、ドアノブに両手を乗せて扉を開いた。何故その部屋へ犬が入って行くのか、ガヴィランにはわからなかった。考えてもわからないのだから、気にすることなくガヴィランは部屋へと向かった。

 声がした部屋へと向かう途中、その部屋から出てきたリシャーナと会ったが、お互い何も言わずに軽く頭を下げただけだった。後ろからリシャーナの声が聞こえ、隣の部屋から犬が走って出てきた。ガヴィランの横を走り抜け、犬がリシャーナの元へと向かったことを確認して、部屋へと近づいたガヴィランはゆっくりと息を吐いた。

 部屋に近づくと、扉は開いたままになっていた。内開きの扉を、ガヴィランは一歩部屋に入り3回ノックした。すでに部屋に入っているし、姿も見られているのでノックをする必要はないのだが、一応礼儀として気にすることなくノックをした。

 口元に笑みを浮かべて扉をノックしたガヴィランを見たエリスは、まさかガヴィランがこの屋敷に来るとは思っていなかったようで驚いたようだ。

「貴方は……」









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