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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第三章 魔物討伐専門組織『ロデオ』
52/95

魔物討伐専門組織『ロデオ』3









******







 魔物討伐専門組織『ロデオ』。看板にそう書かれた建物には、数個の旗がついていた。何かのシルエットだが、風が吹いているため確認することができない。だが、何かの動物のように見えるそれは、この組織に関係する動物なのだろうか。

 それに、龍はこの建物周辺には見覚えがあった。3軒隣には、以前アレースと共に食事をした店がある。記憶を探ってみれば、確かにこの建物の前を通っていた。だが、あの時は気にすることはなかったのだ。

 魔物討伐専門組織『ロデオ』の扉に近いたエリスは、ノックをすることもなく開いた。すると、中にいた数人が同時に振り返った。ノックもなく扉を開かれたから驚いたのか、それとも仲間が帰ってきたと思ったのかはわからない。だが、入ってきたのは仲間ではないと気づくと気にしないというかのように、話に戻る者がほとんどだった。何をしに来たのかと、問いかける様子もなかった。しかし、数人が黙って建物の中へと入って来たエリス達に近づいてくる。

 その者達に声をかけられたのは、龍が扉を閉めたのとほぼ同時だろう。気にすることなく話をしている者達とは少々違い、まるでチンピラのような男達。馬鹿にしているかのような笑みを浮かべ、エリスをじろじろと見ている。

「ガキ共がこんなところに何の用だ? その魔物を討伐してほしいのか?」

「弱そうだな。俺達が剣を抜いたら、すぐに終わるんじゃねぇの?」

「まったくだ」

 爆笑。笑っているのは近づいてきた男達だけだ。他の人達は何か言いたそうに見ているが、何も言わない。それは、言っても意味がないからなのかもしれない。中には両手を合わせて、謝っているようなそぶりを見せる者もいる。彼らの行動が迷惑がられていると思っているのだろう。たしかに迷惑ではあるのだが、エリスは彼らに何も感じていないようなので、謝る人物に龍は苦笑いを向けるだけだ。

 笑う男は4人。1人は離れた場所にあるカウンターでお酒でも飲んでいるのか、見える横顔はほんのりと赤い。離れている男は、あえて近づいて来なかったのかもしれない。相手は覚えていないのかもしれないが、龍はしっかりと覚えていた。

 その男、名前はヴィシーデ。アイス売りに扮していた男だ。近づいてきた男達含め、4人は魔物を倒せればいいと考えているのだろう。もしかすると、カウンターに座っている男は違うのかもしれない。目の前にいる3人とは少々様子が違うように龍には見えたのだ。それに、その男の袖から僅かに見える痣のようなもの。彼はそれが原因で3人とつるんでいるのではないか。何故かそう思った。カウンターに座っている男から、3人へと視線を戻す。

 ――この4人が、この組織の汚点。そして、白龍を攫ったかもしれない奴ら。

 ずっと龍の後ろにいたリシャーナが小さく「こいつら」と言ったのを、龍は聞き逃さなかった。こちらが顔を知らなくても、リシャーナは組織の汚点の顔を知っているのだ。流石は情報屋だ。それとも、誰でも知っているものなのだろうか。それはわからない。

 彼女の言葉を、龍以外で聞いた者はいなかったようで、エリス達は建物内を見回していた。何かを探しているのか。きっと白龍であろうことはわかっているのだが、ここに白龍はいない。それは龍でなくてもわかっていることだ。だから、エリスの目的は別にあるはずなのだ。

 目の前にいる男達を一度睨みつけて、エリスが叫ぶ。

「白龍はどこ!?」

「白龍?」

 座っている男達が首を傾げながら仲間を見ている。誰もが知らないのだろう。首を振る者や、傾げる者がいる。白龍がヴェルオウルに来て数日は経っていたが、見た目はただの子供で白龍を知っている者はいないと言ってもいいだろう。もしかすると中には知っている者もいるかもしれない。何故なら髪も服も白い子供は目立つからだ。名前は知らなくても、見たことがある者はいるだろう。

 しかし、龍とリシャーナは気がついていた。エリス達は見ていなかったが、2人は見ていたのだ。近くにいる男3人と、酒を飲む1人を。

 彼らは音がするのではないかと思うほど、顔色が悪くなったのだ。彼らを見ていないエリス達は気がついていない。たとえ気がついていても、何も言わないのかもしれない。何故なら、エリスの目的は別にある。騒ぎが起こっていれば姿を現すであろう人物が目的だった。

「そ、そんなやつ知らねえよ!」

「そうだ! な、なんでここに来たんだよ!」

「人探しなら、他所に言えよ!」

 狼狽える男達に、龍は突っ込みを入れたい気分だった。まるで知っているとでも言いたげに慌てる男達。その反応に、他の男達は溜息を吐いたりしている。もしかすると、以前も何かをやっているのかもしれない。

「もしも、人探しの依頼で来たなら、別にここでもいいんじゃないのか?」

「そうだよな。なんかまずいのか?」

「う、うるせえよ! そんな楽な依頼じゃなくて持ってくるなら、やりがいのある依頼を持って来いってんだよ!!」

「何騒いでやがる」

 仲間の言葉にうろたえながらも反論する。白龍の名前を出した途端に態度を変え、どうにかして追い返そうとする男達だったが、低い声が聞こえたことにより黙ってしまう。男達体が僅かに震えているように見えるのは気の所為なのだろうか。

「ボス!」

「リーダー申し訳ないです。起こしてしまいましたか?」

「いや、構わねえ。それより……」

 ボス、リーダー。そう呼ばれた男は、2階から全員を見下ろしていた。彼の獣耳の少し上に、下方へ向かったあとに上方へ向かう湾曲した大きな角があった。どうやら彼は耳と角を見ると人よりの獣人のようで、寝起きだからなのか目つきが鋭く怖い。どうやら男達が震えているように見えたのは、リーダであるこの男が現れたからのようだ。部下だからなのか、やはり上司であるリーダーが怖いようだ。だが、怖いのは怒られるようなことをしているからなのだろう。いくらリーダーであっても、いつでも怖いということはないだろう。やましいことがあるのだ。

 リーダーは突然の侵入者であるエリス達を黙って見る。ゆっくりとそれぞれを見て、龍と目が合うとさらに目つきは鋭くなった。それでも龍は黙ってその目を見つめ返した。彼は怒っているでもなく、目つきの悪さはもしかすると元々なのかもしれない。

「……あんたら、上に来てくれ。それとアリエス、こいつらにお茶とお茶菓子を頼む」

「はーい」

 カウンターから聞こえる声。そこには小さな羊のような角を生やした1人の女性がいた。男がお酒のおかわりでも注文したのか、グラスに継ぎ足しているところだった。

「あんたら、そいつらのことは気にしないで2階に行きなさいな」

「ボスが呼んだんだ。遠慮しなくていい。カウンター横の階段を上ったすぐの部屋だ」

「つっても、部屋は一つしかないけどな」

 そう言う男達は、どうやらこれから仕事のようで地図を広げてお茶を飲んでいた。どこかへ魔物討伐にでも行くのだろう。他にも紙が貼られている依頼ボードの前に数人の男が立って何か相談をしたりしている。依頼をされると、依頼ボードに内容が書かれた紙が貼られるようだ。もしも、エリスが白龍探しの依頼をしに来たのなら、そこに依頼内容が書かれた紙が貼られるということだろう。そうなれば、いつ白龍が見つかるのかはわからない。

 龍は依頼ボードの前に立つ彼らの様子を見ながら、階段へ向かうエリス達から離れないようについて行く。3人の男は何かを言いたそうにしていたが、何も言うことなく1人でお酒を飲んでいる男の横に座り、カウンターにいるアリエスと呼ばれた女性にお酒を頼んだ。この時間からお酒を飲んでいるということは、彼らは今日依頼をこなす予定はないのだろう。

 エリスは階段を上り、左側にあるすぐの扉をノックした。すると、中から先ほどの男の声が聞こえた。ドアノブを回して中に入ると、そこは広い部屋だった。2階の半分はこの部屋だけのようで、どうやら彼の仕事部屋でもあるようだ。もう半分は手すりに区切られており、床すらない。2階から下の様子が見えるようになっているのだろう。

 部屋の中には大きなソファーが二つに、その間には一つのテーブル。そして、本がびっしりつまった本棚や彼の仕事机もあった。仕事机に向かっているのは先ほどのリーダーである男だ。

「そこのソファーに座ってくれ。ちょっとこの一枚だけは片付けさせてもらう。何、すぐに終わるさ」

 エリス達を見ずに言う男に、遠慮することなくソファーに座る。さすがに一つのソファーに座るには人数が多かったので、龍はエリス達とは違い右側のソファーに1人腰掛けた。彼が仕事を終わらせてこちらに来るまで何もすることがない。だが龍はそこであることに気がついた。自分の武器を持ってきていなかったのだ。攻撃方法は他にもあるのだが、忘れたことに気がついて両手で顔を覆う。何かあった時の為に、持ち歩いていた方がよかったのではないかと思ったのだ。

「何してるのよ」

 突然の行動にエリスが尋ねるので、龍は武器を持ってこなかったことを話した。だが元々病み上がりである龍を戦わせるつもりはなかったようで、持ってこなかったのは正解だと言われてしまう。

「姉ちゃんの言う通り、武器なんか持ってこなくて正解だ。もしも持ってきたら、俺の組織の奴らが攻撃してたかもしれないからな」

 たしかに、見知らぬ人物が武器を持って現れれば警戒するだろう。もしかすると攻撃されるかもしれないからだ。全員が武器を構え、話しなんかできなかったかもしれない。言われてみれば、武器を持ってこなくてよかったと思ってしまう。

 そして「こっちの姉ちゃんは、書類を盗み見ないでくれ。あんたに見られると、お金を出したら情報を売られるかもしれないからな」と言いながら男はリシャーナの手を掴み、ソファーに座らせる。

 龍の横に座らせたリシャーナの横に男が座る。もしかするとこれは、リシャーナが勝手に歩いて回らないようにと男が考えて真ん中に座らせたのかもしれない。先ほどの言葉から、彼はリシャーナのことを知っているようだった。

「さて。それで、白龍って子を探してるんだったか……」

「ええ。ここにいないってことはわかっているの」

「それなら、何故ここに来た」

 低い声。まるで怒っているように聞こえるその声に、白美が目を合わせ いないように俯いた。目つきの悪さから、少々怖がっていたのだが声の低さに、さらに恐怖を感じたようだ。

「恐がらせないであげて下さいよ」

「そんなつもりはない」

 この部屋にはいないもう1人の声が聞こえ、先ほど入ってきた扉を見るとそこにはアリエスがいた。どうやら男が言っていたお茶とお茶菓子を持って来たようだ。

 怖がる白美に微笑んでテーブルにお茶とお茶菓子を置く。お茶は抹茶のように濃い緑色をしていた。喉が渇いていたこともあり、龍は置かれたお茶を手に取った。一口飲んでみるとそれは抹茶ではなく、麦茶に近い味がした。和菓子というものはこの世界に存在しないのか、それともこれしかなかったのか、出されたのはクッキーだった。

 クッキーは甘さが控えめで、龍には丁度よかった。白美は甘い方がよかったようで、少々不満そうな顔している。

「あら、このお茶を抵抗なく飲む人を初めて見たわ」

「え? 美味しいですよ。お茶もクッキーも」

「あらあら、ありがとう」

 余程嬉しいのか、両手で頬を押さえて喜ぶアリエス。どうやら、両方ともアリエス自ら作ったものらしい。ただ、クッキーは組織の者達の好みにより甘さを控えめにしているようだった。だが、お茶がどうしても濃くなってしまうのは、色が薄いと味がしないからだという。抹茶のような濃さで、麦茶のような味がするとは一体どんな茶葉を使っているのかと思った龍だったが、茶葉には詳しくないため言われてもわかりはしないだろう。

 龍の言葉にエリス達も恐る恐るお茶を一口飲む。すると、見た目とは違う味に驚いたようで目を見開いた。色にしては、味が薄いのだ。飲めば、誰もが一度は驚くだろう。

「それで、ここに来た本当の理由は何だ?」

 お茶を一口飲み問いかける男に口を開いたのはリシャーナだった。彼女が情報を持って来たのだから、自分から話そうと思ったのかもしれない。

 エリス達に話したように男とアリエスに話す。するとアリエスは胸ポケットから手帳を取り出し、何かを確認し始めた。男は黙ってそれを見ている。

「その日は……そうね、スインテ、グスティマ、ルスディミス、ヴィシーデの4人が個人的にされた依頼をこなしに出掛けているわ。それも2日続けて」

「2日続けてか。何の依頼かはわかるか?」

 首を横に振ることでわからないことを教える。個人的にされた依頼をこなしに出掛けることは告げられていたが、内容までは知らないのだ。出掛ける時間を告げるのは、何かあった時にどこにいたという証明になるかもしれないからだ。男は暫し考えると口を開いた。

「4人を呼んで来てくれるか」

「了解、リーダー」

 そう言うとアリエスは静かに部屋を出て行った。階段を下りる音が聞こえる。そして、何かを話す声も聞こえたが内容を聞き取ることはできなかった。

「正直、攫ったか攫ってないかと言われると、あいつらがその白龍って子を攫った可能性はかなり高い」

「どういうことですか?」

 男の言葉に尋ねた黒麒だったが、男が話す内容を聞くと、やはり彼ら4人はこの組織の汚点だとしか全員思えなかった。

 スインテ、グスティマ、ルスディミスの3人は魔物討伐組織『ロデオ』が結成されて間もなく入った者達だった。3人は一緒に組織へと入り、依頼も一緒にこなしていた。風邪や怪我などの理由がない限りはいつも一緒だった。

 彼らの考えは、組織には合わないものだった。そして、決まり事にも反するものだったのだ。他の組織と同じように、彼らは魔物であれば使い魔であろうと討伐するという考えを持つ者達だった。

 しかし、この組織には使い魔の討伐依頼は決してこない。たとえ来たとしても、依頼主本人が持ってくることが多いため、その場合はアリエスが依頼を引き受けないのだ。

 そのため、そのような依頼は他の組織へと持ち込まれるのだ。ただ、そのような依頼を受けないこの組織が少々変わっているのだ。使い魔や害のない魔物は討伐しない組織は他にも少ないがあるにはある。

 組織は全て、国に認められたものだ。だが、認められたあとの組織内を知ることはできない。それが、たとえ国王であってもだ。だから多くの組織はそれをいいことに、依頼なら何でも受けるのだ。それでも受けない組織は、今でも国王から信頼されている。組織内を知ることはできずとも、噂として聞くことはできるのだから。国王からの依頼もそのような組織には来るため、建物は他の組織と比べると立派でもある。龍は知らないが、魔物討伐専門組織『ロデオ』の建物はわりと大きい方である。結成された当初は、西の方にありログハウスのような建物だった。だが、ヴェルオウルの中心近くに空いた土地があったためそこに新しく建てたのだ。

 そんな西の方に組織があった頃、何故3人はここに入ったのか。ルールに従わないどころか、求める組織の決まりとは違いすぎるのではないか。この3人は、ただ他の組織に入れなかっただけだ。入りたいと思っていた組織はどこも人が多く、建物にすら入ることができなかったのだ。しかし、この組織には他の組織より人が少なかった。他の組織に人が多く行っていたことと、当時『ロデオ』は新人を募集していなかったことが関係していたのだ。

 『ロデオ』に来ていた人の多くは依頼主で、他の組織は新人募集を見てやって来た者が多く頼むことができなかったために来ていたのだ。あまりの多さに3人も組織に入ることができず、渋々『ロデオ』にやって来たのだ。3人は『ロデオ』でのルールを守ればいいと言われて、新人を募集していなかったのだが特別に入れてもらったのだ。しかし、彼らは決められていたルールを守っていなかった。

 守っていたのは最初だけだったのだ。3人は『ロデオ』にくる依頼だけでは満足できなくなっていたのだ。元々は別の組織に入ろうと考えていたのだから、仕方ないのかもしれない。それならば、他の組織に入り直せばいいのだが彼らはしなかった。何故なら、誰にも横取りされる心配が無いからだ。彼らは依頼をしようとしていた者や、アリエスに断られた者に話しかけて依頼を受けていたのだ。他の組織の場合、依頼を引き受けられ他の者に取られてしまう可能性が高い。だが、『ロデオ』ではそれはない。だから、彼らはルールを破りながらも『ロデオ』に居続けたのだ。

 あの人が憎いから殺してくれ。

 あの魔物がいなければ、あの子は自分を見てくれる。あの使い魔を殺してくれ。

 可愛い可愛いあの子を連れて来てくれ。私が幸せにしてあげる。

 どれもこれも犯罪だ。しかし3人は、それを誰にもバレないようにこなしていたのだ。しかし、ずっとバレずにいるのは不可能に近い。組織の仲間達に依頼主と話しているところを何度か見られるようになったのだ。

 それを見て黙っている者はいなかった。本人達に言っても意味がない。だから全員がリーダーに伝えていた。リーダーも何度か問い詰めたのだが、はぐらかされていた。依頼主と話しているところを見たというだけで、本当にその依頼をこなしたという証拠もないため追及することができなかったのだ。

 しかし、目撃したという話は決して途切れることはなかった。そうして、リーダーは行動に出た。戦闘員ではないアリエスに3人の監視を頼んだのだ。彼女は戦闘員ではないが、情報収集能力に長けていた。戦うことのできない彼女に、組織内の者であっても油断してしまうのだ。何かまずいことがアリエスにバレれば、戦闘能力のない彼女を消してしまえばいいだけなのだから。だから近くにいても気がつかずに話してしまうのだ。気がついた時に消せばいい。そんな考えなのだろう。アリエスの能力を知っている者は少ない。そのため、油断してしまうということもある。アリエスの能力を話さないのは、わざとでもある。

 そしてもう一つ、彼女が情報収集能力に長けている理由がある。それは、彼女は鳥と会話ができるということだ。羊である彼女は羊と会話ができる。しかし、それ以外の能力が鳥との会話。戦闘能力の代わりに持っている能力なのだろう。

 人よりの獣人であろうと、獣よりの獣人であろうと、自分と同じ種類の動物とは会話ができる。だが、それ以外の動物とは会話ができない。しかし鳥と会話ができる彼女は、鳥達に監視を頼むこともあった。毎回自分が行くと、監視していることがバレてしまうからだ。

 鳥達がもたらす情報。それは誰かに聞かれているという心配がないためなのか、依頼内容を話してばかりだった。

 子供を誘拐したや、誰かを殺したなど。『ロデオ』という組織には相応しくないものばかりだった。最近では、新入りであるヴィシーデも巻き込んでいたようだ。どちらかというと、彼は嫌がっていた。しかし、断ると暴力によって従わされていたのだ。誰かに言うと、暴力を振るわれると思い誰にも言えずにいたのだ。放っておくことはできないので、話をして相応しい処置をしようと考えていたところにエリス達がやって来たのだ。

「俺がもっと早くどうにかしていれば、こんなことにはならなかったんだろうな」

「そうね。貴方はここのリーダーなんだから、決まりを破っている彼らに罰を与えなくてはいけなかったの」

 きつい一言。だが、エリスのその言葉に何も返さない。本人もそう思っているのだろう。たとえ決まりを守っていなくても、彼にとっては仲間なのだ。罰なんか与えたくはないだろう。

 たとえ、彼らが誘拐した子供の親や、家族や恋人を殺された者達が組織に乗り込み、リーダーである彼に責任を負わせるようなことになったとしても、彼にとっては仲間なのだ。リーダーとして守りたいと思ったのかもしれない。

「連れて来たわ」

 ノックの音が響いて静かに開かれた扉。アリエスが入ってくると、その後ろには大人しく4人がついて来ていた。だが、それだけではなかった。1階にいた組織の者達がぞろぞろと入って来たのだ。その顔はどこか怒っているようであったが、エリス達にではないことが視線からわかる。

 彼らの視線は4人、特に3人へと向けられているのだ。4人が大人しくしているのは、もしかすると彼らが逃げないようにと無言の圧力をかけているからかもしれない。同じ組織に所属しているからこそ、個人の強さと怖さを知っているのだろう。

 部屋に入りきらない人数がついて来ているようで、もしかすると1階にいた全員が集まっているのかもしれない。つれて来られた4人は、仕事机を背にしてリーダーの方を向き横一列に並んで黙っている。彼らの周りには逃走防止なのか、部屋に入って来た時も近くにいた男達が囲むようにして立っている。

 まるで自分が睨まれているとでも感じたのか、白美はソファーに小さくなっている。その頭には獣耳が生え、伏せられている。横に座っている黒麒と悠鳥が、安心させるためなのかその頭を撫でている。黒麒の横に座っているエリスは、ただ黙って男達を睨みつけている。仄かに赤い顔の男達。お酒を飲んでいたので、暴れないとも限らない。

 多くの者達が男達を見ているので、龍は冷静に部屋を見渡した。酸素欠乏症になるのではないかと思うほどの人数がおり、数人と目が合う。そして気がつく。獣人がいないのだ。組織のリーダーとアリエス以外は全員人間。何故獣人がいないのかと驚いてリーダーとアリエスを見る龍に気づいていないのか、リーダーは男達へ話しかけた。

「ここに呼ばれた理由はわかるな」

「……はい」

 ヴィシーデが返事をしたが、3人は何も言わずに俯いている。どうにかして逃げられないかと考えているのかもしれない。だが、仲間達に囲まれ目の前にはリーダーがいるのだから、逃げることはできないだろう。

「お前達が、ここの決まりを守っていないことは知っている。はぐらかされたこともあるしな。だが、こいつらからお前達の話が尽きない」

 リーダーの男はこいつらと言って、周りにいる者達を示す。周りの男達は頷いている。中には腕を組んでいる者もおり、正直怖いと白美でなくても思うほどだ。

 死線をくぐり抜けてきた者も多いのだろう。多くの者達が、顔や体の見える場所に怪我をしている。だが、『ロデオ』が結成されて間もなく入った3人は、どこにも怪我をしているようには見えない。どちらかというと、新入りであるヴィシーデの方が怪我をしている。

 刀傷もあれば、中には打撲痕もある。そして、袖から僅かに見える痣は掴まれた跡なのだろう。余程強く掴まれなければ残りはしない。それらが3人から受けた暴力の痕なのだろう。3人に従っていても、暴力を振るわれているらしい彼は、きっと3人にとっては言うことを聞く人形であり、一方的な訓練相手となっているのかもしれない。

 1人1人を相手にするのか、もしくは3人同時に相手をするのか。それは訓練というよりも、ただのいじめだ。

「単刀直入に聞こう。白龍はどこだ 」

「……」

「正直に話せ!」

 黙っている4人に、近くにいた男が怒鳴る。その声を聞いてヴィシーデは両手で頭を抱えてその場にしゃがみ込む。彼の様子から、もしかすると彼は白龍がどこにいるのかはわからないのかもしれない。何故なら、白龍がいなくなった時彼はエリス達の目の前にいたのだから。ヴィシーデもグルだったのだろうが、白龍をどこかへ連れて行ったのは残りの3人なのだろう。

 そう思ったのはどうやら龍だけではないようだ。リーダーや仲間達も同じように思ったようだ。近くにいた男が、震えてしゃがみ込むヴィシーデの腕を掴み立ち上がらせると引き寄せた。何かあった時3人から暴力を振るわれないようにしたのだ。ヴィシーデを引き寄せた男が、そのまま彼を連れて部屋の外へと向かって行った。

 俯きながらもそれを見ていたのだろう。スインテがゆっくりと顔を上げた。多くの者が連れて行かれるヴィシーデに意識を向けたことに気がつき、その口元に笑みが浮かべたのだ。何故笑みを浮かべたのか。その意味がわかる前に、龍は体が動いていた。それは、龍だけではなく黒麒達もだった。

 エリスの近くに立っていたグスティマとルスディミスが、エリスを捕らえようと動いたのだ。笑みの意味は反撃ができると確信したからだ。人質を取り、この場から逃れようとしたのだ。しかし、エリスを捕らえることはできなかった。黒麒がエリスを抱き寄せ、悠鳥がテーブルに乗り上げ勢いを殺すことなく自らの右足でルスディミスの頭を鷲掴みにして床に勢いよく押しつけたのだ。鈍い音がしたが、誰もルスディミスを心配することはなかった。

 悠鳥と同時に動いた白美は、エリスに手が届く前にグスティマの手首を掴むと、そこから体を凍りつかせたのだ。首から上だけは動かすことができるが、それ以外を動かすことは不可能だった。

 そして龍は、スインテの腕を捻り上げて背中に回ると、俯せに床に押し倒してその背中に体重をかけて膝で押さえつけた。スインテはエリスを狙わなかった。その代わりに、彼の目の前にいた自らが所属する組織のリーダーを狙ったのだ。

 リーダーは決して油断していたわけではない。自らが動く前に龍が反応したため動かなかったのだ。自分も動いたら、もしかすると龍に怪我をさせてしまう可能性があったのだ。だから大人しくソファーに座っていたのだ。

 周りにいた男達も同じだ。エリスを捕らえようとした2人を押さえる前に、白美達が動いたため手を出さなかったのだ。まさか自分達より早く動くとは思っていなかったようで、驚きを隠せないようだ。それに、自分達のリーダーを守ってもらうという考えもなかっただろう。白美達が瞬時に動いたのは、自分達の主を守るための行動でもあるが、主ではなくエリス個人を守るための行動でもあった。

「……いや、驚いた。まさか守ってもらうとは、助かったよ。ありがとう」

「いえ、反射的に動いただけですのでお礼はいらないです」

 スインテを睨みつけたまま答える龍に、リーダーは自分の横を見た。そこにはリシャーナが背中をソファーの背もたれにくっつけて座っていた。飛び出そうとした龍に気がついて、邪魔にならないように避けたのだろう。

「さて、……白龍はどこだ」

 ソファーから立ち上がり、リーダーは3人を睨みつけて言う。視線で人を殺すことができるのなら、この3人は何度死んだことだろうか。流石にその視線には恐怖したようで、龍が押さえる体が小さく震えた。

「た、頼まれて……」

「攫い……ました」

「誰に頼まれた! どこに連れて行った!!」

 さらに体重をかけて、スインテの顔を覗き込みながら言う龍の目はまるで猫のようだ。それが本来の獣型である『黒龍』の瞳。怒りから目だけが変化しているのだ。周りに人がいなければ翼を広げ、ここが外であれば『黒龍』に変化していているだろう。

 血のように赤い目が、スインテには光って見えた。恐怖から歯がガチガチと震える。

「きき、き、金髪の、男。そ、そうだ。あれは、国王だ……っ」

 スインテは先を言うことができなかった。黒麒の腕から逃れ、立ち上がったエリスはスインテの元まで歩いて行くと、横っ面を右足で蹴ったのだ。少し手加減をしたようだが、怒りのためその顔は笑顔だった。

 文句を言おうと顔を上げたスインテは、笑顔のエリスを見て固まってしまった。本能でこれはやばいと感じたのだろう。震えはさらに酷くなる。

「あのね、国王がそんなことを言うはずないのよ。だって国王は、毎日白龍に会っていたんだもの。それなのに誘拐っておかしいわ。それにね、貴方は何故か知らないお馬鹿さんみたいだけれど、国王は……アレースは私の実兄なの。会いたければいつでも会えるのよ。……さあ、真実を話しなさい。さもないと、龍にその腕を折らせるわよ」

 腕を捻り上げている龍の力が強くなる。エリスに言われれば、本当に折るつもりなのだ。誰も止めようとはしない。家族が誘拐され、誘拐した本人が目の前にいれば誰だって怒りをぶつけたくなるものだ。

 それをわかっているから誰も止めないのだ。言うか言わないかを悩むスインテ。腕が嫌な音をたて、痛みが強くなる。このままでは本当に折られると思い、口を開こうとした時、別の人物が口を開いた。それは悠鳥に床に押しつけられていたはずのルスディミスだった。

 しかし彼は、今は鎖に縛られ床に座っていた。それは白美によって凍らされていたグスティマも同じだ。仲間の誰かが持ってきたであろう鎖。それによって2人は鎖を解くことも、逃れることもできないようだった。

「金髪の男だったのは本当だ。だけど、名前は知らない。大金を払ってくれたから、名前も聞かなかったんだ」

「それで、どこへ連れて行ったのじゃ?」

 腕を組んで問いかける悠鳥に答えたのはグスティマだった。もうはぐらかすことも、しらばっくれることも黙ることもするつもりはないようだ。

「西……ウェスイフール王国だ」

「なんですって!?」

 両手で口を押さえて驚いた声を上げたのはアリエスだ。ウェスイフール王国がどのような国か知らない者はあまりいない。そのため、驚いて声が出たのだ。

 近隣国で唯一未だに奴隷がいる国でもあり、現在国王がいないため奴隷禁止制度を決定できずにいるのだ。奴隷禁止制度が決まる前に姿を消した国王。奴隷禁止を嫌がる民衆も少ないがいるのだ。その者達に殺害されたのではないかという話もある。

 衛兵や自警団も今では役に立たず、どうすることもできないのだ。国王の口から奴隷禁止制度を告げなくては成立せず、新しい国王を決めればいいのだが、なりたがる者はいなかった。

 それもそのはず。王族の血を引く者や、貴族達の多くは奴隷を家に置いているのだから。国王になるということは、それらを手放さなくてはいけないということ。それが嫌なのだから、誰もなりたいとは思わないのだ。

 一般の人間が国王になれるとしても、誰もならないだろう。それこそ殺される可能性が高い。だから、ウェスイフール王国は未だに国王がいないのだ。

 そんな国へ連れて行かれれば、どうなるかはわかりきっていた。多くの者が奴隷となる。中には家族のように接する者もいるが、それは一握りだ。

「ウェスイフール王国ってことは闇オークションね」

「……そうだ」

 返事を聞くとエリスは何も言わずに扉へと向かった。扉までの道を男達は何も言わずに開けてくれる。白美達も後ろに続き、スインテを鎖で縛る男達を見て龍も白美達に続いた。その後ろにはリーダーとアリエス、そして数人の男達がついて来た。

 階段を下り、扉を開こうとしたエリスにリーダーが声をかける。扉へと伸ばされていた手を下ろすとエリスは振り返った。その顔は怒りをおさえているようで、目つきが悪かった。

「あいつらは自警団に突き出す。だが、ヴィシーデは……」

「逆らえなかったのだから、彼は仕方がないもの。その代わり、白龍が戻ってきたらアイス奢ってもらうわよ」

「ああ。伝えとく。……そういえば、名乗ってなかったな。俺はウォーヴァー・ファロッターだ。何かあれば声をかけてくれ、無償で手をかそう」

「それは助かるわ。……あ、そうだ。国王の顔を知らないなんておかしいわよ。今の国王は顔を隠していないもの。自分の国の国王の顔はちゃんと覚えていないと」

「俺も、まさか知らないとは思ってなかったんだよ。悪かったな」

「まぁ、いいわ。他の人は国王の顔も、私の実兄であるということも知っていたみたいだし。……それじゃあね」

 そう言って、今度こそ扉に手をかけて開いた。最後に建物を出た龍は、ウォーヴァー達に頭を下げた。アリエスと、数人の男が手を振っていた。強面の男が多いが、『ロデオ』に所属している者達は見た目とは違い優しい者が多い。始めは怖がっていた白美だったが、手を振る彼らに手を振り返している。

 魔物討伐専門組織『ロデオ』を出たエリスは振り返ることもなく黙って歩いていた。誰も声をかけることをしない。エリスが何かを考えているとわかっていたからだ。『ロデオ』が見えなくなると、白美は手を振ることを止めてエリスの横に並んで歩く。考え事をしているエリスが、何かにぶつからないようにと注意しているのだろう。

 考えながら歩くエリスが向かっているのは自宅ではない。人があまり歩いていない道へ来ると漸く立ち止まった。突然立ち止まっても、誰にも迷惑がからないような場所だ。歩いている人はいるのだが、距離があるのでぶつかる心配もない。立ち止まったエリスは振り返ると、龍の目を真っ直ぐ見つめて口を開いた。

「ルイットへ連れて行って」

「ルイットに?」

「ええ。サトリに会いに行くわ」

 そう言ったエリスの目は力強く、何かを決心したように見えた。何故サトリに会うのかは誰もわからなかった。だが、エリスには何か考えがあるのだろうと思い、その目を見て龍は無言のまま頷いた。ルイットへ連れて行ってということは『黒龍』にならなければいけない。しかし、『黒龍』になるためには広い場所へ行かなければいけない。

 そんな場所はあまりない。それをわかっていながら、エリスは言っているのだろう。『黒龍』になれるほどの広い場所。ここから一番近くにある広い場所は、城の庭くらいだろう。エリスもそれがわかっているようで、城へ向かって歩き出した。元々龍に頼むつもりだったのか、向かっていたのは城がある方角だった。

 自宅の方からも行けるのだが、どうやらここからだと別の道が近いようだ。誰も何も話さず城へと向かう。たとえ国王が実兄であるアレースであっても、庭を勝手に使っていいのかと疑問に思う龍だったが、白龍探しのためでもあるのだから怒りはしないだろうと思った。もしも誰かがいれば、声をかければいい。そう思いながら、城を目指したのだった。









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