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転生召喚『黒龍』記  作者: 緑楊 彰浩
第七章 記憶と
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記憶と2









******







 城を見上げていたエリスと龍の目に国王が映った。ビトレイに追い詰められているようで、エリスは目を見開くと龍の服を強く握り引っ張った。

「今すぐ私を連れて、あそこへ飛んで!!」

 右人差し指で城を示すエリス。抱えて連れて行けばいいのかと思った龍だったが、先にエリスが後ろから龍におぶさった。首を絞めないように気をつけながら、両手を首に回す。

 翼を動かすのに邪魔にはならないが、国境戦争以来空を飛んではいない。それでも、エリスが飛べと言ったので龍は翼を大きく広げると羽ばたかせた。

 周りで炎を消していた人達が突然の羽ばたき音に何事かと龍を見るが、彼は地面を蹴ると強く翼を羽ばたかせて城へと向かって飛んだ。久しぶりに飛んだが、飛行に問題はなさそうだ。背中に乗っているエリスを気にかけながら、龍は城を見つめた。

 エリスは街を見下ろしていたが、すぐに視線を城へと向ける。彼女の視線の先にいるのは国王だ。翼を羽ばたかせた龍も国王へと視線を向けた。見上げるかたちとなるが、ビトレイの剣が振り下ろされる瞬間を2人は目撃した。龍とエリスの目が同時に見開かれた。

「龍! 急いで!!」

 エリスの叫びと同時にさらに強く羽ばたいた。少し速度は上がったが、すぐに国王の元へ行くことはできない。焦りすぎて、落下しても困るので今の速度を保ちながら急ぐ。

 ビトレイに斬られ、柵にぶつかり落下する国王。スカジとビトレイの笑い声が2人の元にも聞こえてきたが、龍は落下する国王の元へとたどりつくと空中で両手を差し出して受け止めた。

「アレース! しっかりして! アレース!!」

 背中からエリスは身を乗り出して、龍の腕の中で意識を失っている国王へと声をかけるエリス。エリスの口から出てきた名前は龍も知っている名前であり、龍も見知った人物のものだった。

 つけていたベネチアンマスクは落下した時に外れ、そのまま地面へ落ちて割れてしまっていた。そのお陰で、国王の顔は見えるようになっていた。エリスの言うとおり、それはアレースだった。

 斬られた場所からの血が止まらないアレースに、龍は燃えている地上より、燃えていない屋上へと向かった。スカジとビトレイがいるが、燃え盛る地上よりは安全だと判断したのだ。

 2人から離れた場所に降り立ちアレースを静かに下ろすと、背中から下りたエリスがアレースに治療魔法をかける。その様子を見てから龍は周りを見渡した。地上よりは安全だと判断したが、屋上に降りてこちらの方が危なかったのではないかと龍は思った。

 様子のおかしい近衛兵やメイドや執事達。一目で操られているのだとわかる。あの時の3人のように向かっては来ないが、目が据わっているのだ。アレースを治療するためにはここへ降りるのが正解ではあったが、状況はよくないようだ。

 龍は一度瞬きをして、ゆっくりと2人へと向く。赤い目で睨みつけると、スカジは楽しそうに笑みを浮かべた。しかし、ビトレイは睨みつける龍に恐怖を感じたようで、一歩後退りをした。

「お前ら!!」

「こんばんは。知っている方を守れず八つ当たりですか?」

 笑うスカジに龍は無言で刀を抜いた。右手に太刀、左手には小太刀を持ち2人を見る。その目が、怒りにより先ほどよりも赤く輝く。

 たとえスカジに向かって行ったとしても、剣を持つビトレイが龍の相手をするのだろう。一歩後退りをしたビトレイの目は、今は戦うことに喜びを感じているのか生き生きとしている。

「仇討ちでもしようっての? そんなタイプには見えないのだけれど……」

「仇討ちじゃない。アレースはまだ生きている」

 生きていると言われてビトレイは、龍の後ろにいるエリスが治療しているアレースを見た。たしかに生きていた。意識はないようだったが、呼吸はしている。まさか生きているとは思っていなかったようで、僅かに驚いて目を見開いた。

 斬られる時に後退りをして傷口を浅くしたのだろう。それでも意識を失うほどの怪我と出血だったのだ。もし、後退りをしていなければ即死だったのかもしれない。落下したのは、後退りしたことに加え、斬られた衝撃により柵にぶつかったからだろう。

「それじゃあ、選手交代ってことね」

 言うと同時にビトレイは龍へ向かって走り出した。向かってくるビトレイと正面から向き合う。もし避けたら後ろにいるエリスとアレースに当たってしまうかもしれない。

 それならば、剣を受け止めるだけ。振り下ろされる剣を二本の刀で受け止める。腕にまで受け止めた衝撃が伝わる。ビトレイの力に押されて一歩下がるが、踏ん張り剣を弾き飛ばす。

 楽しそうに笑みを浮かべるビトレイだが、龍はそれどころではなかった。剣を受け止めたときの衝撃で、両腕が痺れているのだ。彼の細い腕を見て、どこからそんな力が出ているのかと疑問に思ってしまう程だ。

「反撃はしてこないの?」

 そう言うが、反撃の隙を与えてはくれない。同じように剣を振り下ろしてくるので、受け止めると今度は左足に力を入れて、右足でビトレイの腹を蹴り飛ばした。武器だけで戦えとも、戦うとも誰も言っていないのだ。足を出したって構わないだろう。そう思っての攻撃だ。それに、刀だけで戦っていたら先に龍が腕に力が入らなくなってしまうだろう。刀が弾き飛ばされてしまうことが目に見えている。それならば、使える足を使わない手はないだろう。

 まさか蹴られるとは思っていなかったのだろう。ガードをすることもなく、蹴られたために握っていた剣から力が抜ける。手加減なく蹴られたため、スカジの横へと蹴り飛ばされたビトレイは、手から剣を落として膝をついた。スカジは両腕で腹を抱えて咳き込むビトレイに一度視線を向けたが、ゆっくりと歩み寄る龍を見て笑みを浮かべた。

「まさか、あの時街で見た貴方がここまでできる存在だとは思ってもいませんでしたよ」

「あの時?」

「ええ。あの時はすぐに『黒龍』の姿になってしまいましたがね」

 立ち止まった龍はその言葉で、いつのことかすぐにわかった。まだ人型を保つことができなかったとき。買い物に行きたいと言ったエリスの言葉に、どうにか人型となり図書館から初めて出たあの日のことだと。

 図書館の坂を下りた時に感じた刺すような視線。その視線を感じて、人型から獣型となった。スカジはその日のことを言っているのだ。あの時は、あの場に人が多くいた。スカジの姿を見ることはなかったが、彼の言葉からあの場にいたのだろうことがわかる。

「時々感じていた刺すような視線は、お前だったのか!」

「気がついていたのですか。意外ですね。ふははっ!」

 視線に気づいているとは思わなかったのだろう。止まらない笑いに龍はスカジを睨みつけるが、止まる様子はない。警戒を解かずに睨んだままスカジを見つめる。

 その笑いは狂気に満ちていた。だが、その狂気を向けられているのは龍だけだった。しかし、狂気を向けられる意味が龍にはわからない。

 龍やエリス達が2人に対して狂気を向けるのならば、まだ納得することはできる。アレースが傷つけられたのだから。

「お前は……」

「龍!!」

 立ち止まったまま、スカジへと問いかけようとした龍の背中にエリスの声がかかる。その声は、今にも泣いてしまうのではないかと思うほど震えていた。

 目の前に敵である2人がいると言うのに、龍はエリスを振り返った。攻撃の隙を与えたと言うのに、2人は何故か攻撃をしては来なかった。黙って立っている近衛兵やメイド、執事達も何もしない。彼らは命令をされなければ攻撃をしてこないのだろう。だから、ただ立っているだけなのだ。

「どうした!?」

「病院! 病院に行かないと! アレース……アレースが!!」

 それ以上言われなくても龍は理解した。傷を塞いだとしても、出血が酷かったのだ。このままでは、アレースは確実に死んでしまうだろう。だからエリスは龍を呼んだのだ。空を飛んで行かなければ、病院へは行けない。周りは炎で囲まれているのだから。

 今は2人を放っておいて、アレースを病院に連れて行ってと願いを込めて言うエリス。

 そんなエリスを見て、龍は2人を放っておくことはできないと思った。しかし、アレースをこのまま見殺しにすることはもっとできない。だが、両方を選ぶことはできない。どちらかを選ぶしかないのだ。

 龍は歯を食いしばり、刀を鞘に収めようとした。アレースを助けるために、今は2人を放っておこうと考えたのだ。たとえ家が燃えており、消す方法が目の前の術者を倒すことだとしても。

 だが、刀を鞘に収めようとした右手が誰かに掴まれた。それは、『不死鳥』姿の悠鳥だった。右手を掴んでいたのは手ではなく悠鳥の左足だった。

「ほぼ無傷かよ」

 小さく聞こえたビトレイの言葉通り、悠鳥は大きな怪我をしていない。氷の矢(フリーズ・アロー)により氷ってしまい落下はしたが、彼女に炎は効かない。落下のダメージなどはあっても、炎は効かないのだからほぼ無傷なのだ。

 静かに羽ばたく悠鳥は黙って龍の目を見つめていた。その理由がわかった龍が一度頷くと、悠鳥は右手から足を離してエリスの元へと向かう。龍は刀を強く握り直し、スカジたちへ向き直る。

 その後ろで話をしているエリスたち。龍の代わりに、悠鳥がアレースを病院へ運んでくれるのだ。エリスも一緒に行くのだろうが、『不死鳥』姿の悠鳥の大きさからして2人を乗せることは可能だろう。

「2人を病院へ置いたらすぐに戻ってくる! 決して死ぬでないぞ!!」

 そう叫んで飛ぶ悠鳥に龍は返事をしなかった。できなかったのだ。悠鳥が飛んだと同時に、何もせずに見ていた近衛兵達が向かってきたのだ。近衛兵達は武器を手にしているが、龍は簡単に弾き飛ばすことができた。メイドや執事達は武器といっても持っているのはナイフや包丁程度だ。

 峰打ちで気絶させるが、中には手加減ができずに骨が折れた者もいた。怪我をさせたいわけではないが、手加減をしすぎると、自分がやられてしまうのだ。申し訳ないと思いながらも、気絶させていく。

 魔法を使う者がいれば、ぎりぎりで避けて近くにいた他の者に当たるように仕向ける。そうすれば、自分では何もせずに相手を気絶させることができる。全員が怪我程度ですめばいいと龍は思っていた。

 近衛兵達が向かって行っても、スカジ達は見ているだけだった。彼らが、龍を倒してくれるとでも思っているのだろうか。何もせず、黙って見ているだけだ。ビトレイはまだ腹が痛むのか、押さえていたが、スカジは口元に笑みを浮かべていた。笑みを浮かべてはいたが、目は笑っていなかった。まるで、睨みだけで龍を殺そうとしているかのようだった。

 時間をかけて龍は、自分に向かってくる全ての近衛兵とメイド、執事達を気絶させた頃には息をきらしていた。近衛兵達は、毎日訓練をしているだけあって手強く龍は無傷ではなかった。彼らは、国に危険が及ぶと先頭をきって国王を守るために戦う者達だ。だから、毎日訓練をしている。簡単に倒せる者達ではないのだ。国境戦争の時は国王と共に自警団が来ていたが、もしも彼らが来ていたとしたらそれこそ戦争になっていたかもしれない。相手も恰好を見て近衛兵だとわかるだろう。そんな彼らを見たら、それこそ攻めてきたと思うかもしれない。だから国王は近衛兵を連れてはこなかったのだろう。

 全員を気絶させた龍の服は至るところが切れ、血が滲んでいた。それだけではなく、顔にも切り傷や火傷の跡があった。全員を気絶させたといっても龍1人で相手をしていたのだ。無傷なわけがないのだ。攻撃を避けたら、別方向から攻撃をされる。それを避けれるとは限らない。疲労でふらつく体だったが、それでもしっかりと立ち傍観していた2人へと近づいた。

「お前は……どう、してこの姿を見て、驚かなかった!」

「視線だけで驚いていなかったこともわかるなんてすごいですね。私は、初めて貴方の姿を見た時驚きませんでしたよ。……別の意味では驚きましたがね」

 息をきらせながら近づいて言う龍に、スカジはその場から動かずに答えた。横にいるビトレイは2人を面白そうに眺めているだで何もしないし、何も言わない。

 あと5歩近づけば手が届くだろうという場所で龍は立ち止まった。スカジが言った言葉に、龍は睨みつけたまま眉間に皺を寄せた。何を言っているのかわからなかったのだ。

「貴方は、私を覚えていないのですか?」

「な、にを……っ!」

 突然の頭痛。頭が割れるのではないかと思うほどの痛みに、龍は持っていた刀から手を離して頭を抱えた。刀が落ちた音が響く。しかし、龍はそのことを気にしてはいられなかった。あまりの痛みに、龍は頭を抱えたままその場に蹲ってしまう。

 頭に浮かぶのは迫る箱。何故、今記憶を思い出そうとしているのかと疑問に思いながらもスカジを睨みつけることはやめない。

 ――こいつが……記憶に関係しているのか!?

 痛みに意識が飛びかける龍。ゆっくりと近づき、龍の前にしゃがみ込んだスカジは、龍の耳へ唇を寄せると囁いた。

「覚えていないのなら、思い出させてあげますよ」

 口元に笑みを浮かべて、スカジは話しだした。その話のお陰で龍の記憶は戻る。だがそれは、龍にとっては戻らないままがよかったのかもしれないと思えるものだった。







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