青天41
藤宮と上野が二人の頭上を飛び越えて現れた。
さすが幹部ナンバーを背負うだけの実力はあるようだ。
薫は笑みをこぼして飛んでいく二人を見た。
彼らは凛華と薫が攻撃を仕掛けた後、すぐさま動いていた。
藤宮は薙刀を、上野は槍を携えて少女二人が開けた穴を確実に狙いすませて一閃。
それだけで凛華と薫が開けてくれた勝利への道を格段に広げた。
しかし――――
「ちッ――――」
「むぅ……」
二人が広げてくれた穴が瞬間的に収縮していく。
「くそッ‼あと少しだってのに—―――‼」
悔しそうに顔を歪めせ、忌々し気に赤い雲の穴を睨みつける。
これ以上穴が塞がってしまえば、この勝負は負けだ。
動くこうと頭では分かっているのに体が動かない。
必死に体を動かしてもいうことを聞いてくれない。
四人が諦めかけていた時、薫は視界の端に映った人影を見て笑った。
四人の視線の先に—―――その二人はいた。
「蓮‼司‼」
薫が声を挙げると駆けていた蓮が笑ったような感じがした。
彼の隣を走る司も蓮の横顔を一瞬だけ見た。
彼は心底楽しそうに笑っていた。
ピンチの状況にも関わらず。
無邪気な子供のように楽しそうに。
二人は同時に飛翔した。
高く、大きく。
何処までも飛んで行きそうなくらい高く飛んだ二人が、赤い雲に向かって攻撃を放つ。
蓮の巨大な斧が、司の弓が。
ほぼ同時に。
そして確実に――――
赤い雲の穴を狙って。
広がった穴を切り裂いた。
全員がその光景に歓喜の声を挙げる。
そして、その場にいた全員が見たかったそれが姿を現した。
装甲が剥がれた星々の源が見えて—―――潤は笑う。
このチャンスを待っていたと言わんばかりだ。
ずっとスコープ越しからみんなの姿を見ていた。
勇敢に立ち向かっていく彼らの姿に次世代の輝きを感じた。
全員が死に物狂いで挑んでいく後ろ姿に。
何時ぞやの自分の時を重ねて。
あの日失った物がようやく取り戻せる。
ここまで長かった。
果てしない道乗りだった。
一体どれほどの時間が過ぎていたのだろう。
数百秒?数千秒?
いや――――時間なんて今はいい。
この時間だけは。
この瞬間だけは時間を忘れてもいい。
だから――――
潤は引き金を引く。
それは終わりを告げる鐘のように。
それは新たな時代を築き上げる汽笛のように。
真っ直ぐ。
ただひたすらに真っすぐ伸びた弾丸が—―――赤い雲の核に向かって飛んで行く。
そして、潤の放った弾丸は、一切の音を掻き消すかのように。
無機質な音を立てて。
的確に赤い雲の核を――――破壊した。
ガラス片が地面に落ちて割れるが如く。
星々の源が壊れゆく音が耳に調律を運び、輪舞を奏でた。
霧散していく赤い雲を全員が目に焼き付けた。
崩れていくその姿を鮮明に記憶して、視線を切る。
赤い雲が霧散してしばらく。
厄災によって暗かった空が次第に明るくなる。
隊員達が空を見上げればそこには、青く光る淡い空が見えて来た。
何年ぶりの爽快感だろう。
厄災に怯えていた日々から一瞬だが、忘れさせてくれるその空に。
しばらくの間入り浸りながら。
これで終わったのかと。
誰もが緊張感から解き放たれ茫然としていた。
かつて日常を壊したうちの一対を倒したのだ。
これほどの緊張感はそうそう出会えないだろう。
戦闘が終わったというのに震えている手を見つめ、蓮はじっくりと勝利の実感を得た。
「いっよっしゃぁぁぁあああああ‼」
ガッツポーズをした蓮が大いに喜びを噛み締めていた。
喜びが胸を込み上げてくる。
手に確かな時間を得た勝利に浸った蓮が戦った仲間達の元に駆け寄る。
「おーーーーい‼薫――――」
一緒に闘った薫の元に駆け寄ろうとした蓮だが、彼女の顔を見た瞬間固まった。
それは、彼女の顔がまだ安堵に浸っていなかったからだ。
薫だけじゃない。
近くにいた他のメンバーも勝利に喜んでいなかった。
不思議に思っていた蓮が、ようやく違和感に気が付いた。
確かに空は明るくなった。
だが、霧散していたはずの赤い雲が徐々に収束していった。
まさか、まだ倒しきれていなかったと不安に襲われたが。
「恐らく大丈夫でしょう」
不意に隣に来た凛とした雰囲気をやわらげた凛華が蓮に言った。
「お、おう……」
凛華がそういうのなら間違いないのだろうが。
だが、まだ赤い雲は完全に崩れていない。
不完全な状態でも油断は出来ない。
蓮は知っている。
追い詰められた厄災程厄介なものは無いと。
一物の不安を抱いている蓮に対して――――
訝し気にいら見つけていた潤が、新たな弾を装填いていた。
何やら危険な雰囲気を纏った空気をひしひしと感じていた。
故に潤はとどめの一発を刺そうとした。
装填し終えた潤がスコープ後しに赤い雲を見据える。
そして狙いを定めて引き金を引こうとした。
その時—————
「—————ッ‼」
不意に爆風が飛んできて潤の視界に砂粒が立ち込めた。
何処からともなく飛んできた一発の弾丸が、潤のいる崖に飛来した。
その崖は弾丸の衝撃によって崩れていく。
それも的確に潤がいる位置にピンポイントに当ててきた。
だが―――――
「きゃあ‼」
「くッ―――――」
その声が聞こえた瞬間、潤の背筋に凍てつく冷気が走った。
見れば潤を狙った弾丸は、西園寺と紫咲を巻き込んでいた。
潤は一瞬我を忘れた。
この二人が何故このような状況に陥っているのか。
それは――――
なぜ崖に弾丸を撃ち込んだのか。
それは誰がやったのか。
潤は宙に体が放り投げられる最中で、視線を巡らせた。
そうして視線を巡らせると、弾丸が飛んできた方角を思い出し目を向けた。
目を張り巡らせた先に—――――それはいた。
やはり彼の仕業かと潤は思った。
潤が弾丸を飛来している中――――その大きな音は蓮達にはまで聞こえて来た。
「何の音だ?」
蓮が音の下法に目を向ける。
粉塵が立ち上がり、砂が巻き上げていた。
「確か……あちらは崖があったはず……」
「「————ッ‼」」
藤宮が言葉を発した瞬間、凛華と薫は同時に走っていた。
「おい薫ッ⁉」
颯爽と走っていく薫は蓮の声など聞こえていなかった。
「一体なんだってんだ?」
蓮が薫の咄嗟の行動を不思議に感じていると、彼の後ろにいた司が小さな声で呟いた。
「あの方角って……潤さんがいる方角……」
「え―――――」
司の言葉に蓮は頭が真っ白になった―――――。




