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青天38

普段はいがみ合っている幹部ナンバー達も状況が状況では共闘すら簡単に行ってみせるだろう。

だが、手助けが出来ない場所ではそれすらままならない。


「せめて朝霞がいてくれたらもう少し戦況が変わるんだがな~」

「ない者をねだっても出で来ないのは明白です。取り合えず私たちは一刻も早くこの雷撃を沈めて加勢に行くことに専念しなければ――――」


藤宮が唐突に言葉を飲み込んだ。


「どうし—―――」


次いで上野も言葉を失った。

彼らの視線の先にそれはいた。


「なんだ……あの黒い雲は……?」


上野の吐いた言葉に藤宮はすぐに返すことが出来ない。

何故ならそれは自分達が戦っていたものとはまるで別の風貌をしていたからだ。


「あれは――――」

「知ってるのか?」


藤宮は一拍置いて答えた。


「あれは紛れもない赤い雲です」

「いやいや、赤い雲は赤かっただろ?」

「そうです。通常の赤い雲は文字道理赤い。それは最初だけ」

「何だと⁉」

「赤い雲が黒くなる時、それは怒りをかった時です。こうなると凶暴さは倍以上。それこそ手に負えないくらいに—―――」

「てことは……ッ」

「夜桜さん一人では無理でしょう」

「くそッ‼とっとと片付けるぞ‼」

「言われなくとも……」


上野は言葉を聞いて、颯爽と動き出した。

もし藤宮の言葉が本当ならば、いくら夜桜でも耐えきることが出来ないだろう。


一番近い自分達が真っ先に駆け付けなければいけないのに。

だが、辿り着けないもどかしさを胸に抱いて。


二人は死に物狂いで手足を動かした。

雷雲はみるみる減っていき、気が付けば周りには他の隊員達の姿はなくなっていた。


「片付けていて気付かなったが、もう皆逃げてくれたみたいだな」

「そうですね、これであらかた動きも楽になるでしょう」


藤宮は口を動かしながら破壊していった。

それも先程とは打って変わって俊敏な動きで次々と雷雲を壊していく。


「さすがだな……」

「この程度造作でもないです」


言いながら雷雲を破壊していく姿は鬼神の如く。

別人のような動きで突き進んでいった。


上野は彼を見て思う。

これが男の中で一番の強さを誇る藤宮の本当の力。


先程までは他の隊員達の安否を確認しなければならなかったため、多少セーブしていたのだ。

しかし、そのたがが外れたことにより、本来の力を存分に発揮出来るようになった。


「先を急ぎますよ」

「おう」


そのたゆまぬ彼の力に内心驚きつつも、彼に付いていく。


(俺もまだまだだな……)


一人物思いに更ける。

力を欲す欲を押し殺して、自分の成すべきことを成そうと一歩前に出た――――。



「近づけない……ッ」

「早まるな」


焦る高浪に落ち着けと諭す鴻は、彼女の肩に手を置いた。

ぐんと反発的な力で止められた高浪がやや後方に下がった。


突発的に止められた高浪が怪訝な顔で鴻を見つめると、彼はバツが悪そうに謝った。


「すまないな、だが、あと少し遅ければ確実にやられていた」

「……」


彼の言葉に少しだけ反省の色を見せる。


「焦っても地雷を踏むだけだ。ここは落ち着いて最善の手で突破することを考えろ」


鴻の言葉は確かにごもっともだ。

焦って自爆しては意味がない。


だが、鴻自身も彼女が焦る理由も分からなくないと知っていた。

感じているからこそどうにかして手を貸してやりたいと思うのだが――――


「こうも雷雲に阻まれては迂闊に動けん」


鴻は攻撃を躱し雷雲を壊すことに成功する。

彼の手には長剣が握られていた。


彼の身長以上はある巨大な剣を軽々と持ち上げては振り回して一薙ぎに一挙に破壊していった。

砕ける音が幾重にも重なって聞こえてくる。


「むぅ……」


彼は一つ唸った。

それは、彼が破壊した雷雲が更に分離を施してさっきの倍に増えて襲い掛かってくる。


「ただ単純に破壊しても意味がないですね……」


鴻が子激したのを見て、高浪は考える。

どうすれば。


この雷雲の厄介なところは星々の源がない。

無いということは弱点がないに等しいのだが。


戦闘において考察に策時間は長ければ長いほど遅れを取る。

それは守りに徹するということだからだ。


守りに徹する状況に陥ってしまえば、簡単に出し抜かれてしまう。

厄災とて考えていないわけではない。


もし考えもなしに突っ込んでくるのであれば、今頃厄災は捕食者の手によって撲滅されていたことだろう。


それが未だかつて健在ということになっている理由はまさにそれだからだ。

雷雲に手を焼き、手こずっていると、不意に高浪が動きを止めて立ち止まった。


「おいッ‼何している‼」


危ないだろうと口にしようと口を開いた瞬間――――

鴻はその光景に目を奪われた。


ありもしない光景を目の当たりにしたとき、人は動きを止めて見入ってしまうのだということに。

それは赤い雲の原型を留めていない何かが現れたからだ。


「黒い雲だと……ッ⁉」


鴻は酸素を欲すために喘いだ。

本来いるはずのない黒い雲が目の前にいる事実を飲み込めないでいると、


「違う……」


低い声色で否定する高浪の声を聴いた。

ふと彼女の子を覗き込んでみれば、その顔色はもはや青く染まりきっていた。


彼女の肩に手を置いて詳細を聞こうと試みるが、今の彼女は正常に見えなかった。

掴んだ肩が小刻みに震えている。


何事かと君する余裕もなく、鴻は高浪に襲い来る雷雲をいなしていく。

一旦距離を取るために足を動かそうとしたその時――――


「赤い雲が……黒くなった」


鴻の耳に再度震えていた高浪の声が聞こえてきて足を止めた。


「何……‼」


衝撃の事実に鴻は思わず顔が引き攣った。

顔はまだ青くなってはいるが、落ち着きを取り戻した高浪が頭を抱えながらも自分の足で立つ。


そして、再度赤い雲だと言った高浪は黒く染まっている雲を指さし言った。


「あれは赤い雲ですの……」

「どう見ても赤い雲には見えない」

「そうでしょうね……。貴方からして見れば、あれが赤い雲に見えなくても不思議ではありません。ですが、あれは紛れもなく赤い雲そのもの……」

「何だと‼」

「赤い雲の特徴はその攻撃力の高さ。それは通常の赤い状態であっても……」


淡々と述べていく彼女に鴻は言葉が出ない。


「赤い状態であっても……?」


妙に引っ掛かる単語が鴻の耳に残った。


「あれは、赤い雲が怒った印です」

「……」

「無理もありません。あなたは違う国から来ましたものね。この事情を知るのは東国にみ」


もはや言葉など忘れてしまったように口から何も出てこなかった。

乾ききった喉が水を欲していると、徐に高浪は走り出した。


「おいッ‼」


鴻が声を掛けて止めようとするが、彼女は足を止めるどころか速さを増していった。


「一刻も早く行かなければ……」


ぶつぶつ独り言を呟き彼女は去っていく。


「くそッ‼」


鴻はわけも分からないまま彼女の後を追った――――。

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