残酷な救済
「ん-。後は村に報告をしたら取りあえずは終わりね」
と、両腕を上に伸ばしいつもの調子で話すリズに、二人はいつものリズに戻ったと安堵の溜息を吐き、思わず顔がほころぶ。
「あれぐらいで引いていちゃダメよ、勇者様?」
といたずらっぽく話すリズにアインは答える。
「いや、あれはやりすぎじゃないか?俺は一瞬お前が魔王に見えたぞ」
「あれでも手加減したわよ。メインは不在だしね。それと、魔王みたいなお山の大将と一緒にしないでくれる?」
「あれで手加減・・・」
「お山の大将・・・」
二人は互いの顔を見合わせ、今後リズを怒らせない事と真剣に聞かれた事には正直に答えようと、目で合図し頷く。
一時間後、村に着いた三人は村長の家へと直行する。
「偵察はどうでしたか?」
村長は三人の帰りが早いため、偵察して戻ってきたと思いそう聞いた。
「もう終わったわ。でも、肝心のリーダーがいなかった」
「そうですな。リーダーは別の場所に・・・はっ?今なんと?」
「だから、もうあの場所には燃え尽きた屋敷とサイスとか言うやつを木に変えたのがあるだけで、後は全て倒したわ。問題はリーダーがいつ戻るのかだけね・・・って、聞いてる?」
呆然とする村長に、リズは呆れた顔で問う。村長は混乱しながらアインの方を見る。アインはゆっくりとしゃがみ、村長の肩に手を置き真っすぐに目を見て優しく話しかける。
「村長。早すぎて驚くのは分かるが、本当なのだ。だから、知っているなら一つ教えて欲しい。不滅の旗のリーダー、マールの場所を知っているなら教えてくれ」
その言葉に村長はアインの手を握り、涙を流し何度もお礼を口にする。
数分後、落ち着いた村長は話し出す。
「お見苦しい所をお見せして、申し訳ありません。マール様はもうこの場所には興味を持っていないようで、出発前に「俺は戻る事は無いから、サイスの命令は俺の命令だと思い聞け。もし逆らえば、俺が直々に再教育を施しに戻ってきてやる」と私に伝え、出て行かれました」
「・・・分かったわ。それならこれを持っていなさい」
とリズは水晶を村長に渡す。
「これは?」
「もし、私たちがいない時にマールが現れたならこの水晶を割りなさい。そうすればこの水晶の元に救援が来るようにしているわ。だから、大事に扱うように。良いわね?」
村長は涙を流し、水晶を両手で抱きしめ深々と頭を下げ、お礼を言う。
その後、アインとクライスは村人を数人連れて不滅の旗の根城跡に連れて行き、事実を確認させ村人たちを安心させた。アイン曰く、ゴーレムに刻まれていた者達は全て消えていた事。あったのは、木になったサイスと不思議と屋敷だけが燃えた後とその中に数人の焼死体があった事だった。
「刻まれていた彼らはどうなったんだ?」
「生命エネルギーも全てあの木の寿命に変換しているわ」
クライスの言葉にリズは出された茶を飲み、何でもないように答える。アインとクライスはその言葉に生唾を飲む。
その夜、村を挙げての祝宴の場でリズの指示によりアインは村人達に話す。それは、村長に渡した水晶の事、サイスは今魔法で木になり、五感も意識もはっきりしているが動くことも話すことも出来ない事、そしてあの木をどれだけ傷つけても少なくとも20年は生き続け、その後も村人達の恨みが続くのならばそれが続く限りサイスは地獄の責め苦を受け続ける。もし、彼らに復讐をしたいのならばあの木を傷付ければいい、反撃は絶対にないと断言し、この悪魔の様な所業を用いたのは村人達の苦しみを少しでも彼らに分からせるための措置で、もしそこまでしなくてもと言うのならば直ぐにでも開放するがどうする、と。その問いかけに村人達は真っすぐにアインを見て無言の肯定を示す。最後にアインは高らかに宣言する。
「この村は勇者の加護を受けし村として名乗る事を我が名に於いて許し、また不滅の旗のリーダーであるマールは見つけ次第必ず罰を下すことをここに誓おう!」
その言葉に村人達は歓喜の声を上げ、宴が始まる。
「これでいいのか?」
「バッチリよ。これで私はただの美人な魔法使いってだけで、全ての名誉はあなたに行くわ。目立ちたくない私にはあなたが目立つのは好都合なのよ」
とアインの言葉にリズは満面の笑みで答える。
「ほんと、良い性格してるぜ。この中で一番強いくせに」
「違いない」
とクライスとアインは笑う。