第十九話「監視する妹」
今日も今日とて、自分の仕事を片付け、お兄ちゃんの観察……いや、監視をしようと会議室へと向かおうとしていた。
正直、毎日のように監視していたけど、私にも私の仕事があり、お兄ちゃんにもお兄ちゃんの都合がある。四天王達も、気が向いたらということで承諾しているので、とりあえず出会いは皆済ませた。後は、お兄ちゃんや四天王の選択肢で物語が変わる。
「あっ、さやっちー」
『ファッションワン。今の私は、総統だ』
「でも、今の私はあなたの親友の絢里かなでよ」
仕方ないなぁ、もう。かなでちゃんに合わせるように、私は苦笑いをしながら仮面を外す。
「さやっちって、変に総統キャラにこだわるよねぇ」
「慣れちゃってるから。それに、皆を先導するには、こういうキャラのほうがいいでしょ?」
「私は、どんなさやっちでもいいんだけど」
「ありがとう。それで、どうしたの? ねむちゃんも一緒だけど」
かなでちゃんにもたれかかるようにねむちゃんは相変わらず眠っている。
「私、これからお仕事なんだけどね。なんと! ねむねむが自分で刀弥さんのところに行きたいと言ったのよ」
「兄上様には、助けてくれたお礼を、してませんでしたから……ふわぁ」
そういえば、ねむちゃんは一度目ボケて転移して、お兄ちゃんに助けてもらったんだった。お兄ちゃんは、別に気にしていないだろうけど。
ねむちゃんが自分からそういうことをするなんて。
やっぱり、お兄ちゃんは皆にいい影響を及ぼしているみたいだね。
「そっか。じゃあ、今日はお兄ちゃんのことお願いね」
「ふわぁい」
「かなでちゃんも、ねむちゃんを」
「お任せ。ささ、さっそく行くわよ」
今回のねむちゃんは頑張って自分の歩いている。でも、お兄ちゃんのところに辿り着いたらいつも通りになりそう。
桐火ちゃんも、今回は諸事情でまだ来ていないし。明ちゃんは、お兄ちゃんに見せ付ける武装を一生懸命発明している途中。
そして、かなでちゃんとねむちゃんは一緒に出て行った。
「……久しぶりに、一人か」
仮面を被らないまま、私は会議室へと向かっていく。この秘密組織を結成して、四天王を作って、なんだかんだで一人で居るのは、数ヶ月ぶりかもしれない。
「まあ、そういうことなら」
私はにやっと笑みを浮かべ、誰もいない薄暗い会議室へと辿り着く。そして、懐から取り出したボタンを押すと、中央にあった円状卓が床へと沈んでいき、入れ替わるように一人用の椅子が現れる。
「さあ!! 今日は、思いっきりテンション上げてお兄ちゃんを見よう!!」
今までは、皆が居る手前ちょっとだけ大人しくしていたけど。今は、誰もいない。だから、どんなに叫んでも大丈夫。
「えっと、ねむちゃんは。うん、ちゃんと篠原家に居るみたいだね」
篠原家には予め仕掛けておいた監視カメラがある。しかし、このカメラはまさにステルス! 魔力などの類も使っていないので、お父さん達も察知することは難しいはずだ。
監視カメラは、全部で四つ。
まずは、リビングに一つ。次に廊下に一つ。三つ目は、お風呂に一つ。最後に……お兄ちゃんの部屋に一つ。盗撮? 違います。これは、私なりの家族の様子を見る方法。
決して、私利私欲のために設置したわけじゃない、うん。
「あー、いいなぁ。私もお兄ちゃんに膝枕してもらって、頭撫でてもらいたい……」
そういえば、この前はお兄ちゃんにまただらしないところ見せちゃったな。ねむちゃんも、絶対わざとだよね。
最初の時もそうだったけど、ああいうのは一度私に確認をして、承諾してから繋ぐものなのに。
『総統様!!』
「はわぁ!?」
ちょっと油断していたところに、部下からの連絡。私は、驚きつつもすぐに仮面を被り、咳払い。
『ど、どうした?』
『それが……あ、いやそれよりも総統様』
『ん?』
『仮面、逆さまなんですが』
どうりで、いつもと違うと思ったら。明らかに気になってしょうがないとばかりに見てくる部下に、私は、手を挙げる。
『気にするな。それよりも、慌てている理由を話せ』
『は、はい! 実は、またあの組織が』
『よりによってこんな時に……』
今日は、思う存分はっちゃけながらお兄ちゃんを見ていられると思っていたのに……ぐぬぬ! 録画をしているとはいえ。
絶対許さない!
『わかった! 今すぐそっちに向かう!! そのまま待ってもらえっ!!』
『りょ、了解です!!』
通信越しでも、私の怒りは伝わったのだろう。通信をしてきた部下が、若干怯えているように見えた。
でも、この怒りは本物だ。
激おこだよ、もう! マントを翻し、私は会議室をいつも通りに戻してから出て行った。
・・・・・◆
ねむちゃんが来たのはいいけど、彼女はずっと俺から離れずに居る。
あれだ。
膝の上から退けてもすぐ乗ってこようとする猫みたいな感じだ。
「兄上様。実は、私。この前のお礼をしに来たんです」
「そう、だったのか」
現在、俺は自室に居る。
ねむちゃんを俺のベッドで寝かせ、俺は床で胡坐を掻き、恋愛に関しての知識を得るために恋愛漫画を母さんに言って貸してもらっている。
かなりベタなものから、特殊なものまで。母さんは、いったいどれだけの漫画を持っているのか。そんな数多き漫画の中でも、王道な学園ものを借りている。
「でも、一晩中考えたのですが。どうしたらいいのか、思いつきませんでした」
「うん」
「そこで、桐火さんにご助力を得たところ」
桐火ちゃんに? なんだか嫌な予感がする。
「今日だけ、兄上様の愛玩ペットとして」
「却下」
「……ペットとして」
「却下です」
「ぺ―――はむ」
まだ言うので、折れは無理やりポッキー咥えさせた。ハムスターのように少しずつ齧るその姿は、小動物的な意味で可愛い。
桐火ちゃんは、何を教えているんだ……もうちょっとまともなアドバイスがあるだろうに。
「はい、ココア」
「ありがとうございます……ふぅ」
「変に考えなくていいよ。あれだ。一緒に居るだけでいいって」
「それだけでいいんですか?」
「ああ」
今までが、今までだけに俺は普通を求めている。癒しを求めている。せめて、ねむちゃんと一緒に居るだけでも普通でいいじゃない。
しばらく俺の顔を見詰めた後、ねむちゃんはわかりましたと俺が読んでいる漫画に目を移す。
「……」
「……」
あぁ、いいな。この空気。本来ならば、異世界から帰還した俺はこういう空気を地球で期待していたんだ。静かに、ただただだらりと過ごす。
「兄上様」
「刀弥でいいよ」
「では、刀弥様」
なんで様なんだろう。見た目とか、喋り方とかどこか上品さがあるように思えるけど。どこかのお嬢様とかなんだろうか。
「ツンデレです」
と、俺が読んでいる漫画のとあるヒロインを指差す。今のページは、助けてくれた主人公に対してヒロインがお礼を言おうとしたが、恥ずかしくツン言葉を言ってしまったシーンである。
「うん、ツンデレだな」
「刀弥様は、ツンデレ。お好きですか?」
「……嫌いではない」
「そう、ですか」
……今思えば、十二歳の女の子を膝の上に乗せて恋愛漫画を一緒に読んでるってどうなんだろうか。でも、ねむちゃんは案外楽しんでいると思う。
表情があまり変わっていないので、なんとなくだけど。




