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第二十話「忍者と買い物」

 ねむちゃんは、昼頃に動画編集があるので帰らなくてはならないと俺と父さん、母さんに挨拶をして転移していった。

 俺は、午後からどうしようかと考えた結果。


「約一年ぶりか。まあ、あんまり変わっていないんだろうけど」


 俺が通っていた高校へと向かうことにした。現在は、この騒ぎに加えて、戦闘員が頻繁に出現していることもあり、多くの学校が長期休校となっている。

 俺の高校もその一つだ。

 俺が通うのは、立宮高校というところだ。まあ、どこにでもある一般高校だな。俺が立宮高校に通おうと思ったのも、家から近いという単純な理由。

 とはいえ、意外と偏差値は高いほうで、俺も少しは勉強を頑張ったなぁ。


「ん? この気配は」


 もう少しで到着というところで、見知った気配を感じた。その場でとんっと軽く跳ねて、瞬間移動。


「よっ」

「ほわっ!? ととと、刀弥殿!?」


 桐火ちゃんだった。どうやら、俺に用事があったみたいな感じはしない。他に用事があって、屋根の上を走っていたようだ。


「はっはっはっは! 忍者を驚かせられるとは、俺も結構隠密の才能あったりするか?」

「お、隠密というよりも。刀弥殿は、瞬間移動というとんでも技があるからでござるゆえ」

「やっぱり瞬間移動は、だめか?」

「だめでござる。びっくりするでござるよ。して? 拙者に何用で?」

「特にこれと言って」

「そうでござるか」


 その後、僅かな沈黙が続く。どうしようかと、俺は考えた。また修行を共にする? それとも、もっと違うことを一緒にする?

 ハッ!? そういえば、恋愛漫画に忍者とどう接すればいいかなんて載ってなかった! 

 とりあえず、座るか。


「ん」

「座れと言うことでござるか?」


 俺の指示に、桐火ちゃんは一緒に屋根の上に座り込む。


「なあ、桐火ちゃん」

「桐火でいいござるよ。かなで殿もそうであったように」

「じゃあ、桐火。普段なにしてるんだ?」

「しゅ」

「修行以外で」

「……」


 修行というのはわかっていた。なので、それを封じて、彼女が他にどんなことをしているのか。まずは、彼女の趣味とか普段何をやっているのかとかを知らないといけない。

 この間は、まあ忍者らしいことをしていると、ちょっとあれな性癖があるということは理解した。俺に、修行のことを封じられた桐火は、しばらく俺と見詰め合い、空を見上げた。


「妄想、でござるかな」

「妄想、すか」

「うむ」

「それで、どんな妄想を?」

「……」


 ですよねぇ。そりゃあ答えられないよな。そもそも俺も妄想の内容を聞くなんてちょっとデリカシーがなかったかな。

 頭を掻き、謝ろうとした刹那。


「縛られる」

「へ?」

「縛られる妄想を昨日はしていたでござるよ!」


 と、興奮した様子で桐火は答えた。えぇ……この子マジか。恥ずかしもなく、俺の目を見て、ど直球に言いやがった! 


「あ、あのぉ、桐火さん?」

「しかも、拙者を縛っていたのは刀弥殿!」

「ええ!?」

「あれは、中々の技であった……まさか、あんな縛り方があったとは」


 俺、彼女の妄想の中で、いったいどんな奴になっているんだ。正直、そっち系の知識はそれほどない。あるとしても、アニメや漫画などで出てきたものの知識のみ。

 例えば、亀甲縛りとか。その程度の知識だ。しかしながら、彼女の妄想の中の俺は彼女すら知らない縛り方で彼女を縛ったらしい。

 俺、そんな目で見られていたのか?


「お、落ち着けって桐火。言っておくぞ?」

「なんでござろうか! ご主人!!」


 おっと、ご主人になってしまったー。妄想が暴走して、現実に現れてしまったのかー。これは、いかんな。やっぱり不用意に趣味のこととかを聞くのはだめだったか。


「待て。とりあえず、待て」

「お預けということでござろうか!? まさか、拙者を縛り付けたうえに、放置プレイを!?」

「だから違うって! いい加減、現実に帰ってこーい!!」


 それから、数分後。


「して、これからどうするおつもりで?」


 なかったことにしてるよ、この子。まあ、俺もそうしてもらえると助かるからな。


「桐火は、何も用事はないのか?」

「うむ。先ほど、任務を終え、さや殿のところへ赴いたのだが。手が離せぬ状況だったゆえ、修行をしようと疾走していたのでござる」

「なるほど。じゃあ、ちょっと俺に付き合わないか?」

「突き合う!?」

「お、おう」


 あれ? なんかまた興奮気味のような。ハッ!? まさか、突き合う? やばい、このままではまた。やばいな、この子と付き合っていくには言葉一つ一つに気をつける必要があるということか。

 うん、十分に理解できた。




・・・・・◆




「なあ」

「なんでござるか?」

「なんでセーラー服?」


 あの後、俺は桐火と一緒にショッピングモールに行くことになった。実は、母さんから夕飯の買出しを頼まれていたんだ。

 桐火は、この後何も予定がないということで、丁度いいと突き合わせた。

 これは、桐火のためでもあり、俺のためでもある。


 桐火は、ほとんど普通の女の子らしいことをしてこなかったという。そんで、俺もさや以外の女の子とはこうして買い物をしたことがない。

 異世界に居た時は、常に仲間達が一緒だったからなぁ。

 あいつは……まあ、ノーカウントだ。

 そんなこんなで、一緒に居る場合。

 あの忍装束は目立つので、他の服はないのか? と言ったら。ご覧の通り、黒いセーラー服なのだ。


「これしかないのでござる」

「お前が通っていた学校のか?」

「いえ、父上がお前にはこれだ! と」

「……」


 まさかとは思うけど、桐火がこんなになってしまったのは父親の影響だったりして。


「それにしても、落ち着かぬでござるな。いつものマスクでないと」

「あのマスク目立つからな。今世界は、怪しい奴を見つけたら捕まえることになっているらしいからな。イモウトの幹部が誰なのかわからない以上、世界もそうするしかないらしい」


 あの忍者を思わせるマスクは外し、市販で売っているあの白いマスクを桐火はしている。どうやら、素顔を見せるのは、本当に気を許した者だけらしく、俺はまだその域に達していないようだ。

 だが、挫けるな。

 それはつまり、素顔を見せるほどまで達すれば、彼女は攻略完了ということ。ゴールが見えるというのは、いいことだ。頑張れ、俺。


「そうであったな。して、篠原家の今晩の夕食は?」

「カツカレーらしい」

「おお、それは豪勢でござるな」


 そんなわけで、豚肉とカレールー、他にたまねぎなどの野菜類を買うことになっている。


「豪勢ではないって。もっと豪勢な時は、ここにサラダにスープ、デザートがつく」


 豚肉を手に取り、俺は最後にこう告げる。


「だが、今回はカツカレーしかない」


 とはいえ、いつもならばさやが居るので母さんがどれだけの量を作るかだ。豚肉の大きさ、野菜の量から推測するに、めちゃくちゃ多い。

 明らかに三人で食べる量ではない。さやが居れば、一気になくなるんだろうけど。ああ見えてさやは、かなりの大食いだからな。

 

「そういえば、桐火は普段何を食べているんだ?」


 豚肉を籠に入れて、俺は問いかける。


「干し肉でござる」

「……マジ?」

「うむ。他にも多種な保存食を常に携帯しているでござる」

「お菓子とかデザートとか、そういう女の子がよく食べそうなものは?」

「普通に食べるでござるが。それは、たまにでござるよ。拙者も女子でござるが、そこは忍として我慢。慣れていることゆえ」


 大変だな、忍って。だけど、少し安心か。まったくってことはないってことだし。


「じゃあ、これからアイスを食いに行くか?」

「な!? それは……いえ、嬉しいお誘いであるが。拙者は遠慮させてもらう」


 本当は、食べたいと思っているくせに。しょうがない。


「よーし。じゃあ、さっさと買い物を終わらせて、アイスを買いに行くぞ!」

「と、刀弥殿! 拙者の話を聞いていたでござるか! 拙者は」

「まあまあ。遠慮するなって、俺が買うついで、だからな。それに、俺はお前を攻略する主人公! ここで、好感度を上げておくぜ! てことだよ」


 たまねぎを手に取り、そのまま突きつけ宣言する。

 それを見た桐火は、一瞬驚いた表情をするが、すぐに笑みを浮かべる。


「……ふっ。そういうことは、口にしないほうがもっと好感度が上がるところでござるぞ」

「でも、お前達もそのことはわかって俺と接しているんだろ?」

「それもそうでござるな。……承知した。では、ご一緒にアイスを食そうではないか。刀弥殿」


 うん、やっぱり女の子は笑顔が一番だな。後は、素顔を見せればもっといいのだが。

 あ、そういえば学校に行くの忘れてた。

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