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第十一話「互いを知るために」

 スタート地点から少し移動して、桐火ちゃんが用意したのは魔力により構築された的。会った時から、魔力はあると感じていたが、ここまで精密な魔力コントロールができるとはな。

 用意が終えた桐火ちゃんは、俺と同じように魔力で構築した手裏剣を構える。


「では、先ほど刀弥殿がやった的当てを拙者もやるでござる。が、先ほどのように同じ的に全て当てるのではなく」


 素早く手裏剣を投げる。

 それは別々に分かれ、それぞれ用意された的に一つずつ刺さった。しかも、どれもど真ん中。おぉ、さすがだな。さすがの俺でも、あんな芸当ができない。

 修行すればなんとかできるだろうが。


「このように別々の的に当てるのでござる。刀弥殿、できるか?」

「さあな。やってみないことにはわからない。まあできなくても、それはそれで見逃してくれよ。なにせ、これは修行なんだろ?」

「そうでござるな。だが、先ほどの刀弥殿の投擲能力から考えるに。そなたは、必ずできるであろう」

「そう言ってもらえると、嬉しいけど」


 俺は、横のはけた桐火ちゃんを傍らに、手裏剣を構える。的は、三つ。それぞれ正面、左上、右下に設置されている。

 固定されているわけではなく、空中に浮いている。少し揺れており、投擲する時も正確に狙ったとて、ずれてしまうかもしれない。


「はっ!!」


 とりあえず、桐火の見よう見真似で投げてみたが。


「少しずれたか」


 三つの内、二つがずれてしまった。一つは真ん中に当たったが、やっぱりだめだったか。


「さすがでござるな」

「いや、桐火ちゃんみたいに全て真ん中に当たってない。これは、やっぱり修行が必要だな」

「うむ。では、今しばらく投げてみるでござる」

「言われなくても!」


 それから、しばらく桐火ちゃんに投げるコツなどを教えてもらいながら、俺は手裏剣を投げ続けた。その結果、三つどころかその倍の手裏剣が的の真ん中に刺さるようになった。

 これには、桐火ちゃんも驚いているようだ。


「少し修行をしただけで、これほどの向上とは」

「桐火ちゃんの教えがよかっただけだ。それに、この変身能力があってだ。普通の人間の姿だったら、これほど早く成長はしなかっただろうな」

「そうでござるか。だが、才能や能力は有効活用してこそでござる。能力があっても、それを使いこなせぬようでは、宝の持ち腐れというもの」


 相変わらず歴戦の勇士のような雰囲気があるなぁ、この子は。見たところ、さやと同じぐらいの年頃って感じだけど。


「その点に関しては、刀弥殿はかなりのもの。能力を使いこなすほどの技能と対応力を持ち合わせているでござる。それは、拙者がしかとこの目で見させてもらった」

「それはどうも」

「というわけで、次の修行に行くでござる!!」

「了解」


 なんだか桐火ちゃんも、最初よりテンションが高くなってるな。複数人で修行すると、互いに高めあう。アニメや漫画なんかでは、よくあることだが。

 彼女も俺と修行することで、ああいうテンションになってしまったのだろう。冷静沈着な性格かと思いきや、やっぱり歳相応って感じだな。


「次は、ここでござる」

「川か。水の上でも走るのか?」

「おお。さすがでござるな。その通りでござる。本来ならば、専用の道具を使って水の上を走る。というよりも移動するのでござるが。拙者達には、特別なエネルギーがあるでござる」

「魔力か」

「さよう」


 異世界でも、魔力を足に定着させて水の上を走ったことがあるから。その要領で大丈夫だろうな。


「まずは、拙者から」


 手本とばかりに、桐火ちゃんは両足の魔力を纏わせる。かなりの魔力コントロールだ。しかも、足の底だけに薄い膜になるように最小限の力で。

 魔力を纏わせたところで、桐火ちゃんはさっそく川へと躊躇無く踏み込んだ。流れは、そこまで急ではないが、水飛沫ができるほどの川に彼女は平然とした表情で立っている。


「こんな感じでござる」

「それぐらいなら、俺だってやったことあるぞ」


 俺は、慣れたように魔力を足の底に纏わせ桐火ちゃんに続き川へと足を踏み入れる。


「おお。これまた見事。刀弥殿は、やはり色々と拙者の予想を超える経験をなされているでござるな」

「まあな。これでも、異世界で一年も戦っていたから」

「ほう。異世界とな。そういえば、刀弥殿は一年間、姿を消していたとお聞きしたが」


 そういえば、このことはさやにも話していなかったな。というか、話す暇なんてなかったというのが正しいか。この際だ。桐火ちゃんに少し話してみるか。

 もしかしたら、どこかでさやが監視していたりするかもしれないし。


「そうだな。異世界召喚にも色々とあると思うが、俺は勇者召喚で異世界に行ったんだ。勇者召喚により召喚された者は、人知を超えた力を得るってことだったみたいだが。なんだか俺の場合は、元々あった力が目覚めたって感じだったな」


 川の上をゆっくり散歩しながら、俺は語っていく。異世界に召喚された時のことを、掻い摘んで。


「よくある魔王を倒せって感じで、俺は旅立ったんだ。しかも、一人で」

「ふむ。拙者の父上は、どこか見知らぬ森に放り出されていたと聞き及んでいるござる」

「あー、それは多分いつの間にか召喚だな」

「いつの間にか召喚?」


 岩があったので、器用に飛び跳ねながら俺は説明をする。


「俺が勝手に名づけているだけなんだけど。異世界召喚にも色々とパターンがあって。俺のように勇者として召喚されたり、一度命を落として神様に力を与えられて召喚されたり、桐火ちゃんの父親のようにいつの間にか見知らぬ場所に召喚されていたり。他にも、巻き込まれとかそういうのがあるな」

「ほう。異世界召喚にも色々あるのでござるな」


 それは空想だけの物語だと思っていたけど。現実で、異世界召喚は起きていた。それが長きに渡り蓄積されて、いまや地球はおかしくなっていっている。

 父さん達の話では、不思議な力が覚醒したり、生物達に影響を及ぼしているって言っていたな。今のところは、さや達が起こしている騒動でそこまで注目はされていない。そもそも、問題が起こる前に父さん達がどうにかしているらしい。

 他の人達は、どうなのかはわからないらしいけど。


「そうだな。俺も、勇者召喚よりはいつの間にか召喚がよかったな」

「どうしてでござるか? 勇者のほうがかっこいいと思うのだが」


 お? 魚が居る。かなり驚いているみたいだな。さすがに、人が水面を歩いているとなると生物もびっくりするんだな。


「確かに、勇者はかっこいいし、能力もかなり向上して楽だ。でも、勇者だと色々と大変なことも多くてさ……」

「世界を救う者としての気苦労というやつでござるか。父上は、使命というものがなくて自由気ままにやっていたとよく話していたでござるなぁ」


 そのほうが俺もよかったよ。そもそもネットを駆け巡って見たが、勇者召喚系は最近ほとんどと言ってなかったからな。

 やはり、いつの間にか召喚されていつの間にか力を得ているか。一度死んで神様に力を貰って自由気ままに過ごすか。他にも、赤ちゃんからやり直すとか死ぬ前に記憶を受け継いだまま。

 そう考えると俺のパターンは、ある意味珍しいパターンってことになるんだよな。


「これも血筋ってやつなんだろうな」

「ということは」

「ああ。俺の父さんも勇者召喚だ。でも、違うところを言えば、父さんは女神様に召喚されたってところかな」


 俺は、老齢な人達から召喚された。俺も女神様とか、美少女召喚師から召喚されたかった。普通に考えて、そっちのほうが何倍もいい。

 俺だって男なんだし。おじいちゃん達よりはなぁ……。


「っと、あの先は滝か」


 話しこみながら川を歩いていると、数十メートル先に激しい水飛沫が上がっていた。先に道もないことから、おそらく滝になっているんだろうな。修行をするどころか、世間話で終わってしまうところだったけど。


「どうする? 桐火ちゃん」

「ふむ。では、このまま滝を駆け抜けようではないか。よいでござるな?」

「もちろんだ。どっちが先に、その岩場に到着できるかでいいか?」


 滝が流れ落ちるところまで、近づき俺は数百メートル先にある大きな岩を指差す。


「うむ。だが、瞬間移動はなしでござるぞ?」

「わかってるって。そんじゃ……いくぜ!!」

「尋常に勝負!!」


 桐火ちゃんの合図と同時に、俺達は駆け抜ける。普通ならば、滝など避ける。しかし、俺達はどうってことないとばかりに、滝を猛スピードで駆け抜けていく。


「さすがに、速いでござるな!」

「桐火ちゃんもな! さすが、忍者だ!!」


 それにしても、こうして青空の下で滝を駆け下りるのは気持ちいいものだ。


「ひゃっほー!!」

「はっはっは! テンションが上がっているでござるな!!」

「そういう君もな!!」


 滝を駆け下り、後はそのまま一直線に岩場へ。


「せーの!!」

「むっ!?」


 一気に魔力を足下に溜め込み、それを爆発。ものすごい推進力のおかげで、俺は一気にゴールの岩へと到着することができた。


「俺の勝ちだな!」

「ず、ずるいでござる!」

「ずるくない。それに、瞬間移動は使ってないだろ? ちゃんと」

「そ、そうでござるが」


 もっと厳密に言っておけばよかった! と拳を握り締める桐火ちゃん。


「さあさあ。悔しがってないで、次の修行にしよう。次はどんな修行なんだ?」

「……ふっ。次は、さすがの刀弥殿とて、拙者に置いて行かれる修行でござるよ。覚悟するでござる!!」


 それは怖い怖い。その後、俺達は森の中で激しい修行に明け暮れた。帰ってきてから、久々に汗をかいたと俺は大満足だったが。桐火ちゃんは、どこか不満そうな表情をしていた気がする。

 やっぱり、負けたのが悔しいんだろうな。

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