物語の続きに~そして終わりは訪れる~
彼の腕に刻まれていたのは爪痕だった。
真っ黒で大きな爪痕だ。
それはどこかで見たことがあるものだ。
しかしそれを直接見たわけではない。
記憶の中に、刻まれているそれは、
「あら、初めて見ましたわ。そんなにクッキリとした。あの忠犬の爪跡なんて」
「犬だと?」
「ええ、ある魔法で呼び出され、ある人物に忠誠を誓うとっても凶暴な忠犬ですわ」
「私はそのような犬にあったこともないが、なぜこのような爪痕がついているのだ?」
「あの方は、少々過保護がすぎるので、あの子にとって有害と断定された時点でその爪痕が付きますわ。腕ならば、忠告。そして心臓に近くなるほど警告へとその意味合いを変えます」
「つまり、私はまだ忠告だと?」
「ええ、その通りですわ。国の為を思ってのでしょう。これ以上続けば、その爪ではなく民衆の刃があなたを貫くでしょうから」
「民衆がですか?」
「ええ、このままいけば遠からず民衆の上に立つ者が現れるでしょう。無論そうなる可能性の話ではありますが。それ以外にも国力の衰えたところで、他国からの介入があるどちらにせよあなたが愚王と呼ばれる未来は避けられないでしょう」
「何をすればいいのだ」
王太子が尋ねると、
「さあ、何をすればいいのかご自分でお考えなさい。他者から言われてハイハイ頷くのではとても一国の主になる男とは言えませんわ」
そう言われた王太子は、言葉につまりそれ以上尋ねることをやめた。
「すいません、つまらない話をしてしまいまして」
「いや構わんよ、何度言っても聞かなかった息子が赤の他人の言葉を聴き自分の現状をようやっと理解してくれたのでな。それ以外に話はあるか?」
「いいえ全く。しいてあげるのならば、あの爪痕はいかなることをしても、体の表面に浮かび上がりますのでそれだけはご一考をとここに居る皆さんに伝えたいと思います」
優雅に行われた一礼は、しかしその身から出る威圧感を感じさせないものではなかった。
彼女は静かにしかしはっきりと怒っていたようだ。
この一件以降、この国に滞在中は問題は起こることなく数ヶ月の時を静かに過ごした。




