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シンコウ  作者: わらうクジラ
フール諸島国編
21/27

☆フール孤児院・1☆

私たちは息を潜めながら裏から侵入することにした。

 ギコギコと鉄の擦れる音が響いている。そこにファーニンは物怖じせず近づく。


「あれ……、黒種草(ニゲラ)様?」


一瞬、金属の声がやんだ。そして、少女は揺れるベンチから降りて朧げな足取りでファーニンに近づく。

 

「大丈夫?」


ファーニンは少女を抱きしめてそう聞いた。その時、耳を刺すような警報音が鳴り響いた。少女は怯えきってしまった。


「なに……これ」


少女の薄いズボンに赤いランプの付いた装置が点滅していた。


氷茉(ひま)ちゃんかオリちゃんはこのコを連れて先帰ってて」


警報音で叩き起こされた警備員が走ってきているのが見えた。

 取り敢えず、足に取り付けられた装置を私は握り潰し、森に投げ捨てる。

 窪んだ眼窩は見るに堪えず、異様に細い足は骨と皮しか無い。

 これではやはり先に帰ってもらい腹を満たすのが良いだろう。


「氷茉、私が残る。彼女に食べたいものを食べさせて。冷蔵庫に作り置きあるから」


私は後ろの髪を束ねながら氷茉に告げる。


「……わかった。早く帰って来いよ、知らないオトナに囲まれるのは可哀想だからな」


氷茉は少女を抱きかかえてクルマの方へ駆けていった。


「彼女はブランコっていうの。私の代は植物の名前だったのに、彼女達は遊具の名前を付けられたんだよ。私は彼女達がやって来るのを見ることしかできない。だから、できる限り"お姉さん"になった」


この前の手紙にもブランコについて書かれていた。そうか、孤児のための遊び場なんかじゃなくて。

 

「もう良いよ。話してくれてありがとう」


私は『黒鬼』を抜いて2人の警備員を斬り殺す。


「行こ」


私たちは裏口から入る。

 すぐ横の扉は図書室に繋がっている。今回の目標は、


「懺悔室。多分そこに証拠がある」


ファーニンの言葉に従い、ほかの部屋は一旦無視する。

 浴室につながる扉の奥に階段を見つけた。その階段を駆け登る。


「なるべく殺さないように」

「……わかった」


ファーニンのお願いに従うことにする。

 階段を登り切り、ゆっくり扉を開ける。

 意外とバレていないらしく、ゆっくり進む。すぐに例の部屋を見つけた。


「ここだよ。多分今は……いないね」


扉を開けると、血の匂いがする。

 壁についた血は比較的最近のものだった。ファーニンはそのまま奥に向かう。

 そして壁を撫でると霧が吹き出し、そして消えた。


「こっち」


ファーニンに従い、その部屋にはいる。

 棚が資料で埋まっている。


「このコピー機動いてるよ」


刷りたてほやほやの紙を手渡され、それを見てみる。


『フール孤児院へ

DATE:■■■■


「植物の実験は終わった。次は遊具だ」そう言ってから2年経ったな。

 こっちは新たな機械、"意志持機構体"の作成もだいぶ終盤だ。今回は"親心"を作れたぞ。

 そっちはどうだ? まさか、まだ児童虐待にうつつを抜かしてるなんて言わないよな?

 そろそろ機構国の製造ラインも捨てざるを得ないようだ。もし、あんたらがまだ私を追うのなら次の国に来い』


なんだ、こいつら。

 その紙をもう一枚印刷しておき、その紙を持ち帰ることにする。

 その後も証拠になりそうな紙を片っ端から印刷しておく。

 

「……そろそろいいんじゃないかな。夜明けだ」


時計を見たファーニンがそう言った。私は頷いて転移門をつくる。

 そして、私たちの証拠集めは終えたのだった。




家に着くと、"ブランコ"を私の仲間たちが囲んでいた。


「我が頼まれたのだ。あやすのは得意ゆえ、おぬしらはさっさと寝るがよい」

「良いじゃん!! 私だってあやすの得意だよ! 2年寝坊した──」

「ちょっ……、あんた何言おうとしたのさ!?」


危ない危ない。私の秘密を暴露されるところだったわ。

 私はマニの口を手のひらで押さえる。モゴモゴ言っているが静かになってもらわないと困る。


「それは感謝してます、だから言わないで……」


そのままマニを寝室に連れていく。私がマニの口元から手のひらを離すと、

 

「へへ、いい匂い」

「あんたと同じ匂いだよ」

「だからいい匂いなの」


ぼすっと音を立ててマニはベッドに倒れる。

 

「ねぇねぇ。私、生まれ変わったらお姉ちゃんの妹になる!」 


私の枕を抱きしめてコロコロ転がりながらそう言っている。


「何言ってるの。今もそうでしょ」

「普通の姉妹がいいの。あぁ……でも、困ってる私を助けて親友になるのもいいなぁ……」


楽しそうに笑いながらそう言うマニに布団をかける。


「私のベッドだから散らかさないでね。あと、私もそこで寝るんだから空けといてよ」

「はぁい」


いい返事を聞いて私は部屋のランタンの火を消す。やっぱり私は炎の明かりが好きだ。

 リビングに戻り、そこでファーニンと話す"ブランコ"に話しかけてみる。


「私はオリヴィア。オリって呼んでね。えっと……君は」

「あたし、ブランコ」


そう言われて私は少し困惑する。


「違う名前で呼んでもいいかな」

「いいです。あたし、なんとも思わないです。お姉様の言う通りです」

「そう……えっと……、バランセ……うん。バランセルはどう?」


"ブランコ"は瞳を揺らして、


「いいです。あたし、好きです」

「うん、ならよかった……。あ、そうだ、何か食べる?」

「なんでも……たべるです」


『なんでも』か。どうしようかな。

 『きのこの味噌汁』と、『メラーフィッシュのアクアパッツァ』にしようかな。

 トマトの皮は十字に浅く切り込みを入れてから5〜10秒ほどお湯にくぐらせ、そして氷水で冷やせば簡単に取れる。

 砂抜きを終わらせた貝とともに白ワインと水でメラーフィッシュを蒸し煮していく。

 トマトは少し潰しながら煮ていこう。香り付けもかなりあっさり目に。

 きのこの味噌汁は、水からきのこを煮ていく。いろんなきのこを入れてみよう。さきに小さくしておくのがポイントだ。

 氷茉に貰った豆腐も入れて、最後に味噌を溶く。

 よし、これでいいだろう。

 ファーニンのお夜食にも良いし、あっさりしているはずだから食欲がなくても食べやすい……と思う。


「どうぞ」


私がバランセルの前に食べ物を置くと、


「あたしの為に、ありがとうございます」


そう言うとそのまま手で食べ始めようとする。びっくりして、その手を掴む。

 

「熱いよ!? ほら、これ使わないと」


そしてその手にフォークを持たせる。


「いいんです……?」

「良いよ。ケガしないでほしいからね」


あまりに自然な動作だったから、染み付いたものなのかもしれない。

 余計許せない。

 フォークを握るように持ったあと、それを口に運んだ。


「いたい……」


あれ、骨抜きはしたはずだが。


「大丈夫? 吐き出してもいいよ」

「……おいしいです。初めての感覚です。ほっぺがいたいの」

「それがおいしいだよ。オリ、私たちも食べよう」


頷いてファーニンにもそれを配る。ファーニンは受け取るとお礼を言って食べ始め、

 

「ん〜! おいしい!」


ファーニンは頬を押さえながらそう言った。素直にうれしかった。

 

「ヨルメたちの分もあるよ。……それはそうとしてあんたら素直に来たら良いんじゃないの」


ヨルメとシアルの分をお皿によそい、一緒に覗いていたマルとマリとヴェレーノそしてゲーロイに言う。


「いい肴があるじゃないか! この豆腐ときのこの味噌汁もうまそうだぞ。我にもくれ」


そうして依然と暗い夜明けの中私たちは宴会を始めたのだった。




3日後、私たちは蒼金さんの運転でわざわざ労働庁までやってきた。

 ギルドマスター曰く、こういうものはギルドではなく国の機関に任せるしかないのだとか。

 しかし、その対応は実に適当なものだった。100枚近くの資料を持ってきたというのに、目も通さずにあしらわれてしまった。

 

「ソル帝国軍の動きも怪しいと言うのに……」


ファーニンがトボトボ歩きながらそう言った。


「うん、ソルは終戦として考えていないようだったからね。近い内にもう一度挙兵するかも」


私は顎に手を当てながら憶測を告げた。


「ふむ、かなり現実味のある予想だ。否、恐らく現実になるだろうな。ルナトでは終戦の話など一切なかったそうだし、機構国との関係も冷え込んでおる」


氷茉は首肯しながらそう述べた。さらに、


「首都のすぐ近く、フーニル南海域が怪しいとか」


そっち側だと機構国との距離が近く、ルナトの協力の援助が難しいかもしれない。

 前回はフーニル沖、つまりルナトとの距離が非常に近かったからルナトからの多くの資源や弾薬を貰えていた。味方船も一部はルナトのものだった。 


「あれ以来、ルナトはより見張りを強くしているみたいだからあながち間違えてないのかも」


ファーニンもそう付け足した。


「よし、まずは革命派と接触してくる」

「私も行くよ」


私が言い切る前にファーニンが食い気味にそう言った。


「最後に……聞いて良いか?」


氷茉が私に向き直した。


「なに?」


静かな空気が頬を裂くような痛みを誘う。今夜はひどく寒いようだった。




突然使いやすくなった転移門を用いて、私たちは次の場所に向かう。


「合言葉は」


ほう。確か、合言葉は。


「フォムシ・プスリーナ」


私がそう呟くと扉が開いた。


「うお! 姉御じゃねえっすか! それに、そっちは姉さん!! いやぁ、孤児院時はお世話になったっす!」


彼は泡歌砦で唯一生き残った元敵だ。


「……今は何という」

「今っすか? 別に『鉄棒』と呼んでくれてもいいっすよ!!」


『鉄棒』。バランセルと一緒か。


「それ、一種の敵国語だよ。せめて、レックと呼ばせて」

「いいっすね!! なんか嬉しいっす! オレ、ウィードの生まれなんで名前も()ぇくて、だから嬉しいっす。おいお前ら、今から俺はレックだからな!」

「「「うっす!!」」」


レックは満面の笑みで私に近づいてきた。


「そうでした、俺らは2000いるっす。ですから、姉御に従わせる準備は出来てるっす」


こいつを逃がしてからというもの、ちょくちょく連絡を寄越してきて私をなぜか姉御と呼ぶようになった。


「む、こちらの子は?」

「なんでいるの!?」


男の子を見て氷茉が顔を上げている。私は驚く。


「あんな大きな転送門、入るなと言われても入るだろうて。そんなことはどうでも良いのだ、この子は我が国の民だろう」

「そうなんすか? この子は『雲梯(うんてい)』っす」

「うん、ぼく、うんてー。お友だち、おいてきちゃったの」


氷茉は男の子の頭を撫でながら、


「我が名付けよう。コヤツの名は、雲人(うんと)だ。どうだ?」


彼女は唸りながら名前を作った。確かにいい名前な気がする。


「んー、わかんないけどいいと思う」


氷茉は裾に手を突っ込んで、何かを見つけたのかそれを取り出し男の子に渡す。


「ほら、遊んでくるとよい」

「うわぁ! ありがとう!!」


男の子は氷茉があげた草舟を受け取るなり、すぐに部屋の隅の方に行って遊び始めた。


「やはりあのくらいの子はああやって遊ぶのがよく似合う」

「なんで草舟なんてもってんの?」

「ほう? 知っておったか」


私は小さな頃育ててくれた人に教えてもらったと軽い昔話をする。


「いい、育て親だな。しかし、メンコは知らぬまい」


メンコ? 確かに知らないな。


「ルナトに来たら教えてやろう。もみじ様はそういう遊びがお好きでな。良くしたものだ。今でもかるたで遊んでらっしゃるのだろうか」


少し楽しみだ。


「姉御? そろそろ作戦を……」


レックにそう言われ、作戦会議が始まった。




そしてそこから3日後。

 帝国は再び挙兵した。今度はより多くの兵と兵器を携えていた。

 不意を打たれたフール国側は準備も整ってないまま海戦に移る──

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