第20話 7月13日(木)
・朝8時 職員朝礼
「明日から、夏時間割になります」 教頭が連絡事項を伝える。
教師たちが手帳にメモを取る。 その動きを見ていて、田中校長は違和感を覚えた。
ペンを持つ角度、 メモを取る速度、 ページをめくるタイミング。
なぜか、みんな似ている。 いや、似ているどころか、ほぼ同じだ。
・朝8時30分 1年1組
「今日のお勉強は...」 担任が言いかけると、子供たちが教科書を開く。 国語の教科書、42ページ。
「あら、もう分かってたの?」 「うん」 「なんとなく」 「今日はこれって感じ」
30人の1年生が、同じページを開いている。 しかも、担任はまだ何も言っていないのに。
・給食時間 12時30分
今日のメニューは、子供たちに人気のカレーライス。 でも、教室の雰囲気がいつもと違う。
「先生、お魚のカレーはないんですか?」 5年生の男の子が聞く。
「お魚のカレー?」 「うん、お魚の」 「そうそう、お魚がいい」
クラスの半数以上が同意する。 カレーは肉、という常識が覆されていく。
「来週は、シーフードカレーをお願いしてみるね」 教師が答えると、子供たちは満足そうに頷く。
でも、今日のカレーは、ほとんど手つかずで残される。 ご飯と福神漬けだけ食べて、カレーは残す子が多い。
・給食時間 12時45分 給食室
「今日は残食が多いですね」 調理員が首を傾げる。
カレーの鍋が、ほとんど減っていない。 人気メニューのはずなのに。
「最近、子供たちの好みが変わったみたいで」 栄養士の橋本が、データを見ながら言う。
魚料理の日:残食率3%
肉料理の日:残食率45%
そして今日のカレー:残食率70%
「献立、見直した方がいいかもしれませんね」




