第18話 7月11日(火)
理科室 5年生の授業 2時間目
「今日は、顕微鏡で髪の毛を観察しましょう」 渡辺教諭が説明する。
子供たちは、手際よく顕微鏡を準備する。 その動きが妙に統一されている。 まるで、何度も練習したかのように。
「自分の髪の毛を1本抜いて、観察してください」 みんな、同時に髪に手をやる。 そして、同じような場所から1本抜く。
理科室 続き 観察開始
「先生、これ変です」 最初に声を上げたのは、小峰香織。
「どれどれ」 渡辺教諭が顕微鏡を覗く。
確かに変だ。 髪の毛の構造が、途中で変化している。 根元は人間の毛髪の構造。 でも、中間から先端にかけて、構造が変わっている。
もっと密度が高く、 もっと柔軟で、 もっと...動物的な構造に。
理科室 さらに続き
「私のも見て」 「ぼくのも」
次々と子供たちが声を上げる。 確認すると、全員の髪の毛に同じ現象が見られた。
「これは...標本の準備ミスかな」 渡辺教諭は、そう言って誤魔化す。 でも、内心では確信している。 これは、ミスではない。
自分の髪の毛も確認したい衝動に駆られる。 でも、怖い。 きっと、同じ結果が出ることが分かっているから。
放課後 職員室 午後4時
「最近、子供たちの様子が...」 若い教師の宮田理恵が切り出す。
職員室にいた教師たちが、顔を上げる。 みんな、同じことを感じていたらしい。
「まとまりが良すぎるというか」
「統率が取れすぎているというか」
「個性がなくなってきているような」
でも、ベテラン教師たちは深く議論しない。
「成長期にはよくあること」
「集団生活に慣れてきただけ」
「問題行動がないならいいじゃない」
そう言いながら、窓の外を見る教師たち。 まだ明るい空。 でも、なぜかみんな、月を探している。 昼間なのに、月の存在を感じている。




