第16話 7月8日(土)9日(日)
・朝6時30分 各家庭の窓辺
土曜の朝、祢古町の多くの家で同じ光景が見られた。 子供たちが、窓辺に立っている。
栗田家では、周平が東の空を見つめている。 山田家でも、娘が同じ方向を見ている。 根岸家のかおりも、鈴木家の太郎も。
みんな、同じ時刻に、同じ方向を。
「何を見てるの?」 親たちが口々に聞く。
「なんとなく」 「きれいだから」 「見たくなって」
答えはバラバラ。 でも、視線の先は同じ。 まだ月の出ていない、東の空。
・朝6時45分 親たちの反応
不思議なことに、親たちも窓辺に立ち始める。 最初は子供の様子を見に来ただけなのに、 なぜか自分も外を見たくなる。
「確かに、きれいね」 母親たちがつぶやく。 何がきれいなのか、自分でも分からないまま。
父親たちも、新聞を読む手を止めて窓の外を見る。 「今日は月が見えるのかな」 「新月じゃなかった?」 「でも、なんか...感じるよな」
親子で並んで、同じ方向を見つめる。 隣の家でも、その隣でも。 町中が、東の空に意識を向けている。
・朝7時 朝食の風景
「今日の朝ごはん、何がいい?」 母親たちが聞く。
「魚」 子供たちの答えが、どの家でも同じ。
「また魚?」 「うん、魚がいい」
冷蔵庫を開ける母親たち。 確かに、最近魚ばかり買っている。 肉はほとんど減っていない。
焼き魚の匂いが、各家庭から漂い始める。 その匂いに誘われるように、 野良猫たちが家の周りに集まってくる。
でも、餌を求めているわけではなさそうだ。 ただ、じっと家の中を見ている。
■7月9日(日)
・中央公園
日曜の公園は、いつも子供たちで賑わう。 でも今日は、何かが違う。
子供たちが円を作って座っている。 10人、15人、20人... 次々と加わっていく。
特に何をするでもない。 ただ座って、同じ方向を見ている。 北東の方角を。
通りかかった大人たちが不思議そうに見る。 「何してるの?」 「座ってる」 それ以上の説明はない。
1時間後、子供たちは一斉に立ち上がる。 そして、何事もなかったかのように遊び始める。




