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この町のネコ、やっぱりおかしい ー市立祢古小学校記録集ー  作者: 大西さん
第一部 静かなる予兆(2023年7月)
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15/169

第15話 7月7日(金)七夕集会

・朝8時 体育館への移動


各クラスが体育館に向かう。 廊下を歩く足音が、妙にリズミカルだ。


1年生も6年生も、同じテンポで歩いている。 タッ、タッ、タッ... まるで、メトロノームに合わせているかのよう。


体育館に入る時も、各クラスが同じ間隔を保っている。 誰も指示していないのに、 全クラスが等間隔で並んでいく。


・朝8時30分 七夕集会開始


「おはようございます」 児童会長の挨拶に、全校生徒が答える。 その声の大きさ、長さ、トーンが完全に一致。


体育館の天井が震えるような、一つの大きな声。 教師たちは顔を見合わせる。 練習もしていないのに、なぜこんなに揃うのか。


・朝8時40分 願い事の発表


各学年の代表が、短冊の願い事を読み上げる。


1年生代表:「よるがよくみえるようになりたい」

2年生代表:「みんなとおなじになりたい」

3年生代表:「つきのことばがわかるようになりたい」


願い事の内容が、妙に似通っている。 そして、4年生、5年生、6年生と進むにつれ、 願い事はさらに奇妙になっていく。


5年生代表:「ほんとうのじぶんをしりたい」

6年生代表:「せんねんまえのきおくをおもいだしたい」


会場がざわつく。 千年前? 子供の想像力にしても、不思議な願い事だ。


・朝8時50分 全校合唱


「たなばたさま」を全員で歌う。 ピアノの前奏が始まると、 全員が同時に息を吸い込む音が聞こえる。


「ささのはさらさら〜」 いや、違う。 「つきのはさらさら〜」


全校生徒が、自然に歌詞を変えて歌っている。 教師たちは止めようとするが、 その歌声があまりにも美しくて、声が出ない。


300人以上の声が、完璧に調和している。 高音と低音が絶妙に混ざり合い、 体育館全体が楽器のように響いている。


・朝9時 短冊を見る教師たち


集会後、教師たちが短冊を確認する。 そこには、先ほど発表されたもの以外にも、 奇妙な願い事がたくさん書かれていた。


「はやくはしりたい(4ほんあしで)」

「みんなのきもちがわかるようになりたい」

「おつきさまのこどもになりたい」

「もうにんげんじゃなくていい」


最後の願い事を見て、教師たちは息を呑む。 これを書いたのは、成績優秀な5年生の女の子。 なぜ、こんなことを...


「子供の想像力は豊かですから」 田中校長が笑顔で言う。 でも、その笑顔は固い。 額には、薄っすらと汗が浮いている。


・朝9時10分 職員室での会話


「あの願い事、変じゃありませんか?」 若い教師が切り出す。


「確かに、今年は特殊な内容が多いですね」

「みんな、月や動物の話ばかり」

「それに、あの歌詞の変更...」


でも、ベテラン教師たちは深く追求しない。 むしろ、話題を変えようとする。


「まあ、子供たちが元気ならいいじゃないですか」

「そうですね、健康が一番」


そう言いながら、窓の外を見る教師たち。 まだ朝の空。 でも、なぜかみんな、月を探している。

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