漆黒の夜に目覚めし騎士のステーキ
「ーー骨料理? いいね。そういうの、嫌いじゃない」
テンカとクロエがアグナスープの改良に勤しんでいると、一目で上級冒険者だと分かる青年がふらりと現れた。銀髪に蒼い瞳、常に微笑を絶やさない端整な顔立ちをしている。
「俺は暗黒騎士のリオン、世界一美味しいグルメを探して旅する冒険者だ」
リオンは当然のようにテンカのスープ椀を手に取り、一口すすった。
「このスープは火竜の怒りと慈しみが同居している、まるで“燃える母性”だッ」
リオンは突然膝をつき、目から一筋の涙を流した。
「いい食べっぷりだ!お前も俺たち創作魔物料理パーティーに入るか?」
「ひーっ、ただですら変人パーティーなのに、さらに増やすの⁉︎」
テンカがリオンを勧誘し、クロエは悲鳴をあげた。
「創作魔物料理、なんて甘美な響きだ」
こうしてリオンがパーティーに加わってから、活動はひときわ派手になった。
ある日、テンカが巨大な魔物の情報を持ち帰る。
「《魔獣グラットン・グロウ》っていう、瘴気に満ちた洞窟に棲む食肉魔獣にどうやら体内に希少な脂肪層があって、旨味がすごいらしい」
「ーーつまり」
と、リオンが立ち上がる。
「狩って、捌いて、食べろってことだな」
⸻
魔獣グラットンは、全身が岩のような脂肪と鋭利な骨で覆われた巨体。接近すれば瘴気で体力が削られる。通常の剣では刃が通らない。
が──
「こんなもの、旨味の層を見極めれば一撃でいい」
リオンは《龍髄の大骨剣》を構える。
重心を落とし、魔獣の首筋──「背脂結晶層」を狙って斬撃を放つ。
「骨牙連断──“切り身”!」
骨剣が光を放ち、魔獣の巨大な肩肉を、まるでローストビーフのようにスライスして落とす。
「完璧な焼き色になるまであと20分。あとはクロエ、頼んだ」
⸻
そして完成した料理を前に、テンカが一口かじると──
「う、わ、何だこれ、口の中で......」
リオンが頷く。
「“溶ける”だろ? 罪の味だ。だが、背徳こそ最高のスパイス」
「うう、リオンのこの変な言葉づかいさえなければモンスター倒してくれるし下準備してくれるし最高なのに」
エナが戻ってきた時に、このカオスな状況をどう説明しようかと一人思い悩むクロエであった。




