受付嬢
はい、いらっしゃいませ。クエスト依頼でしょうか? それとも冒険者登録でしょうか?
えっ、そのどれでもないと。
食事でしたら左手奥の酒場になりますよ。
それも違うと? では御用件は何でしょうか? ゴリス支部長なら生憎と不在でしてね。
えっ? 新聞記者の方? 私を取材しに来たと。
なるほど、美人と名高く理知的な私に取材ですか。
なに? そこまでは言ってない。……軽い冗談ですよ。それで取材とは? 守秘義務も有りますので答えられる範囲でなら答えましょう。
ふむふむ、二ヶ月前に【竜の顎】を追放された冒険者に付いて是非とも受付嬢視点の取材が欲しいと。
なるほど。正直に言えば意外でしたね、えっ? 北方のギルドじゃあ当然の結果と言われてるんです? まあ、そのような評価も無理無いとは思いますが。
あぁ、意外に感じたとこについてですね。あの子の兄は非常に妹を溺愛してましてね。もう顔を合わせる度に妹自慢と勝ち誇った顔を向けて来ましたよ。
じゃあ何で追放されたのか? さあ? 何か想う所が有ったのでしょう。妹のことを常に考えてますから、あの馬鹿とあの二人は。
えっ? 巷では欠陥品だから追放された? ……へぇ。
おっと何を怯えてるんです? こんな美人の笑顔を見て怯えるだなんて失礼ですよ、もう!
……まあ、確かにあの子は魔力が一切使えずギルドが定めた総合評価もF−判定です。
最低も最低ですが戦闘能力だけは一級品ですよ。あの子、実は結構凄いんです。それはもう大抵の魔物なら瞬殺も瞬殺。
あれは四年前ですかね。あの子たちがまだ新米だった頃、あの子は単独で十頭のオーガを真正面から瞬殺したんですよ。
流石に大袈裟? 実は当時ギルドでもあの子は冒険者としてやって行けるのか非常に疑問視されてたんですよ。
そこで急遽、どれだけ魔物に対する実力を発揮できるのかという試験が与えられましてね。
その時、担当官だったのが私とゴリラ──ゴリス支部長だったんですよ。
オーガはアスガル領内では上位の強さと謳われてますが、他の領内ではそこそこ程度。ですが剛体に覆われた筋肉は並の攻撃や魔法は寄せ付けません。
あの子は一体どうやって倒したと思います? なに、想像もできない?
あの子が四年も生きてることが証拠の一つでも有りますが……あの子はオーガの脆い部分を見極め、的確に斬り刻んだんですよ。
魔力を一切操作できないあの子がですよ。他の冒険者に同じ事をやれと言えば、みんな首を左右に振るんです。
当時のことは支部長にも確認してみると良いですよ。彼は嘘も誇張もしませんから。
俄には信じられない? まあ、あの子は自分の事を喧伝したり話すこともましてや力を自慢することも無いですからね。
謙虚? いえあの子は他人の評価にも自分自身にも無関心なだけです。
それにクエストの受諾も依頼主との問答も全て【竜の顎】が引き受けてましたから。
それにあの子の実力は彼らの前では霞ますから仕方ないのです。
じゃああの子はいまどうしてるのかって? そりゃあ新米くんとクエストに行ってますよ。
欠陥品と一党を組む物好きが居る? 貴女は先から随分と失礼な人ですね。まあ良いです。
確かに最初は、というか町に帰って来た一ヶ月は組んでは追放の繰り返しでしたね。
組んだ一党はこう言うのです。魔物の斬殺劇に精神が磨り減る。彼女と合わせられる自信が無い。無関心で無表情で何を考えてるのか分からない。
そして貴女のように欠陥品と罵って一党から追放するケースも多々有りますね。
あの子はアスガルに滞在中の全冒険者一党、十組みと一党を組んだ事になります。
えっ? 傷だらけの経歴? まあ、そうとも言えなくはないですね。
あ、そうこうしてる内に帰って来ましたよ。って、あの子に取材しないんですかぁっ!?
あらあら、あんなに急いで。全く、過去に縛られた者は難儀ですね。いえ、それが悪いとは言いませんけど。
……暗い瞳にあの子はどう映ってるのでしょうかね?




