それぞれの服装
家を出た我は、自分の家のある住宅街を歩いて、ていせつに向かう事になった。
リリの言っていたショッピングモールは、2番街にあるからな。歩いていくには、この4番街からは、ちと遠すぎる。だから、ていせつで向かうのだ。
とはいえ、ていせつまでは我の家から、それなりに遠い。数十分歩く必要があるので、我とリリは、手を繋ぎながらていせつへと向かう。
パジャマから着替えた我の服は、白のロングスカートに、緑のブラウスを着こんでいる。スカートは、真ん中の下の方にスリットが入っていて、歩きやすい。ブラウスはなるべく生地の余るものにして、あまり胸を強調しすぎないようにしているぞ。
普段の、ドレス姿の我も評判だが、私服姿も可愛いと評判の我なのだ。魔王として、皆の手本になるよう、服にも気を遣わなければいけんから、大変だ。まぁ、リリに言われるがままに買った服ばかりなのだがな!
そうして、しばらく歩いていき、もうじきていせつに付こうかと言う時だった。正面から、物凄い速さで駆け寄ってくる人影を目にする。
「な、なんだ?うんこでも漏れそうな人か?」
「魔王様、下品ですよ」
そう言うと、リリに軽く怒られてしまった。
だが、あの慌てようはただ事ではないぞ。きっと、うんこだ。うんこに違いない。
よく見れば、女子ではないか。赤く長い髪を置き去りにしながら、凄いダッシュを見せている。ただ、もっと凄いのは履いているミニスカートが、めくれない事だ。ついでに言うと、頭に被った帽子が飛ばないのも、不思議だ。ノリか何かで、くっつけているのか?
そう思っていたら、よく見ればそれは、勇者だった。
「勇者!?」
気づいた時には、もう遅かった。勇者はそのまま我に向かって突っ込んでくると、我の胸に飛び込んできた。そしてそのまま、背中に回された勇者の手に拘束され、抱き上げられてしまった。
しかしもう慣れたもので、驚きはしたが、どこか普通だと感じ、受け入れてしまったぞ。
「勇者が、どうしてここに……?」
「リリさんに、買い物に誘われたんだ。久しぶりにアティに会えて、嬉しい……!」
久しぶりといっても、たった数日合わなかっただけである。だが、勇者は本当に嬉しそうに我の胸に頬ずりをして、喜んでいる様子が伺える。
そんな勇者の帽子を、我は手にとった。普通に、頭から外れた。くっついている様子はないのを確認すると、元に戻しておく。不思議である。
「──はぁ、はぁ。クルス、急に走らないでよ……!」
遅れて、魔術師も、走ってやってきた。こちらは、ショートパンツを履き、露出した脚はニーソを履きこんでいる。上は、肘の辺りまである白のシャツを着こんでいるぞ。シャツは、魔術師の体格に見合わず、大分大きく見える。ダボっとしているが、それをカバーするように腰のあたりで結び、下には更に、黒のキャミソールを着ているようだ。シャツから透けて見えている。そして、帽子を深く被っているという格好だ。
魔術師は、何かを被っていないと、いられないのか?その全貌を、我は未だに一度も見た事がない。
が、帽子だけを被った状態の彼女の髪は、キレイだった。絹のように流れる真っすぐな金髪が、背中にかかっている。
「お二人とも、お待たせしました。魔王様の支度に手こずり、遅れて申し訳ございません」
「我のせいなのか?いや、我のせいか。ごめんなさい」
約束していたのは本当だったので、そうなってしまう。何か腑に落ちないが、認めるべきところは認めておこう。
「はぁ……別に、いいわ。買い物に付き合ってほしくて、リリさんにお願いしたのはこっちだし、気にしないで。それにしても、魔王の服、可愛いわね。凄く似合ってるわ」
「そ、そうか?ありがとう!」
魔術師が、息を整えながら、褒めてくれた。我は思わず笑顔になってお礼を言うと、急に、恥ずかしそうに俯き、自らの身体を隠すような仕草を見せた。
「どうしたのだ?魔術師も、似合っているぞ?」
「ほ、本当?リリさんに借りたんだけど、こういう服、初めてだからよく分からなくて……」
「とてもよく似合っています」
「あ、ありがと……」
我とリリが続けざまに褒めると、魔術師も笑顔になった。
間違いなく、魔術師は美少女であり、恥じらう必要はまったくない。ただ、一つ注文をつけるとしたら、大胆に露出した脚が、ちょっとエロいぞ。少しだけだが、むちっとした脚の肉が、たまらんのだ。細い脚も良いが、魔術師のように、むちっとした脚を露出してニーソを履くと、肌とニーソの所の境界線に、肉が盛り上がる。その盛り上がり具合に、思わず目が惹かれてしまう。
我ですら惹かれてしまうのだから、男たちの視線も集める事になるだろう。だから、できればもう少し、露出を減らしてほしい所である。
「と、いう事は、勇者の服も、リリの物だな?」
「はい」
我が尋ねると、リリはやはり、肯定した。抱き着かれているのでよく見えないが、あのミニスカートと、魔術師やリリと似たような、ギャル系のファッションは、完全にリリの趣味である。
「ええい、いい加減離さぬか」
勇者の私服姿も、じっくり見てみたい。そんなイラ立ちから、我は勇者の頭を叩いて訴えた。
叩いたと言っても、魔術師のように、遠慮のない一撃ではない。いつも通りの、軽い一撃である。
だが、勇者は微動だにしない。我を抱きしめたまま離そうとしないので、仕方がない。魔術師に目で訴えると、魔術師は察して、勇者の背後に回った。
「勇者様。魔王様の私服姿はよくご覧になられましたか?いつもとは雰囲気が全く違くて、可愛い姿の魔王様をご覧になる事ができます」
「はっ」
勇者の背後で拳を構えた魔術師を遮り、リリが勇者の耳元で、そう呟いた。すると、勇者が我を離し、地面に置いた。自らは一歩下がり、我を見下ろして来る。
勇者は、スタイルがとてもいい。スカートから出た、細い脚。全体的にほっそりとした身体つきをしていて、背も大きい。上に着ているTシャツのガラは、ドクロマークの刻まれた、独特なガラだ。その上に薄手のカーディガンを羽織っている。頭に乗せた帽子と相まって、少年っぽくもあり、ガラの悪い大人のようにも見える。
「……アティ」
「な、なんだ?」
勇者が、我をじっと見据えて、我の名前を呼んできた。いつもながらの無表情だが、その目が妙に据わっていて、見返していられない。我は思わず、その目を背けたぞ。
「凄く、よく似合ってる。いつものドレスも可愛いけど、私服姿のアティも、可愛い。私は色んなアティをこの目で見る事ができて、幸せだよ」
「は、恥ずかしい事を言うな。勇者だって、その服凄くよく似合ってるからな!我とは違い、スタイルが良いから凄くセクシーで良いと思う!」
「ありがとう、アティ……。アティに褒められると、一番嬉しい。リリさんも、服を貸してくれてありがとう。おかげで、アティに褒められる事ができたよ」
「良かったですね」
「……」
いつもは、もっとふざけた感じで我と絡んでくる勇者なのに、突然こうして目を据わらせて言われると、思わず胸が高鳴ってしまう。我は、あの真剣な勇者の目を思い返し、自分の顔が赤くなるのを感じる。一体、何だと言うのだ。こんなの、初めてだぞ。
「服は見たから、それじゃあ続きを」
「のわ!?」
勇者はそう言うと、また我の胸に顔を埋め、抱き上げて来た。
直後に、そんな勇者の後頭部に、拳を構えたままだった魔術師の拳が、炸裂したぞ。どうやら魔術師は、こうなる事を予測していたようだ。
こうして、この4人での買い物に出かける事になったのだが、早くも先行きが不安である。




