格差
2番街のショッピングモールは、我の予想通り、物凄い人でごった返していた。2番街行きのていせつも、順番待ちで少し時間がかかったくらいだからな。オマケに、魔導車を停めるための駐車場も、混みあっていた。
さすがは、休日だ。親子連れの家族から、友達、恋人同士で訪れて、皆が笑顔で、買い物を楽しんでいるぞ。
魔王として、そんな楽しそうな魔族達の様子を見るのは、嬉しいものだ。我は、この笑顔を守るため、日々魔王として、頑張っているのだからな。
だが一方で、どうしてこ奴らは、わざわざこのように混む場所へと、足を運ぶのかという疑問が生まれる。家に籠もって、ゲームしてた方が楽しいぞ。その喜びを知らぬのなら、我が教えてやらねばならん。それが、魔王としての責務である。
が、楽しみ方は人それぞれなので、やめておこう。楽しみの強要は、してはいけない事だ。
「こ、コレが、100ザリン!?」
最初に立ち寄ったのは、100ザリンショップだ。。この店で売っている物は、全て100ザリンとなっている。さすがに、人の集まるショッピングモールなだけあって、店の規模は他の店舗とは比べ物にならないくらい、大きい。見る物がたくさんありすぎて、目が回ってしまいそうだ。
そんな大きな店の中で、魔術師はキッチン用品コーナーに張り付き、目を輝かせて商品を見ているぞ。
「ホラ、見てよ、魔王!コレが100ザリンよ!?この、便利な道具が、100ザリン!信じられる!?」
「う、うむ。そうだな」
魔術師ははしゃいでおかしな棒を見せてくるが、我には用途が分からん。先端が三角形になった針金が、重なり合って空間を作っている。何に使うのか、全く分からんぞ。
「……」
だが、魔術師は名残惜しそうに、そのおかしな棒を商品棚に戻した。
「買わぬのか?」
「ええ。しばらくは、節約しないといけないから。便利そうで凄く欲しいけど、そんな事を繰り返してたら、お金がいくらあっても足りないもの。我慢よ、我慢……!」
そういう魔術師の目は、血走っていたし、手が震えていた。だったら、見なければ良いのと思ったが、我はそれを口にする勇気がなかったぞ。
「ロゼ。買う物は、決まった?私はもう、決まったよ。あ、コレも欲しい」
そう言いながらやってきた勇者が手にする籠には、いっぱいの商品が詰め込まれていた。明らかに、必要ではないパーティグッズや、玩具類が数多く入っていて、節約志向の魔術師に喧嘩を売るような商品の数々であった。
「こ、コレは、いるのか……?」
我は、そんな籠の中から玩具の虫を手に取り、勇者に尋ねる。
「うん。コレを使って、ロゼを驚かすんだ。きっと、凄く驚くと思う」
先ほど、商品を手にして目を輝かせていた魔術師と同じように、勇者も目を輝かせて言った。しかし、使用目的が邪というか、幼いぞ。
「……クルス。戻してきなさい。今すぐに」
「でも、あればきっと楽しいよっ」
「分かってないなら、教えてあげる。私たちには、お金がないの。だから、こんなの買ってる余裕はないの。今すぐ戻してきなさい。さもないと、あんたを殺してから、必要な物だけ買ってお店を出る事になるわ」
梱包された、100ザリンの包丁を手にして言う魔術師は、本当に怖かった。
「ゆ、勇者。言われた通り、戻してくるのだ。良いな?」
「……うん。ロゼの言う通りにするよ」
勇者は、しょんぼりとして、商品を戻しに行った。その後ろ姿が、妙に哀愁漂っていて、ちと可愛そうかとも思うが、コレは勇者が悪いと思うぞ。そういうのは、お給料が出て、自分で稼げるようになってから、自由にやれば良いと思う。
だが、おとなしく商品を戻しに行くのは、偉い。後で、褒めてやろう。それで、元気が出るはずだ。
結局、100ザリンショップでは、キッチン周りの必要な物だけを買って、後にした。ほんの3点程しか、買わなかったぞ。
「ふぅ。少し、買いすぎましたね」
一方で、一緒に店を出たリリは、大量に購入していた。お菓子や、鉢に、鉄網や、小さ目の木箱に、シャベルと木のフェンスに、その他小物等を買っていたのを見たぞ。それらの物が入れらた袋は、お洒落な水玉模様のエコバッグで、大きめの袋なのだが、パンパンに詰まっている。
「……」
それを見て、魔術師は固まった。片や3点買うだけで、厳選に厳選を重ねた者と、大量に買った者。そこには、確かな格差が存在している。
リリは一応、魔王の側近だからな。それなりに稼いではいるので、100ザリンショップでこれくらいの買い物をするくらいの、財力は持っている。
「リリさん。私が持つよ」
そのリリの荷物を、勇者がさりげなく取ると、自分の肩に担いだ。
「ありがとうございます、勇者様」
勇者の、こういうさりげない気遣いができる所は、良いと思う。
リリは、荷物がなくなった事により、身軽になって本当に助かったと言う様子だ。いつもなら、我が持ってあげるのだがな。しかし、勇者がそうしてくれるのなら、その役目は譲るとしよう。リリも、嬉しそうだしな。
「続いて、どこに行きましょうか。服でも、見てみますか?」
「興味はあるけど、お金がないし、給料日までとっておく事にするわ。それより、日用品が欲しくて……洗剤とか、ティッシュとか、あと裁縫用の糸も欲しいわね。できれば、頑丈なやつ。今着てるヤツが、少し破れてる所があって、それを補修したいの」
「裁縫道具を売っているお店が、二階にあります。洗剤やティッシュはかさばるので、さきにそちらに行ってみましょうか」
「分かったわ」
リリの案内により、2階へとやってきた我らは、そこで魔術師の目的の物を買い、更に日用品を買い足して、あっという間に時間が過ぎて行った。寄った店はそれだけではなく、ペットショップでメガトンゾーラを抱かせてもらったり、マッサージ器の体験コーナーで、様々なマッサージ器を体験してみたり、寝具専門店で、寝具を体験してみたりと、楽しい時間が過ぎていく。気づけば、あっという間にお昼時である。お腹も減って来て、我のお腹が、ご飯を求めて大きく鳴った。
「お腹、空きましたか?」
「う、うむ……」
我のお腹の音を聞いたリリが、そう尋ねて来た。
「では、お昼にしましょう。勇者様と、魔術師様も、それでいいでしょうか」
「……」
そう尋ねたリリに対して、魔術師は目を逸らした。何やら、言いにくそうに目を伏せて、寂しげな表情を浮かべている。
「どうしました?」
「……お金がないから、お昼は……なしで。ごめんね」
確かに、お金がないと言っている者を、お昼に誘うなど酷な話である。お昼にするという事は、それだけお金がかかる事だからな……。
「それでしたら、大丈夫ですよ。今日は、お二人の歓迎会も兼ねているという事で、私が奢ります」
「そ、そんなの、悪すぎる……!リリさんには、生活の面でも支えてもらってお世話になっているし、これ以上の恩は、返せる気がしなくなっちゃうわ……」
「私は、返してほしくてやっている訳ではありません。私がしたいから、しているだけです。なので、何の気兼ねもなく、歓迎会だと思って、お受け取りください。それに──」
我は、透明なケースの中に入った、ステーキの食品サンプルを眺めて、涎を垂らす。食品サンプルだと分かってはいるが、お店の中から漂ってくるお肉の良い匂いが、我の胃袋を掴んで離さないのだ。
「美味しそうだね、アティ。お肉は、凄く良いよね」
「うむ。お肉は美味い。だが、あっちのオムライスのお店も美味そうだっ!」
我と勇者は、はしゃいで各お店の食品サンプルを見て回る。どのお店も美味しそうで、良い臭いで、我を誘惑してくる。
「──魔王様も、勇者様も、食べる気満々です」
「そう、みたいね……」
「ん。リリと魔術師も、一緒に見て選ばぬか!何が良いと思う!?我は、今の所お肉が一番だと思うぞ!」
我は、商品を見ようとせず、話しこんでいる2人に向かって声をかけた。こういうのは、何が食べたいのか話し合ったうえで、決めなければいけないのだ。だから、2人にも意見を出してもらい、総合的にみて決める必要がある。
「……私はあっちの、ヘルシーレストランがいいと思うわ!カロリー少な目で、栄養抜群よ!」
魔術師はそう言って来たが、我はあまり、ヘルシーとかには興味がない。意見を聞くとは言ったが、勇者と一緒に魔術師を見返し、我は呆然とした。
「なんでそんな顔するのよ」
「いや……うん……」
「魔王様に、ヘルシー料理を食べると言う概念はありません。選択になかった事を魔術師様に言われた事により、頭がショートしてしまったのでしょう」
「お、美味しそうじゃない!それに、いくら食べても低カロリーで、太らないのよ!?ほら、あのお肉の丼だって、たったの300キロカロリーよ!凄くない!?」
熱弁しながら、魔術師が透明なケースの中のメニューを指さして、我に訴えかけてくる。しかし、我の心に刺さる物が、何もない。カロリーとか言われても、よく分からんしな。
例えば、1000キロカロリーの物を食べたとして、その日の内にすぐ太る訳でもないし、目に見えて変わる訳ではない。目に見えない物なので、カロリーはよく分からん。
「美味しそうだが……しかし、我は別に、体重とか気にせんからな……。だったら、あっちの焼肉丼を食べたいぞ」
我が指さしたのは、大量のカルビに、大量のタレがかけられた、食品サンプルだ。美味そうで、見ているだけで涎が垂れそうになる。
「私も、アレに賛成」
勇者が、そう言って我に賛同してくれた。
「クルス!裏切るの!?」
「私は元々、魔王の味方だよ」
「おわっ」
我は勇者に、背後から抱きしめられて、拘束された。いつもよりはだいぶ柔らかなスキンシップなので、まぁよしとしよう。
「私も、今日はガッツリと食べたい気分なので、魔王様に賛成です」
「リリさんまで!?」
「くくく。どうやら、決まったようだな。魔術師よ。今日は、焼肉丼で決まりだ!」
多数決で決まったので、文句は言えまい。結局、意見は聞いたものの、我の意見が通り、お昼は焼肉丼という事になった。
しかし、魔術師の食べっぷりは、凄かった。ご飯の大盛が無料と聞き、当然のように大盛にしたし、お肉もましましにして、あっという間に平らげてしまった。しかも、凄く幸せそうに食べていて、店員さんが嬉しそうにしていたぞ。




