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芽吹き  作者: みわかず
2/2

後編


「え! お母さんたらそんな事言ってたの? あっはっは!災難だったわね」


『全くな。あれで見えていないと言うのだから(おそ)れ入る』


あれから二十回目の春。

幼女は娘になり女性となった。

それでも変わらずに話をすることができる。久しぶりの長い付き合いになった。


「ま、そのおかげで英語が大好きになったけどね。親子共々お世話になりました」


しっとりとお辞儀をする姿に、立派な女性になったとしみじみとする。


『確か、式は向こうで挙げるのだったな』


「うん。ドレス姿を見せられなくてごめんね~」


結婚式のドレス姿というものに興味はあったが、大学の祭りで着たというドレス姿を写真で見せられたので、ぼんやりと想像はできる。着物の方が似合うだろうと思ったのは内緒だ。


「これだけ英語を喋れるようになったのに、旦那になる人がまさかドイツ人とはね~」


幸せそうに笑う。


『どこの異国人だろうが、お前が相手と幸せならばいいではないか』


こちらも頬がゆるむ。

お前の笑顔は、何度も我を幸せにしてくれたぞ。


「ふふ、ありがと。ただ残念なのは、毎年の春に来られなくなることかなぁ」


少し翳った笑顔は、残念であり嬉しい事を教えてくれる。


我はこの木のみに宿る精だから、桜の木ならと何でもいい訳ではない。そして、枝を折られれば直ぐに弱る。

そう説明した時の落ち込みに比べれば、聞き分けが良くなった。

成長を目の当たりに出来た事を嬉しく思う。


『お前の子供か孫が訪れる事を楽しみにしているからな』


「子供か孫だけ?」


『なんだ、駄々っ子に戻るのか。そんな図体ではもう可愛くないぞ』


「あっはっは! 失礼ね!」


ひとしきり笑うと、幹にそっと寄り添ってきた。


「結局、あなたに触ることは出来なかったわね」


『精だからな。だが、お前がそうして幹に触れてくれることは嬉しく思うぞ』


「元気でね……」


『……お前もな』


「次に会うときは、あなたはお爺ちゃんかしら?」


『その時はお前のシワを数えてやろう』


しばし睨み合う。すぐ笑ってしまったが。


そして、その後ろ姿を見送った。


最後になるだろうこの時を、ずっと思い出しては懐かしむのだろう。


まあそれも、悪くはない。




















だがしかし。そんな(ゆるや)かな日々はしばらく来なかった。


「ここが我が家のとっておきの桜よ~!」


大勢を引き連れて、娘の母御が毎年必ず我の元でドンチャン騒ぎをするようになった。


……ふ。母御よ。


そなたが元気なのは喜ばしいことだが、日の出から日の()までの宴会はやめてくれ! 


…………父御よ、背負って帰るのは甲斐性かもしれんが、もう少し酒量を控えるように言ってたもれ。


だが。

今年もまた、写真をありがとう。

幼子(おさなご)は大きくなるのが早い。


ふふ。




















春。


ああ。


また、今年も綺麗に咲こうか。

















たぶん、センチメンタル枠には入ってるはず……w


お読みいただき、ありがとうございます。


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