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君と僕の理想世界  作者: 天崎
第2章
68/79

作戦会議

一対一戦もいよいよ大詰め、残すは準決勝と決勝戦だけ。グループごとの決勝戦が終われば、最後の一人を決める戦いが執り行われる。

長かったトーナメントも人数が少なくなってくると回転率が上がって休む暇も無い。だから、準決勝と決勝の前には二十分のインターバルが挟まれる。


その間だけは試合場所から外に出る事が出来る為、私達は飲み物を買いに行く事にした。


「準決勝に残ったのは私と八雲、それに別グループの一葉。ごめんなさいね、ミリル」

「いえ、正々堂々と戦った末の結果ですわ。実咲様は(わたくし)を打ち負かした事を誇るべきですの」


皆、順調に勝ち進んできたけれど、先の試合は私とミリルが戦う事になってしまった。ギリギリの試合運びだったのだけれど、何とか勝つ事ができた。想也君との特訓の成果が如実に現れてるわ。


想也君、ちゃんと見てくれてるかしら。


実は何度か念話をしようとしたけれど、ぐっと我慢した。想也君の事だから、話せばきっとアドバイスをしてくれるだろうと思ったから。


私は一人で戦えるって事を証明したい。そうしないと何時までも想也君が私に背中を預けてくれない。


アドバイスを貰ったら一人でやり遂げたとは言えない。


想也君にとって私は護るべき対象だ。もちろん、悪い気はしない。けれど、それでは想也君の負担でしかない。ただのお荷物はいつか降ろされる日が来る。


私にはそれが恐怖だ。だから、私は想也君の隣に居られる事を証明しなければならない。これから先、ずっと一緒に生きていくのは確定してるけど、出来れば想也君が自主的に私を掴まえてくれるのが良いわね。


その為にも掴みやすい私で居ないとね。


「準決勝は俺と現乃だったな。負けねえぞ」

「私もそのつもりよ」


私の手の内を知っている相手とはやり合いたくないわね。不利なだけだもの。


一葉は一人だけ別グループになっているのでそういう心配は無いけれど、決勝では想也君にちょっかいを掛けていた朱島と争う事になる。一葉には勝って欲しいわね。


「お、アレ想也と護人じゃねーか? ……誰だアレ」

「人混みでよく見えないよ。よく見つけられたね、八雲君」

「会って雑談する時間は有りませんわ。早く飲み物を買って戻りませんと。……って、どちら様でしょうか」


休み時間に合わせて観客も屋台へと殺到する。芋を洗うような人の濁流の奥に想也君と秋川を発見した。


ついでに余計なのが一人、べたべたと想也君に引っ付いていた。小さく笑いながら腕に纏わりつく女を優しく剥がす想也君と、負けじと腕を引く女の構図を目の当たりにして頭に血が上った。


は?

何勝手に私の想也君に色目使ってんのよあの女。


殺す。


「だああああああ! 待て待て待て待て落ち着け! 何をしようとしてるのか分からんが取り敢えず一旦その鎌仕舞え! な?」

「八雲。邪魔をしないで。想也君に危険が迫っているの」

「危険なのは鎌持って強化(ブースト)してるお前だよ! 一般人が居るところで何するつもりだ!?」

「ちょっとお話をしてくるだけよ。あのクソ女、想也君に媚びを売ってるわ。想也君が迷惑してるのも分からないのかしら」

「お話で済まねーだろ! 絶対その鎌使うだろ!」

「これはアレよ。引っ掛けて連れて来るための物よ」

「首に引っ掛けるってオチじゃねーだろうな」

「胴体よ」

「どこかしらは二分割されるじゃねーか! ほら戻るぞ!」

「ま、待ちなさい八雲! 想也君が大変なの!」

「八雲様の仰る通りですわ! 時間が差し迫っていますの!」

「一葉! なんか適当に買ってきてくれ! 俺らは現乃を引きずっていくから!」

「りょ、了解」

「離しなさい! 想也君が! 想也君ー!」


ミリルと八雲に肩を掴まれて為す術なく競技場所へと逆戻りすることになった。

想也君がきょろきょろと辺りを見回したけれど、私を見つけられず人混みの中に消えてしまった。


競技が終わったら直ぐにでも駆け付けないと。


想也君は人が良すぎるから、押されたらあれよあれよと言いなりになってしまう可能性が高い。想也君の優しさにつけこもうとするなんて卑劣で醜い行いを許してはならないの。

頑張るのよ、私。


恋は戦い、愛は殺し合いよ。

一秒たりとも油断してはいけないわ。

求めよ、さすれば与えられん、なんて甘っちょろいことを言うのは脳内がお花畑の証拠。


奪い勝ち取るのが恋のルール。女は狩人、男は獲物。

愛する人以外の全てを切り捨てる覚悟が私にはある。

あの女が何者かは分からないけど、想也君に唾をつけるような真似をしたからにはそれ相応の対価を払って頂戴。


「「……はぁ〜」」


八雲とミリルが溜息を吐いていたけれど、溜息を吐きたいのは私よ。



なんか今実咲さんの声が聞こえた気がする。

辺りを探してみても、特徴的な銀髪を発見する事は出来なかった。


「気の所為かなぁ」

「何がです? そんな事より私あれ食べてみたい感じなんですけど!」

「分かったから手を引っ張らないで」


アリスがさっきからずっと僕の腕に引っ付いてくる。

申し訳ないけどとても心臓に悪い。アリスの容姿は控えめに言っても美少女、大袈裟に言うなら天使の如し美貌なのだ。今は心の平静を保ち顔を見て話せているが、実咲さんに出会い一つ屋根の下で一緒に生活していたからこそ佳人に対しての耐性が多少あるのであって、これが入学式直後とかだったら鼻血を吹いて倒れていたかも知れない。


因みに護人はアリスに笑いかけられた際に轟沈しており、先ほどからブツブツと


「拙者の強靭な精神力でなければ惚れているところでござった。魔性……魔性で御座るよ……」


と僕の後ろで独り言ちており三回に一回のペースで、想也殿が羨ましいでござる、と言っている。


アリスは外の世界の食べ物に興味深々だ。

食べ物の種類や形状などは知っているものの、一度も食べたことが無いらしくさっきから色んなところで買い食いを繰り返している。


お金?

僕が払ってる。

なんで僕の周りには沢山食べる人が二人もいるんだろう。アリスが実咲さんくらい食べるとしたら僕はもう破産するしか無いんだけど。


「たこ焼きと言うのは蛸が真ん中に入っているものだとネットに有りましたが、これは入ってない感じです。たこ焼きでは無い別の食物な感じですかね?」

「ただのハズレ」

「なるほど、蛸無しなのにたこ焼きとは矛盾してますね。……ふぅ、完食です。いやあ、沢山食べちゃった感じですね」

「このくらいなら少ない方だよ」


実咲さんに比べたら。


「では戻りましょう。先生も待ってる感じでしょうしね」


僕らは先生と一旦別れて屋台巡りをしていたわけだが、何も体育祭を楽しもうというわけではない。

まあ、ちょっとした小休止と言ったところだろうか。


予想以上に時間が掛かったので、急いで屋上に戻ることにした。


これから何をするかと言うと、作戦の立案をする。何事もまずはお腹を満たさなくては良い結果を出す事は出来ないので、食べ歩きを敢行する事になったのだが、僕は体育祭中に一体何回屋台を回れば良いのだろうか。


何はともあれ、三人で両手一杯に焼きそばを持って階段を駆け上がる。ソースの良い匂いが鼻を擽るが、僕はもうお腹いっぱいなのでちょっと気持ち悪くなってくる。


屋上のドアを器用に開けるとそこには先生が大きな紙とペンを広げて待っていた。


地面に置いた紙の四つの頂点が時たま捲れ上がる程度に風が弱く吹いている。


芳ばしい香りが何処かへ持って行かれてるから、僕としては嬉しい。


「どうぞ」

「ああ、悪いな。まあ座れ」


先生に焼きそばを手渡した。

安っぽい透明な容器がペコペコと音を鳴らした。

先生に促されて、胡座をかいて紙を囲む。

アリス、君は胡座をかくのは止めた方が良いと思うよ。


「じゃ、アリスの作戦とやらを聞こうか。因みに、俺は一切の手を貸さんからな」


先生はこの件に関して一切手出しをしないと決めていた。僕が勝手に首を突っ込んだ事件は、自分でケリをつけろ。助けるなら最後まで自分の力で。先生に泣き付くくらいなら最初から見て見ぬ振りをしろ。そういう事だろう。


冷たい様に思えるけど、これから先、何かあったときに先生に頼ってばかりじゃ意味が無い。


「では僭越ながら私が立案させて頂く感じです。えー、場所は第四区の高層ビル群の一柱、二十階建てです。間取りとしてはこんな感じ」


アリスが真っ白な紙の上にペンを走らせる。

十分ほど待つと、詳細な室内図が示された。とは言っても十階と十五階、そして二十階の三フロア分だけだ。


「サーバーに侵入した時に見掛けた見取り図です。他の階については後で想也さんの携帯に画像データとして渡す感じにしますね。今回重要なのはこの三つの部屋です」


そう言ってアリスは十階と十五階の一室を指差した。一面の大部分を占める大きさの部屋だ。ちょうど真ん中を陣取る様にして、窓に面していない。一度は通路にでないと行けない様だ。名前は会議室になっている。


「実際は会議室ではないです。十階は私の同種の製造ライン、十五階は別種の製造ラインになっている感じです。正確に言うと一階から十階までが一つの製造ラインで、十五階のこの部屋には調整用のデータだったり器材だったり、とかく重要な物が集められてます」

「つまり、その大事な物を破壊すれば良いんだね?」

「目的としてはそうなる感じですね」


データのバックアップなどは一応あるものの、自社内サーバーに保存してある為すぐに消去できる。重要な機材等とデータさえ破損させてしまえば新しくアリスの様な魔力生命体を作る事は不可能になる。


アリス一人を作るのに多大な労力と開発費用、開発時間が掛かっているらしく、ボタン一つ押して、あとは座ってコーヒーを飲んでいるだけで大量生産、とはいかないらしい。アリスが把握しているだけで彼女の他に魔力生命体は四人しかいない。

一人一人がオーダーメイド品の特注だ。多大なコストを払うに見合うだけの薄暗い使い道が有るのだろう。アリスは聞いた所では暗殺用に造られたらしいし、恐らく残りも物騒な奴らなんだろうなあ。


「目的は最低でも研究データの破壊。ミニマムサクセスって感じですね。出来れば研究の続行が不可能になる様な状況に追い込むこと。これはフルサクセスって感じです。もちろん、想也さん達の安全を第一に動きますのでミニマムサクセスを達成した時点で逃げても良いと思います」

「具体的にどうするのでござるか?」


研究データが何処にあるか、そもそもそれが紙なのかデータなのか僕らは知らない。

アリスの補足説明が入る。


「えー、この図からはわからない感じなんですけどほとんど窓が無いんですよこの建物。なので何処か入り口から入らないとダメなんですが……確実に敵はそこを堅くしてくるでしょう。なので屋上に飛び乗って、一気に突入しましょう。そこも人員を配置しているでしょうけどね」


何それめっちゃ大雑把。

しかし実はこの案、思ったよりも理に適っている。なんとサーバー室が二十階にあるらしく一気に目的を達成するのには一番の近道なのだ。

まあ、アリスが直々にデータを消去しない事には、単純に破壊するだけだと復旧される可能性が有るので吹き飛ばせば全て解決とはならないんだけど。


「電撃戦です。速度が重要です。私が妖精化してサーバーに侵入し、クラッキングするのにおよそ三分。この時間を耐え切れば私達の勝ちです。やることやったら即退散します」

「アリスが別の場所から妖精化してサーバーを壊したりは出来ないの?」


出来るのならわざわざ不法侵入をする必要は無い。


「無理な感じです。スタンドアローンなので、外部との接続が有りませんから。まあ、研究施設内に職員が携帯を持ち込んでいれば、そこまでは移動出来ますけどね。安全管理上の問題で受付あたりで預ける形になっているので、必ず一度は実体化しなければならない感じでしょう。私が逃げた時にも、携帯の類が一箇所に集められていました」

「それもそうか。相手はアリスの能力を知り尽くしているもんね。脱走は想定外の事だから成功したけど、次は無さそうだ」

「そもそも、対私用のウィルスがバラ撒かれてるので通常のインターネット回線に妖精化すると一瞬で見つかる感じです。構成情報を破壊される危険も高いので迂闊に妖精化は出来ないです。逃げ出した直後ならそれほど広まってないのですが、これだけ時間が経ってしまうと一歩ネットの海に漕ぎ出したら沈められちゃいます」


一漕ぎどころか海に指先を触れさせただけで引き摺りこまれるらしい。確かにそれはおいそれと動けないな。


「こんなにも急いで決着を付けたい理由は何? もっと慎重に事を進めても良いんじゃない?」

「いやいや、何を言ってるんですか想也さん。むしろ攻めるなら今しかありません。私の脱走で混乱が生じていて、尚且つ敵の戦力が増強され切ってないのですから。まさか相手も私が半日で快復して反撃できるだけの戦力を得て、実際に襲撃して来るとは思えないでしょう。仮に思っていたとしても、あそこは研究施設です。勤めているのは戦闘向きの人間じゃない感じですよ。常駐している傭兵の保持者(ホルダー)しか居ないと思われます」


先生がもぐもぐと焼きそばを食べながらアドバイスをくれた。


「手は貸さんが、口は出してやる。アリスの言う通り、基本的に企業はお抱えの保持者(ホルダー)がいるもんだ。だが、強い保持者(ホルダー)ほど契約金がアホみたいに高額でな。アリスの研究施設みてえなどう考えても非合法な所は、仕事を受ける側の奴も大体真っ当な人間じゃねえ。金額も違法なレベルさ。だから、本気でヤバい時以外は必要最低限の戦力だけを雇ってる」

「ヤバい時用の保持者(ホルダー)、ですか?」

「対人戦特化、殺しを息をする様にする奴らさ。お前らだけだと……まあ生きるか死ぬかの闘いになるだろうな。言っとくけど、殺しの経験が違うからな。俺が今まで会った中で強い奴が、仮に出張って来たとしたら……理崎が後先考えず『本気』で殺しにかかっても、絶対に勝てない」


僕の能力を知っている先生が、そこまで言うのだ。ガチでヤバいのだろう。ガチヤバだ。絶対に戦いたくないよそんな相手。

と言うか先生詳しいな。


「だが、そういう奴らとコンタクトを取ること自体が難しいし、雇い入れるとなるとかなり厳しい。仮に雇えたとしても、根回ししたり仲介役を挟んだりで一日は確実に掛かる。そういう意味じゃあ、チャンスは今しかないな」


なるほど。

でも最初からお抱えとして雇ってる可能性があるんじゃないかな。


「それはない感じですよ」

「なんで?」

「恐らく、最初からそんな人が居るのであれば、すでにアリス殿が捕まっているからでござろう。想也殿が助けることが出来た、という時点で化け物では無かったと判断出来ますな」


それもそうか。

アリスをすぐに追ってきた追撃班の中に居なかった時点で雇用済みとは言えないもんね。

それでもあの四人強かったよ?

奇襲で二人減らせたのが大きかっただけだ。武器の性能に加減はしたけど、実際の戦闘途中に手加減はしなかったもん。


「新しく何人かは雇ってあるだろうがな。あの程度ならお前らだけでも油断せず本気でやれば何とかなるさ。なんせ俺が直々に教えてるんだからな」


そう言って、先生は焼きそばのゴミを持って屋上を去っていった。


「何者なんですかあの人」

「よく分からないけど、凄い人」


何者なんだろうか、本当に。


「とにかく、時間制限があります。時間が経てば経つほど守りは強固になります。その状態で研究施設の機能を何処かへ丸ごと移されたら打つ手が無くなる感じです」


相手は闇に姿をくらませ、アリスはこれからずっと不定の脅威に怯え続けることになる。


「私は逃げたいんですが、それと同じくらい他の子たちを助けたいんです。世界を見ずに死ぬなんて可哀想じゃないですか」


アリスは確固たる意志を持って覚悟を決めていた。人工AIだと自称する彼女に心が宿っているのか、それは僕には分からない。でも、少なくとも彼女は人間らしい理由で、ともすれば独り善がりな感情で誰かに助けを求めた。


その一言が、アリスの心の在り処は分からなくても、僕らの心を動かすには十分な一言だった。


「更に細かい計画については後で詰めるとして……。アリス氏。あとは拙者達とは別のチームメイトの説得ですな。しかし断られる方が普通だと思いますぞ」

「わかってますよう」

「まあ、約一名は無条件で首を縦に振りそうでござるが……」


僕らが詳細な計画を練る間に、体育祭はつつがなく進行して行く。この催しの目玉である一対一戦が順調に終わりを迎えている最中、秘密裏に水面下を蠢めく様々な思想もまた絡み合いある一定のゴールに向かおうとしている。


下では観客達が巨大なディスプレイに食い付き、一際大きな歓声をあげていた。どうやら決勝が終わったみたいだ。


何はともあれ、状況を説明する必要がある。それに、戦った皆を労うべきだろうね。

読んでいただきありがとうございます

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