理想を現実に
決勝戦が終わり、万雷の拍手の中で優勝者が簡素な壇上の上に立つ。息を整えながら、あの元気で喧しい実況の人にヒーローインタビューを受ける姿がある。優勝は四年生だった。
次いで海が準優勝、朱島明人、実咲さんがベスト四入りだった。内宮さんはベスト八だ。
優勝こそ逃したものの、トップを殆ど一年生が独占する結果となった。
今日の体育祭はこれで終わりだ。
現時点での保持ポイント数トップ十がディスプレイに表示され、軽快な音楽が垂れ流しになっている。
興奮冷めやらぬ観客達も、その内明日に備えて家に帰るだろう。
実咲さんに念話で屋上へみんなを連れてきてほしいと連絡をしておいたので、もうそろそろ集まるはずだ。
バンッ! と扉が蹴破られんばかりに開かれ、実咲さんがやって来た。その後ろには海達も居る。
「会いたかったわ想也君。ちょっと問い正したい事があるの」
「僕も相談したい事があったんだ。それについては今から話すけど、先ずはお疲れ様。頑張ったね、実咲さん」
試合は見てないけど。
しかし、保持者として生活を始めてから三、四ヶ月でベスト四という結果は誇るべきだ。まあ、こう言う事に興味の無い学生は出てないから本当の意味でベスト四と言う訳では必ずしも無いけれど、お祝いしてあげたいところだ。
海もサラッと準優勝してるし。
「えへ、ありがとう。優勝は出来なかったけれどね」
「充分凄いよ。後で何かプレゼントを考えなきゃね。海達もお疲れ様」
「おう。準優勝の景品は学食一年分らしいぜ。後で分け合おう」
「ベスト四以下は特に景品らしい物は無いらしいですわ」
「け、怪我なく終わって良かった」
この後はそのまま帰って祝勝会を開いて楽しいパーティーをしたいところだが、そうは問屋が卸さない。
「皆、良くやりましたな。えー、それでですな。ちょっとまあこちらでは少々厄介な出来事がありましてな。アリス氏〜、出てきて下され〜」
「呼ばれて飛び出て私な感じです!」
「あ、さっきの女」
「瞬間移動か!?」
「先生以外にもいらしたのですのね」
「ちょ、八雲君、実咲ちゃんを止めて!」
「驚きましたか? やっぱりこう言う反応が普通なんですよ! ってあいたたたた! 名前も知らぬ銀髪な感じの人が私の肘を極めて来るんですけど! 想也さん! ヘルプミー!」
「は? 馴れ馴れしく想也君の名前を呼ばないで頂戴。ちょっと想也君どういう事?」
「説明するから放してあげて」
あまりに一瞬の出来事でついていけなかったが、お願いすると実咲さんはアリスから離れた。
そのまま僕の手を引いてアリスから距離を離して腕に巻きついてきた。アリスにも同じような事やられたし、幸せだなー。何か不幸の前触れなんじゃないだろうか。あ、今まさしく厄介ごとに首を突っ込んで不幸中じゃないか。じゃあ不幸中の幸いだなこれは。
「状況は全くわからないけれど、きっとその女は想也君の事を騙そうとしてるわ。でも大丈夫。私が側についているから、安心して」
「ええー……。一筋縄じゃいかなさそうな感じなんですけど……。想也さん何とか言ってくれませんかね」
「黙りなさい。ね、想也君、きっと危ない事に巻き込まれるわ。帰りましょ」
ごめんもう巻き込まれてる。
「時間がないから共有で説明しちゃうね」
保持能力による高速会話で手っ取り早く僕等の置かれた状況を説明する。
口頭説明とは違って念話はレスポンスが速くて便利だけど、説明量自体は変わらない。超早口で喋ってるのと同じだ。あー、一から説明するのは大変だ。
「まあ……大体分かったが。変なもんに首突っ込んだな想也」
三分ほどで大体の事は伝える事ができた。
真円の灯は天頂を過ぎて久しいが、人工陽は未だに陰りを見せる事なく空はまだまだ明るいままだ。
「普通に警察の案件だろこれ」
海が呆れた様に言う。
実咲さんは何かを考え込む様にして黙りこくっていた。ローウェルさんは何やら憤慨しているし、内宮さんは……感動してる?
「アリスちゃん!」
「え、はい。何でしょうか」
「あ、握手してくれないかな!」
「構わない感じですけど……、テンション高いですね」
「魔力生命体だとかなんだとか、好きなんだと。だから悪いけど相手してやってくれ」
「あれですね。想也さんの周りは変な人ばかり集まってますね」
「類友だろーな。言っとくが俺はおかしくないぞ」
「私もごく普通の人間ですことよ」
「僕も普通だよ?」
ちょっと不老不死の女の子と一緒になって不老不死になってるけど。
「で、如何でしょうか。どうか私と共に戦ってくれませんか。残念ながら警察には頼れません。私の存在自体がイレギュラーなので。解剖の危機まで抱える事になります」
「話を聞く限り、必ず戦闘があるみたいなんだが?」
「あります。命の危険も、ある感じです」
「……はぁ、どうせ俺らが行かなくても想也と護人は乗る気なんだろ?」
「まあね」
「左様に御座る」
海はとても悩んでいた。
自分達だけで対処し切れるのかが不明だ。チームリーダーの立場にある彼は、チームメンバーの命を背負っているのと同じだ。安易な考えは死を招く。臆病で丁度いい。
「日頃戦ってる怪物とはワケが違うのは分かってんだよな?」
「もちろん」
「出来れば手を引きたいが……困ってる奴をほっぽり出すのは寝覚めが悪い。俺も協力するぜ」
「私も微力ながらお手伝いさせて頂きますわ。他人に引かれたレールは壊すべし、が私の信念ですの」
「私も協力するよ! その代わり後で色々聞かせてね!」
皆、賛同の立場に立つ様だ。
残るは実咲さんだけ。彼女はふむ、と呟いてアリスに提案した。
「危険が想也君に及びそうだと思ったら、私の判断で撤退する。それを呑んでくれたら手伝うわ」
「良いですよ。手伝って頂けるだけで助かる感じですから」
これで全員参加な訳だ。
ここからは僕の話をしよう。
「みんな。大事な話があるんだ」
手を叩いて全員の注目を集める。
今回の戦いは地球での怪物退治とは別物だ。予め大体の危険場所が判明している地球とは違って、強さも数も未知数の保持者が相手になる。何があるか分からないところで背中を預けるには、僕はみんなへの隠し事が多過ぎる。
一井先生が言っていた。
いつか言うなら何時言っても同じ事だと。嘘を貫く覚悟よりも嘘を打ち明ける覚悟をしろと。
地球でだって死と隣り合わせの戦いなのに、『シャンデリア』の中で保持者と殺意を交わす方がよほど死に近い気がする。おかしな話だ。
でも僕は思うんだ。
見ず知らずの、正体不明の女の子の為に命を懸けられるチームメイトになら、僕は認めてもらえるんじゃないかって。
僕は怖がりすぎていたのかもしれない。
実は僕の悩みなんてそんなに大きなものじゃなくて、保持者なら誰も彼もが一度は通る道だったのかも知れない。でも僕にはそれを打ち明けられる人が居なかった。
実咲さんに認めてもらって、そしてようやく僕は二歩目を踏み出せる。
「みんなには僕の本当の保持能力を隠していたんだ」
「なんだよ想也、もう言ってくれるのか」
海が言った。
四月に海から詰問された時、僕は勇気が無くて答えを出せなかった。それから海は一度も僕に同じ問いを繰り返さなかった。だけれど、ずっと待ってくれていた。僕が自分から打ち明けるまで、静かに。
「彼方と此方の世界を写せ――『理想世界』。これが僕の能力だよ。想像したものを現実世界に反映させる能力だ」
理想世界を発動する。鈴の音と共に僕の周りには様々な武器が溢れかえる。
そして一瞬のうちに消えた。邪魔だからすぐに理想世界収納した。
「こりゃまた……。便利だな」
「想像出来る事なら大抵の事は実現出来るよ」
「じゃ、じゃあ、あの時助けてくれたのは理崎君だったんだね」
「うん。そうなるね」
この話をするまでに随分と遠回りをした。いや、遠回りじゃないな。ただ単に歩かなかっただけだ。
「素晴らしい能力ですこと。だけれど、人に言うのを憚る程では無いのでは。……いえ、失言でした。申し訳ありません」
「あ、いやそこまで気にしなくても良いよ。ちょっと嫌な思い出があるだけだから」
「兎も角、想也殿は後顧の憂いを断ち切る事が出来たわけでありますな」
意外とすんなり行けた。
何だこれ。
変に悩み続けていたのが馬鹿らしい。
後顧の憂いと言うか、隠し事と言う面では実咲さん関連の事が残っているんだけど……これはまた今度にしておこう。
そもそも下手に知られると、それはそれで別の厄介事を引き連れてきそうだし。
「私、友情を間近で見た感じです。良いものですね」
友情?
僕が認められたのは友情が取り持ってくれたからなのかな。僕は海達と友情を育めていたのか。嬉しい事だ。だけれど、それなら昔の、拒絶された時の僕は友情を育めていなかったという事か。今の僕と昔の僕の間にどんな違いがあるのだろう。僕は僕のまま生きているはずなのに。
「チームが一丸となった所で今回の作戦の全容を明らかにしましょう。皆さんの意見も交えて細かいところを詰める感じです」
「そうね。 あ、想也君。少し話があるわ」
「うん? わかった」
「取り敢えず作戦決行は午後十時です。今が五時前位ですから、大体五時間後な感じですね」
アリスはそう言って、その場にどっかりと座り込んだ。海達は早速作戦会議を始めていた。端から見れば遊びの予定を立てている様にも見えるけど内容は物騒で、その顔は真剣だ。尋常ならぬ雰囲気の集団が屋上に集結していた。
実咲さんに引っ張られる。
僕がカミングアウトしている間ずっと腕に纏わり付いてた。果たして勇気が出たのは実咲さんのお陰かな。
海達から少し離れてひそひそと密談を交わす。
特に意味は無い。
「で、話って何」
「保険を……掛けようと思うの」
「保険?」
「ええ。想也君特製の御守りをみんなに作って頂戴。安全を保障する御守りを」
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