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君と僕の理想世界  作者: 天崎
第2章
64/79

変な音

気がつくと教室だった。

何で教室に。さっきまで屋上にいたのに……あ、思い出した。ヤバい恥ずかしい。


「んん、やっと起きたでござるか」

「あれ、護人。みんなは?」

「一対一戦に行きましたぞ」


壁に掛けられた時計を確認すると、時刻は既に一時を過ぎていた。およそ二十分以上は寝てたのか。


テレビにはグラウンドで戦いを繰り広げる学生が映し出されていた。今年の参加者数はほぼ例年並みらしい。二つのグループに分けられ、グループ優勝者を決めてから最後の二人で全体優勝者を決定するシステムらしいのだが、同時に二つの試合が行われていてもテレビが大きくないので映る試合はランダムだ。


「みんなの試合順は分かる?」

「先ほど携帯で教えてもらったでござる」


僕も持ってるけど、今まで誰かと連絡先を交換した事が殆ど無いからもっぱらネット用だ。

形状は何百年も前から変わらずスマフォだが、中身の性能だけが鬼の様に上昇している。

そして魔力駆動式なのでまず電池切れはない。

普通の電池式もかなりバッテリー容量が増えてるけど、常に自分で補給が出来る保持者(ホルダー)でないとモバイルバッテリーは手離せない。


通信手段としては『シャンデリア』と『ミッドガルド』内では有効なのだが、外に出ると使えない。地球を覆う薄い雲が電波などを反射もしくは撹乱するのでGPSなども使用不可能だ。


普通は基地局を少しずつ建設して通信可能エリアを増やしていくんだけど、場所によっては電波が届かない。

実咲さんの居た絶海の孤島みたいに、どうやっても通常の携帯では繋がらなくなるところも出てくる。

その場合は高価だけど通信距離の長いタイプの専用通信機を持って行くわけだ。大きいから持ち運びが難しいけど。大体VTOL機に搭載されてる。


「海殿は無事に一回戦突破ですな。他の方々はまだでござるが」

「外のモニターに観に行こうか」

「そうでござるな」


ランダムに映し出されるという事はつまり見逃すかも知れないという事だ。全ての試合が映される大型ディスプレイを見に行った方が良いだろう。


海は初戦だったらしく、一年生と当たって難なく勝った。

残るは実咲さん、内宮さん、ローウェルさんの女性勢だ。一年生から五年生まで出場するため、大体二百人位が出場となる。一クラスあたり五人から十人前後の計算だ。


僕らのチーム以外に他のチームの人も出ている。朱島明人(しゅじまあきと)も勿論出場している。


外に出て大型ディスプレイの設置されている特設会場へと向かう。

特設会場は大盛況だ。どんな格闘技を観戦するよりも派手で刺激的な闘いがそこにある。


よりフェアな試合を実現するため、グラウンドを丸々フェンスで囲い外界との情報をシャットアウトする。周りから見れば試合場所だけ黒い天幕に覆われた様に見えるし、出場者から見れば観客の姿が無く闘いに集中できる。

内側には体育教師が何人か入って試合の行方を見守る事になっている。


戦闘中は何があるか分からない。

突然閃響が轟くかもしれない。僕ら保持者(ホルダー)は大丈夫かも知れないけど一般人はそうもいかないため、一般観覧者の安全を確保する意味でも試合場所は隔離されている。


音と光が外に出ないだけで、携帯の電波などは通るんだけどね。

念話とかも通じると思う。


「四番目の試合が終わりましたぞ。実力が拮抗した闘いは見ものでござるな」

「緊張感あるよね。最後に突っ込んだのは謎だったけど」

「魔力が残ってなかったのでは?」

「陽動用の魔力ぐらい残しとけばよかったのにね」

「全くでござるな」


四番目の試合は手に汗握る試合だった。

互いに上手く攻撃を躱し続け、最後に見合った状態から突っ込んだ人が隙を突かれて負けた。

敗北基準は体育教師数人の判断か、武器に刻まれた刻印によるダメージ量判定となる。ダメージをただの衝撃に変える刻印の効果を利用して、一定以上の衝撃が発生した場合に敗北と判定される。保持能力(ホルダースキル)――攻撃系の魔法系(マジック)などの場合はまあ、見るからに続行不可能な状態に陥る前に棄権しましょうね、って感じだ。ヤバそうなら先生方が止めに入るし。


続く五試合目の開始の合図が鳴らされ、三年と二年の学生が動き出す。どちらも保持能力(ホルダースキル)を牽制に、じりじりと得物の間合いに敵を収めようとしている。


リアルタイムで繰り広げられる保持者(ホルダー)同士の闘いに観客が沸き、あちこちでヤジや応援が飛び交う。それが見知らぬ学生であっても、その時々の気分でどちらに肩入れするかを考えて激励を叫ぶ。負けそうな方を応援したくなるのは人情だが、拮抗していればまるでギャンブルの様な感覚さえ覚えるものだ。


僕と護人は試合の流れを観察しながら、つぶさに自分だったらどうするかを考えていた。僕らは怪物(モンスター)とばかり戦っているから、対人戦についての経験が足りない。補えるなら、こういう小さな事から補っていくべきだ。


まあ、先生との授業のお陰で苦手分野ではなくなりつつあるわけだけど、むしろ先生を相手にしているからこそ不足を強く感じてしまうのだろう。


二画面に分かれた試合中継に釘付けになる観客。

爆裂と電雷の織り成す戦場のデュエットに浮かされて、気分の高揚を抑えられない様子だ。やってることは大昔のコロッセオと変わんないな。

ローウェルさん風に言うなら、野蛮ですこと、だろうか。


そんな、ある意味で観客が一丸となった状況では、僅かな違和感などなかった事にされてしまう。

僕が気付けたのは全くの偶然だった。

背伸びをしてディスプレイから目を離した時の事だ。

僕らにとっては普通かもしれないけど一般人には馴染みの無い、あってはならない音が、特設会場内ではなくその外から聴こえてきた。


「ん……? 何だろう今の」

「どうかなされましたかな。八試合目が始まりますぞ。内宮氏の出番で御座る」


何故かは分からないけど、この違和感を確かめなければならないと思った僕は強化(ブースト)で聴覚を強化して耳を澄ませた。保持能力(ホルダースキル)が派手に炸裂するたびに、呼応する様に沸き立つ観客。それに混じる様に、決定的に別な何かがあった。


ヂヂヂッ……。


金属と金属が擦れ合う、不快な音叉が微かに震えた。

やっぱり、僕はこれに似た音を聞いたことがある。


剣と剣がぶつかり、鎬を削る音だ。


「誰かが戦ってない?」

「だから内宮氏の試合ですぞ」

「いやそうじゃなくてさ。外でなんかあったみたいなんだけど。変な音が聴こえたんだ」

「外って……。学校の外という意味で御座るか? ありえんで御座るよ。防音結界を展開したフェンスで区切られているのですぞ」

「体育祭中は魔力消費を抑えつつ強度を高める為に、競技場所以外の魔法効果が削られてるはずなんだ。だから聞こえてもおかしくはないんだけど。……んー。やっぱり気になるから見てくるね」

「拙者もお供致しますかな?」

「ちょっと様子見してくるだけだから大丈夫。直ぐ戻るよ」


特設会場を後にして、学校の校門の方へと向かう。

何時もなら気の所為だと断じてそのまま体育祭を楽しんでいただろうけど、一井先生の話もあるし警戒しておきたい。僕らに関係ない事ならそれで良し、関係ありそうならそれ相応の対処をする必要がある。


護人についてきてもらっても良かったけど、特に何もないのに連れ出すのも悪い。仮に、僕と実咲さんの問題に直結する様な問題だった場合は徒らに巻き込む事にもなってしまうし。


流石に体育祭の目玉である一対一戦を見逃す事が無いように、誰も彼も会場に缶詰め状態で校門に人の出入りは無かった。受付なんて物はないから、この場に僕と同じく戦闘音を聞いた人間はいないみたいだ。


「音が聞こえない……。あれだけ確かに聞こえたんだから気の所為って事はないよね」


いや、音が聞こえないってなんだよ。

いくら体育祭だからって近隣住民全員が学校に集結するなんて事があるわけ無いじゃん。


そう。

どう考えても静か過ぎる。

まるで一帯から人間が全て消えてしまったかのように、静寂が耳を劈く。異常事態だよねこれ。


「人払いにプラスして遮音もされてるみたいだ。確か、人払いの魔法系(マジック)だか魔導具があったはずだよね……。いや、そんなもんじゃないな」


魔力に働き掛けて行動を誘導する魔法系(マジック)があった気がする。魔力操作能力がない人間――つまり一般人にしか効果が無いらしいけど。


そのはずなのだけど、前に出ようとしても足が動かない。というか、前に行こうとすると右に行ったり左に行こうとしてしまう。


わざわざ直進しなくても回り道していけば良いや。


……ん?

なんで僕は回り道しようとか考えたんだ?


これでも急いでるのに。

もしかして僕にも効果を発揮してない?


「こういう時は、魔力に物を言わせて突っ切るのみ!」


強化(ブースト)と同時に保有魔力を体に纏わせて無理矢理前へ出る。水風船を押したような抵抗感があるが無視して先に進むと膜を通過した感覚があった。


この人除けの結界(?)ならガッツリ強化(ブースト)した保持者(ホルダー)でもないと効果を発揮されてしまうだろう。無意識に働きかけるのがまたタチが悪い。僕は戦闘音を捜索すると言う目的があるのに、回り道していけばいいやとかいう考えが出て来てたからね。


さて、結界も超えたしどうやって探そうか。

一番手っ取り早いのは思いっきり上に飛んで、高いところから探すって方法なんだけど見つかりたくないから却下。


音を頼りに地道に探すしかないな。


と思いきや爆音が轟いた。

強化(ブースト)によって何十倍にもなった知覚には十分すぎるほどの情報だった。北東か。


結界を張っているからって安心しきってるのかな。音漏れを気にせず戦っているのだろう。何度も保持能力(ホルダースキル)が炸裂する音が聞こえる。


強化(ブースト)した脚力で走れば直ぐにでも近くに着くだろう。

気配を可能な限り殺しつつ接近していく。実咲さんに教えてもらったり、すぐ側で見たりしているから僕の気配の消し方も中々様になってきた。


少し走ると、次は剣戟の音が聞こえてくる。

屋根の上に登って音の出所を探ると、すぐに相手は見つかった。


「五人か……。一対四って感じかな」


女の子が襲われていた。ロクなことじゃないとは予想してたけどこれまたヘビーな事件に遭遇してしまった。

僕はバレないように屋根の上で伏せて状況を確認する事にした。下手に飛び出すほど考えなしじゃない。


「ッ! はっ!」

「チッ! さっさと捕まれってんだ!」


女の子の歳は見た目から推測するに十五、六程度。僕と同じかちょっと上くらいだろう。

まるで夜空を編んだかのような艶やかな黒髪が動きを阻害しない様に後ろ手に纏めてポニーテールにしてある。心臓の位置まで伸びた尻尾を振り舞わす。宵闇を彷彿とさせる漆黒のワンピースの内側から、尻尾に負けじと平均以上に大きな双丘が危うげな妖しさを放って躍動する。シルクのような肌、尖るような顎先、整い過ぎていると言っても過言ではない顔は作り物めいた静謐さとともに彫刻には無い命の力強さを感じさせる。襲撃者を見据える色素の抜けた灰色の瞳の上には長い睫毛が揺れていた。


女の子は両手に刃渡十五センチ程度のナイフを持って、迫り来る襲撃者と斬り結んでいる。年相応に華奢な双腕で振るわれるナイフは無骨を極めたシンプルなものでありながら、まるでファッションの一種であるかのように不思議と違和感を感じさせなかった。

年頃の少女が身に付ける可愛らしいシュシュ、壮年の男性が着こなすヴィンテージもののスーツ、余生を過ごす老人が相棒として使い古した杖、個人を構成する上で遜色無くそこにあるべくしてある。そう思わせてしまう程の雰囲気を纏っていた。

板前が自分の包丁を扱うのに困ることが無いのと同様、女の子のナイフ捌きは堂に入っている。


対する襲撃者は男三人に女一人で、全員二十代後半から三十代前半くらいだ。苛立って叫んでいた内容から察するに殺し目的じゃなくて誘拐目的かな。


「魔力を以って風と成せ、風を以って衝撃と成せ――『風撃』」


襲撃者の一人が保持能力(ホルダースキル)を発動した。多勢に無勢。

襲撃者が一人であれば華麗なナイフ捌きで窮地を脱する事が叶ったのだろうが、閃く剣筋と同時に迫る不可視の攻撃には対処が出来なかったようだ。


「いっ……!」


大気の塊が魔力で固められて射出され、突如として女の子を吹き飛ばす。ナイフによる接近戦で精一杯だったのか側面からの攻撃をモロに食らって吹き飛び、民家の壁に叩きつけられた。地面に転がったまま咳き込み、空気を吸い込むのに必死だ。


襲撃者側も普通に強いな。


「ったく、手間取らせやがって」

「おい、長居は無用だ。さっさとクライアントに突き出すぞ」

「まあ待てよ。こんだけ大変だったんだ。ちょっとは楽しませてくれよ」

「……はあ、一時間だけだぞ」

「くくっ。話が分かるな」

「男っていつもそうよね。下衆いことばっかり」

「てめーと違ってこいつは見てくれだけは良いからな。どうせ殺しちまうんだ。有効利用ってやつだよ」


真っ暗なワンピースを着た女の子は、よく見れば所々が煤けていたり血が滲んでいたりと痛々しい姿だ。解れたり斬られたりしているワンピースよりもまずはその身体に負ったダメージが大きい。


男の一人が女の子の髪を掴んで無理矢理その場に立たせた。


「つっ……! はな、せ……!」


僕はどうしようか。

助けてあげたいけど、その所為で実咲さんへ危険が及ぶなら僕はこの女の子を見捨てる。助けた後どうするのかだって決めてないしアテがある訳でもない。可愛い女の子は助けるべきであると言うのが僕の持論だけど、実咲さんの安全が最優先だ。


でも個人的には助けてあげたい。

その場合、僕がこの四人を相手にして勝てるかどうかが問題だ。なるべく概念武装(コンセプトアームズ)は使わずに済ませたい。

相手が油断して強化(ブースト)を切るもしくは緩めたタイミングで飛び出したいところだ。


「痛って! 抵抗すんじゃねえ!」

「ぐうっ! ゲホッ、ゲホッ!」


女の子が投げ捨てられた。

噎せて蹲っている。

女の子相手になんて酷い事をするのだろうか。とても人間にする所業とは思えない。人形かなにかだと思っているのかな。


「取り敢えず抵抗する気が無くなるまで痛めつけとくか」

「ちょっと殺さないでよ。クライアントの希望は生け捕りなんだからね」

「生きてりゃ良いんだろ? 犯されてようが犯されてまいがどうせ死ぬんだから変わんねーよ」


更に暴行を加えようとした時だった。

女の子が何かに気付いたように反応し、僕を見た。


「え。バレた? この距離で?」


直線距離で百メートル以上はゆうに離れた位置の、しかも気配を消している僕を一発で発見したっていうのか。


僕の驚きをよそに女の子は小さく消え入りそうな声で、しかし遠く離れた僕に最後の願いを込めて言った。


「助けて。死にたくないよ。お願い。助けて」


強化(ブースト)された聴覚がその小さな必死の叫びを聞き逃すことなどなかった。


「……ふー、何やってるんだろう僕は」


ごめん実咲さん。

やっぱり僕は見捨てられない。

君に危険が及ぶかも知れなくとも、僕はここで逃げるわけにはいかない。ここで逃げるくらいなら、どうせ僕は君を守り切れるとは思えない。


何より、助けてほしいと言われてそれを無視するような真似をしたら、僕は人間でいられなくなってしまうだろうから。僕は人間で居たい。


この願いを受け止められなかったら僕は一生後悔することになると思う。


今助けよう、名も知らぬ女の子よ。

君の願いを、僕の理想で叶えてみせよう。


読んで頂き有難うございます

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