白い大地
人間の居住域と灰域に明確な分割線がある訳ではない。道路はそのままだし建造物は骨格だけとは言えそのまま直立している。
しかし進むにつれてまず、植生が変化している事に気づく。植物がまばらになり、低木の割合が多くなる。森と呼べるようなものも見当たらなくなっている。
更に進むと、地面が白っぽい場所が増えてきた。そこには植物はなく、色の失われた土地が広がっている。
「この白い地面は、主に塩で出来ています」
リーネが教えてくれる。
「炉が停止して水の浄化機能と温度調節機能が失われると、上昇してきた未浄化の地下水が寒暖差によって塩や鉱物の結晶を作ります。その結果がこの白い大地です」
『遺伝子も知らないのに、そういう理屈は分かるんだ?』
「炉の機能については文献が残っているんです。神官はそれを勉強しています」
『そんなのあるのに肝心の炉の修理方法は載ってないのか』
「はい。別に運用書があったと思われるのですが、失われています」
ふーん。そりゃあマニュアルが残ってたらこんな事態にはなってないか。
『ん?つまりこの先は水が無い?』
「はい。水自体が無い訳ではありませんが、ほぼ全て塩分と鉱物が溶けていて有毒です。ですので馬車には馬の分も含めて十分な水分が積んであります」
あー、それであんな大荷物なのか。
「水の残量が半分になるまで奥に進みます。その後は何があっても引き返す必要があります」
『なるほど』
「どの程度進めるかは気温によります。炉の制御がないと気候が安定しないので、猛暑だったり極寒だったりします。幸い今の季節は寒暖差が少ないのです。それも巡礼を急いだ理由です」
『ふーん。危険な生き物とかいないの?』
「はい、以前もお話した事があったと思いますが、馬車の近くにいる限り危険な動物は寄って来ません。そもそも生き物自体が少ないのです。ただ有害な虫はいますので私とティアは全身に防虫薬を塗っています」
ああ、あれ美容液とか日焼け止めとかじゃなかったんだ。
「ごらんになっていたのですね?」
『う。いやわざとじゃ。リンが薬の匂いが気になったみたいで、その、あの、』
横からティアのじっとりした視線を感じる。以前よりトゲは少ない気はするが、怖いことには変わりない。気づかないふり。
「私は見られても全然構いませんよ。ティアはどうか知りません。リンについては、鱗猫はもともと灰域のふちで生きているので、虫の毒は問題無いと聞いています」
『リン、そうなん?』
「にゃん」
『大丈夫だそうだ』
「それは良かったです」
「にゃん」
その後も、冷たい目線がしばらく続きましたとさ。




