4 なぜ僕は逃亡を始めなければならないんだろう
「蓮、端末を持ってきたぞ!」
さっきまで姿が見えなかった白夜花が、突然背後に現れて、蓮に平たい板みたいなものを渡した。
蓮は端末を受け取ると、すぐに開く。画面にはたくさんの赤い点が、中心に向かってどんどん動いていた。
「付近にSalive1が5~6体、それと南の方3キロくらいのところにSalive2が30体くらい、Salive3が10体くらい、こっちに向かってる。到着はだいたい4分後、戦闘になれば被害が出るかも」
蓮は冷静に今の状況を報告した。
「隊長たちは今朝チェックしたばかりじゃなかった?どうしてこんなにたくさんSaliveが突然現れたんだ?しかもキャンプに入ってきても警報が鳴らなかったのはなんで?」
花は疑問そうに、少し焦った口調で聞く。
「私もわからない。ただ、今はまず逃げるべきだ」
蓮は花に答えながらも、視線は氷宮詩玖に向けていた。
「蓮の言う通りだ。理由はどうであれ、今やることはここから逃げること。みんな、命令に従え。今の任務は終了、すぐに撤退、リプルに戻れ」
「はい!」
みんなが返事をする中、どうやら一人足りないことに気づいた。
その時、黒い影の中から一人の男が飛び出してきた。さっきいなかった赤髪の男性――荒塚悠――で、俺のテントの方向からやってきている。
「ちっ」
錯覚かもしれないが、俺を見ると軽く舌打ちしたようだった。
「周りのSaliveは処理済み、今は片付けの時間が1分ある」
いつの間にか姿を消していたバージョン・ジンが、突然現れて皆に伝えた。
「うん、お疲れ様。各自テントに戻って必要なものを集めろ。40秒後にここに集合」
氷宮の命令で、俺たちはそれぞれテントに戻った。でも俺は特に集めるものはなく、蓮の指示で彼女のテントに行った。
テントに入ると、蓮は素早く物を長方形の箱に詰め込み、大きな箱から細長いものを抱えて取り出した。
「これ……あの時、そばに現れた……剣……詩玖が……君と一緒に拾ってきたの」
蓮は苦労しながら剣を俺のところに運ぶ。
「前から材質が気になって勝手に調べてたけど、そろそろ持ち主に返すべきだ」
俺が目覚めた時、この剣の存在には気づいていなかった。
蓮の指示に従って剣を受け取る。初めて触れるけど、心の奥で「これは自分のものだ」とはっきり感じた。
蓮にとって重いものでも、俺には重さを感じず、扱う感覚は自分の指を動かすのと同じくらい自然だった。目覚めた後に髪や腕が自分のものだとわかるように、この剣――そう呼ばれるもの――は確かに俺のものだった。
「私たちも早く行こう」
蓮は手を引き、外へ向かう。花たちはもう服を着替えて集合していた。
みんなの体は色とりどりのものでぴったり包まれ、関節には光るものがついている。どうやらこれが「戦闘服」と呼ばれるものらしい。
「まず西に進め。最優先は距離を取ること、絶対に見つからないように」
「花、お前は蓮を連れて行け。悠、お前はあの子を」
氷宮は指示を出し続ける。
「はい!」
「おい、そこのお前、こっち来い!」
赤髪の男――荒塚悠――が俺に声をかけ、背中を向けてしゃがむ。俺は蓮のやり方を真似て、彼の背中に乗った。
「しっかり掴め」
悠の言葉。
「全員、出発!」
氷宮の号令とともに、全身が後ろに引かれる感覚があり、周りの景色が一気に流れた。
「これを着けろ」
悠が顔につけていたものを突然渡す。
「う……」
首を伸ばして触れると、触れた瞬間、それは生き物のように顔にフィットし、同時に窒息感も消えた。
「全員、停止!」
林間を駆け抜けた後、氷宮が止まれと命じる。
「蓮、状況報告」
悠の背中から降り、蓮の方を見る。
「だめだ、Salive群が方向を変えてこっちに向かってる」
「まだバレてないはずだ。もしかして、探知型の個体でもいるのか?」
氷宮は親指を唇に当てて、再び俯いた。
「原因はこいつだと思う。昨日目覚めたばかりなのに、今日のSaliveはおかしい。おい、あんた、Saliveのスパイか?」
悠は俺を蹴りながら言った。
「悠!人を疑うな!」
「詩玖、残りの力じゃ基地まで戻せない。追いつかれるぞ」
蓮は俺を支えながら氷宮に言った。
「悠、ジン、お前たちはSalive群を引き離せ。花、お前はあの二人を反対方向へ逃がせ。最後にリプルで合流する」
氷宮の命令だ。
「「「了解!」」」
全員が応えた。
「レイア、こっちだ」
蓮と花が並んで手を振る。悠のものを返して、俺は駆け寄った。
「では、みんな気をつけろ!」
氷宮が告げると、彼ともう二人は素早く木々の中に消えた。




