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崩れゆく世界で渇望している  作者: Altsaber
第一章 なおも朦朧としている世界
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4 なぜ僕は逃亡を始めなければならないんだろう

「おい、蓮、今日はなんで寝坊してるんだ? 今日はお前が朝飯当番だろ。」


 やたらとうるさいやつに睡眠から無理やり引きずり出された。起き上がろうとした瞬間、一本の腕に押さえつけられて元の位置に戻されてしまい、それでようやく自分の状況に気づいた。


「もう少し寝てていいよ。」


 蓮が耳元でささやく。


 僕は彼女に抱きしめられ、顔は彼女の胸元に近づいていた。呼吸を感じられるほどの距離だ。どうやら昨夜、彼女に一緒に寝ようと誘われ、そのままこの姿勢でぐっすり眠ってしまったらしい。


「蓮、聞いてるのか!」


 テントが乱暴に開けられ、ピンク色のやつが飛び込んできた。そして――


「きゃあああ!!! はしたない!」


 鼓膜が好き放題に侵される。


「うぅ~……大量のSaliveがこちらに接近中と検知。」


 花がさらに責め立てる前に、もっと鋭い声が響いた。


「花、パソコンを。」


 さっきまでの気だるさを一変させ、蓮は瞬時に起き上がり、花から差し出された板状のものを受け取った。


「蓮、どういう状況? 昨日隊長たちが偵察したとき、Saliveはいつも通り東へ移動してたんじゃなかったの?」


 蓮が“パソコン”と呼ばれるそれを開くと、画面には大量の赤い点が中心へ向かって急速に移動しているのが映っていた。


「私にもわからない……あまりにも異常な動きだよ。」


「蓮、今どうなってる!」


 慌ただしい足音とともに、隊長の氷宮詩玖が入口に現れた。その後ろには二人の男性隊員。昨日、蓮が紹介してくれた、荒塚悠とバージョン・ジンだ。


 氷宮詩玖はテントの中を一瞥してから眉をひそめ、すぐに視線を蓮へ向けた。


「南三キロにSalv2が三十数体、Salv3が十数体、こちらへ向かって接近中。約四分後に到達。交戦すれば死傷者が出る可能性あり。」


 報告を聞いた氷宮詩玖は親指を唇に当て、うつむいて考え込む。そして顔を上げ、全員に告げた。


「現在の任務は中止。全員、必要最低限の装備のみ携帯。一分後、ここに集合。」


「了解!」


 花と荒塚悠たちは自分のテントへ走り戻り、荷物をまとめ始めた。僕にはまとめるものなんて何もない。服だってずっときちんと着ている。ただ、静かにそこに立っているだけだった。


 蓮は素早く荷物を長方形の箱に詰め込み、それから大きな箱の中から細長いものを抱え出した。


「これ……あの時……君のそばに現れた……剣……詩玖が……君と一緒に拾ってきたの。」


 蓮は苦労しながらそれを僕のところまで運んできた。


「前に材質が気になって、勝手に研究しちゃったけど……そろそろ持ち主に返さないとね。」


 僕は剣を受け取る。蓮には重そうだったそれが、僕には重さを感じない。動かすのも、自分の指を動かすみたいに自然だった。


 それは僕のものだと、はっきりわかった。目覚めたとき、髪や腕が自分のものだと知っているのと同じように。この“剣”と呼ばれるものは、確かに僕のものだ。


「私たちも外に行こう。」


 蓮に手を引かれ、外へ向かう。花たちはすでに着替えを終え、集合していた。


 彼らは色とりどりの装備で全身を密着させるように覆い、関節部分には光沢を放つ何かが装着されている。それが“戦闘服”と呼ばれるものらしい。


「まずは西へ移動。最優先は距離を取ること。絶対に見つかるな。」


「花、蓮を連れていけ。悠、その人はお前が。」


 氷宮は次々と指示を出す。


「了解!」


「おい、そこのお前、来い!」


 赤髪の男がそう怒鳴り、背中を向けてしゃがみ込む。どうやら荒塚悠らしい。


 僕は彼の後ろに回り、蓮のときの真似をして背中に乗った。


「しっかり掴まれ。」


 荒塚悠がそう言う。


「全員、出発!」


 氷宮の号令と同時に、体が後ろへ強く引き伸ばされる感覚に襲われ、周囲の景色が一気に後退していった。


 何が起きているのかわからない。ただ、吹きすさぶ風が呼吸を困難にさせる。


「これをつけろ。」


 荒塚悠が突然、自分の顔につけていたものを外して僕に渡した。


「うっ……」


 必死に顔を近づけると、触れた瞬間、それは生き物のように自動で顔に密着した。同時に、息苦しさも消える。


「全員、止まれ!」


 林の中をしばらく駆けた後、氷宮が停止を命じた。


「蓮、状況を。」


 僕は荒塚悠の背から降り、蓮の方を見る。


「だめ……Salive群が方向転換して、こっちに向かってきてる。」


「こちらはまだ発見されていないはずだ。……索敵型の個体がいるのか?」


 氷宮は再び親指を唇に当て、考え込む。


「やっぱりこいつのせいじゃないか? 昨日目を覚ましたばかりで、今日になってSaliveがこんな異常行動だ。おい、お前、Saliveのスパイじゃないだろうな。」


 そう言いながら、荒塚悠はついでに僕を蹴った。


「悠! 勝手に疑うな。」


「詩玖、残りの権能じゃ基地まで全員を連れて帰るのは厳しい。このままだと追いつかれる。」


 蓮が僕を支えながら氷宮に言う。


「悠、ジン、お前たちは私と一緒にSalive群を引きつける。花、お前はこの二人を連れて反対方向へ逃げろ。最後はリプルで合流。」


 氷宮はそう命じた。


「「「「了解!」」」」


「レイア、こっちへ。」


 蓮と花が並んで立ち、僕に手を振る。荒塚悠の装備を返し、僕はそちらへ走った。


「では、各自無事で!」


 氷宮がそう告げると、彼女と二人はすぐに木立の中へ消えていった。


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