**(個人編)荒塚悠 2
「早く……花を連れて逃げろ。」
血だまりの中に倒れた神人が、最後の力を振り絞って俺に伝える。
血で滲んだ視界の向こう、腕の中では花が気を失っている。外では至る所から助けを求める声、何かが崩れる音、そして正体不明の獣の咆哮が響いていた。
俺たちは瓦礫の下で、かろうじて生き延びているだけだった。命は風に揺れる小さな炎みたいに、いつ消えてもおかしくない。
どうして、こんなことになった?
突然の災厄が、俺のすべてを壊した。
逃げる?
どこへ?
敵がどこから来たのかも分からない。なぜ襲われたのかも分からない。どこが安全なのかも分からない。
俺は膝をつき、花を抱きしめる。足元に流れる血は、自分のものか神人のものかも分からなかった。
「おい! 中に誰かいるか!」
爆音とともに、隣の壁が吹き飛ぶ。警備服のような装備を着た人たちが、こちらに向かって叫んでいた。
「こ……こっちだ……!」
俺は最後の力を振り絞って叫ぶ。
どうやって助かったのか、正直よく覚えていない。
ただ、俺たちに残ったのは互いの命だけだった。
学校も、日常も、家族も、全部。
あの災厄で、何もかも消えた。
俺たちに残ったのは、ただ“お互いの存在”だけだった。
幸いにも、後に三人とも適応性があると判明した。
この災厄後の世界で生きるための、最低限の資格を手に入れたわけだ。
そうして俺たちは、互いの支えになった。
災厄の後、神人の明るさは消えた。
口数が減り、慎重になり、俺たちがほんの少しでも危険に晒されることを嫌がるようになった。
花は相変わらず明るかった。
相変わらず……演じていた。
三人で危険を分け合い、なんとか一番きつい時期を乗り越えた。
その後、氷宮詩玖と蓮に出会った。
彼女たちの庇護の下で、俺たちは安全を当たり前のように享受し、戦場の残酷さを少しずつ忘れていった。
そして——隊長は重傷を負い、隊は解散寸前まで追い込まれた。
俺は何度も思った。俺は異世界の主人公になるはずの存在だろ?危険を恐れてどうする。強くなるために努力しないでどうする。
でも俺たちは約束したんだ。三人で、生き延びるって。だから俺は、二人を危険に巻き込むことなんてできなかった。
神人と花は、俺の支えなのか。それとも、俺の足かせなのか。
どうしても答えが出ない。
でも——いつまでも逃げ続けるわけにはいかない。
「俺は、赤尾小隊を抜ける。」
俺は、目の前の相手にそう告げた。




