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崩れゆく世界で渇望している  作者: Altsaber
第二章 次第に鮮明になっていく世界
36/43

**(個人編)荒塚悠 1

 俺たちは結局、相手の足かせなのか、それとも支え合う存在なのか。


 今の俺を悩ませているこの問題は、あの頃の俺なら絶対に考えもしなかったことだ。


「ねえ、悠って今なに考えてるの?」


 隣を歩く女の子が、好奇心いっぱいで聞いてくる。


「今夜、誰をおかずにするか考えてる。」


 今は相手にする気がなくて、適当にそう返した。


「うわ、きっしょ。」


 彼女は大げさに吐く真似をして、露骨に嫌悪感を示した。


「おい! 花、調子に乗るなよ。よし、決めた。今夜はお前を材料にしてやる。」


「やめてよ、それもうセクハラだから。」


 花は嫌そうに俺から逃げて、別のやつの後ろに隠れた。


「はいはい、悠、もうやめな。っていうか今日、新作ゲーム発売なんだけどさ、あとで俺ん家来て一緒にやらない?」


 神人は相変わらず、俺たちの間の仲裁役だ。花は今、神人の背中越しに俺に向かって変顔をしている。


「……いや、今日はやめとく。」


 普段なら即答で乗ってた。でも今日はダメだ。今日は俺がずっと追ってるアニメ『Re:ゼロから始める異世界**』の放送日なんだ。


「そっか……でも悠、お前もいつも家にこもってないで、もう少し……」


「うるせえ、ほっとけ!」


 俺は神人の言葉を遮って、足早に一人で家へ向かった。


「神人、どんなゲーム? 私もやりたい!」


「はは、えっと……急に思い出した。今日はちょっと用事あるわ。今度な。」


 後ろから花と神人の声が聞こえたけど、俺は無視した。


 チッ、何様だよ。説教とか始めやがって。


「ただいま。」


 家に帰って靴を脱ぎ、二階の自分の部屋へ向かう。


 友だち面すんなよ。たまたま親同士が友だちで、たまたま十年以上隣同士で、たまたま小学校も中学も高校も一緒だっただけだろ。


 花だってそうだ。中学の頃は陰キャで、友だちなんて俺と神人くらいしかいなかったくせに。高校になった途端「変わりたい」とか勝手に言い出して、気づいたら妙にクラスの人気者になってた。


 神人は最初から陽キャで、周りに友だちも追っかけも途切れない。


 俺だけがずっと、端っこのまま。


 自分で選んだくせに、今さら俺に何か言ってくるの、マジで自意識過剰だろ。そもそも俺たちって、本当に友だちって言えるのか?


 部屋に戻って、部屋の隅に置かれた太刀をちらっと見た。前にネットで買った安物の刀だ。


 アニメの影響で、いつか異世界に転移できるかもって本気で期待してて、その時に備えて買った。先に練習しとこうと思って。


 でも部屋が狭すぎて振れないし、外で練習するのも恥ずかしくて、結局ずっとここに置きっぱなしで埃をかぶってる。


 まあ、何はともあれ、今夜のアニメは絶対見逃せない。


 鞄を置いて机に座り、パソコンを開こうとした時、机の上のメモが目に入った。


「悠へ。私とダーリン、今夜は用事があるから、バージョンさん家でご飯食べてきてね。」


 チッ。二人でまたどっか遊びに行きやがったな。


 これじゃ生放送に間に合わない。帰ってから録画を見るしかないか。


「お邪魔します。」


 バージョン家は隣だ。昔から世話になってるし、俺は遠慮せずにドアを開けて靴を脱ぎ、そのまま入った。


「小悠かい。先に二階に行って神人と遊んでな。ご飯はもう少しでできるよ。」


「はーい。」


 神人の部屋の前まで来て、俺はノックもせずにそのまま入った。


 小さい頃から一緒の俺たちには、ほとんど秘密なんてない。今さら気にする必要もない。


「あ、悠来た。」


 神人は俺に気づくと、手にしていたギターを置いて、ヘッドホンを外し、机の前の棚を開けた。


 俺が来る前までギターを練習してたらしい。チッ。こいつ、まだ女にモテ足りないのかよ。将来どれだけ罪なことするつもりだ。まあ今のところ彼女はできてないらしいけど。


「ほら、これ。例のゲーム。今日発売だから、父さんに頼んで買ってきてもらった。」


 棚から出てきたのは、マルチの異世界冒険もの。俺がずっと楽しみにしてたやつで、本当は週末に買いに行くつもりだった。


「コントローラーは?」


 アニメに間に合わないなら、ちょっと遊ぶのもアリだ。


「ほい。」


 予備の椅子がないから、俺は神人のベッドに座って、二人でパソコンのムービーを眺める。


「悠、花と喧嘩した?」


 神人が急にそんなことを言ってきた。


「してねえけど。何言ってんだよ。」


「ならいい。」


 意味わかんねえ。


 キャラ作成に入って、いつものように名前を入力する。神人はデフォルトのままなのに、俺はキャラメイクにやたら時間をかけた。


「悠ってさ、俺よりかっこいいと思う。ちゃんと身なり整えたら絶対モテるって。」


 装備を選んでる間、神人が話しかけてくる。


「またその話かよ。別にモテたいとかどうでもいいし。てかお前だって、モテるのが逆に困るって言ってたじゃん。」


「悠と俺は違うよ。気にしてるかどうか、一番分かってるのは悠自身だろ。」


「ほら、始まった。ゲームしよう。」


 俺は神人の言葉を切った。


「悠と花は、俺の一番の友だちで、一番大事な友だちだからさ。だから絶対、喧嘩しないでほしい。」


「お前、ゲームしてんの? それとも人生相談?」


 始めてすぐなのに、またその話に戻すから、俺もイラッとして声が出た。


「あ、ごめんごめん。続けよ。」


 チッ。こいつのこういうとこが一番ムカつく。


 一番モテるくせに、俺たち二人が一番大事とか言う。薄っぺらいんだよ。


 でも――


「さっきのそれ、分かった。約束する。」


 このゲームのためだ。そういうことにしておく。


「よかった、悠。」


「ただし先に喧嘩売ってきたのが花なら、俺も絶対やり返すからな。」


「やっほー! バージョンおじさん、バージョンおばさん、こんばんは! ママに言われてご飯食べに来たよー!」


 その時、階下からやたらでかい声が響いた。


「小花、今日はご飯いろいろ作ってあるから、いっぱい食べなさいね。」


「うわー、楽しみ!」


「それにしても小花、ほんと変わったわねえ。前はあんまり喋らなかったのに。」


「昔のことは言わないでよー、えへへ。」


 その直後、階段を上る足音が聞こえた。花が上がってきてる。


 午後の俺の態度、確かに花にきつかった。……謝った方がいいのか? なんて考えていた、その時。


「バージョンおじさん、悠も来てる? なんかあいつの臭い匂いがするんだけど、へへ。」


 このクソガキ!


 俺はコントローラーを握る手に力が入り、ボタンがギシッと鳴った……。


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