**(個人編)荒塚悠 1
俺たちは結局、相手の足かせなのか、それとも支え合う存在なのか。
今の俺を悩ませているこの問題は、あの頃の俺なら絶対に考えもしなかったことだ。
「ねえ、悠って今なに考えてるの?」
隣を歩く女の子が、好奇心いっぱいで聞いてくる。
「今夜、誰をおかずにするか考えてる。」
今は相手にする気がなくて、適当にそう返した。
「うわ、きっしょ。」
彼女は大げさに吐く真似をして、露骨に嫌悪感を示した。
「おい! 花、調子に乗るなよ。よし、決めた。今夜はお前を材料にしてやる。」
「やめてよ、それもうセクハラだから。」
花は嫌そうに俺から逃げて、別のやつの後ろに隠れた。
「はいはい、悠、もうやめな。っていうか今日、新作ゲーム発売なんだけどさ、あとで俺ん家来て一緒にやらない?」
神人は相変わらず、俺たちの間の仲裁役だ。花は今、神人の背中越しに俺に向かって変顔をしている。
「……いや、今日はやめとく。」
普段なら即答で乗ってた。でも今日はダメだ。今日は俺がずっと追ってるアニメ『Re:ゼロから始める異世界**』の放送日なんだ。
「そっか……でも悠、お前もいつも家にこもってないで、もう少し……」
「うるせえ、ほっとけ!」
俺は神人の言葉を遮って、足早に一人で家へ向かった。
「神人、どんなゲーム? 私もやりたい!」
「はは、えっと……急に思い出した。今日はちょっと用事あるわ。今度な。」
後ろから花と神人の声が聞こえたけど、俺は無視した。
チッ、何様だよ。説教とか始めやがって。
「ただいま。」
家に帰って靴を脱ぎ、二階の自分の部屋へ向かう。
友だち面すんなよ。たまたま親同士が友だちで、たまたま十年以上隣同士で、たまたま小学校も中学も高校も一緒だっただけだろ。
花だってそうだ。中学の頃は陰キャで、友だちなんて俺と神人くらいしかいなかったくせに。高校になった途端「変わりたい」とか勝手に言い出して、気づいたら妙にクラスの人気者になってた。
神人は最初から陽キャで、周りに友だちも追っかけも途切れない。
俺だけがずっと、端っこのまま。
自分で選んだくせに、今さら俺に何か言ってくるの、マジで自意識過剰だろ。そもそも俺たちって、本当に友だちって言えるのか?
部屋に戻って、部屋の隅に置かれた太刀をちらっと見た。前にネットで買った安物の刀だ。
アニメの影響で、いつか異世界に転移できるかもって本気で期待してて、その時に備えて買った。先に練習しとこうと思って。
でも部屋が狭すぎて振れないし、外で練習するのも恥ずかしくて、結局ずっとここに置きっぱなしで埃をかぶってる。
まあ、何はともあれ、今夜のアニメは絶対見逃せない。
鞄を置いて机に座り、パソコンを開こうとした時、机の上のメモが目に入った。
「悠へ。私とダーリン、今夜は用事があるから、バージョンさん家でご飯食べてきてね。」
チッ。二人でまたどっか遊びに行きやがったな。
これじゃ生放送に間に合わない。帰ってから録画を見るしかないか。
「お邪魔します。」
バージョン家は隣だ。昔から世話になってるし、俺は遠慮せずにドアを開けて靴を脱ぎ、そのまま入った。
「小悠かい。先に二階に行って神人と遊んでな。ご飯はもう少しでできるよ。」
「はーい。」
神人の部屋の前まで来て、俺はノックもせずにそのまま入った。
小さい頃から一緒の俺たちには、ほとんど秘密なんてない。今さら気にする必要もない。
「あ、悠来た。」
神人は俺に気づくと、手にしていたギターを置いて、ヘッドホンを外し、机の前の棚を開けた。
俺が来る前までギターを練習してたらしい。チッ。こいつ、まだ女にモテ足りないのかよ。将来どれだけ罪なことするつもりだ。まあ今のところ彼女はできてないらしいけど。
「ほら、これ。例のゲーム。今日発売だから、父さんに頼んで買ってきてもらった。」
棚から出てきたのは、マルチの異世界冒険もの。俺がずっと楽しみにしてたやつで、本当は週末に買いに行くつもりだった。
「コントローラーは?」
アニメに間に合わないなら、ちょっと遊ぶのもアリだ。
「ほい。」
予備の椅子がないから、俺は神人のベッドに座って、二人でパソコンのムービーを眺める。
「悠、花と喧嘩した?」
神人が急にそんなことを言ってきた。
「してねえけど。何言ってんだよ。」
「ならいい。」
意味わかんねえ。
キャラ作成に入って、いつものように名前を入力する。神人はデフォルトのままなのに、俺はキャラメイクにやたら時間をかけた。
「悠ってさ、俺よりかっこいいと思う。ちゃんと身なり整えたら絶対モテるって。」
装備を選んでる間、神人が話しかけてくる。
「またその話かよ。別にモテたいとかどうでもいいし。てかお前だって、モテるのが逆に困るって言ってたじゃん。」
「悠と俺は違うよ。気にしてるかどうか、一番分かってるのは悠自身だろ。」
「ほら、始まった。ゲームしよう。」
俺は神人の言葉を切った。
「悠と花は、俺の一番の友だちで、一番大事な友だちだからさ。だから絶対、喧嘩しないでほしい。」
「お前、ゲームしてんの? それとも人生相談?」
始めてすぐなのに、またその話に戻すから、俺もイラッとして声が出た。
「あ、ごめんごめん。続けよ。」
チッ。こいつのこういうとこが一番ムカつく。
一番モテるくせに、俺たち二人が一番大事とか言う。薄っぺらいんだよ。
でも――
「さっきのそれ、分かった。約束する。」
このゲームのためだ。そういうことにしておく。
「よかった、悠。」
「ただし先に喧嘩売ってきたのが花なら、俺も絶対やり返すからな。」
「やっほー! バージョンおじさん、バージョンおばさん、こんばんは! ママに言われてご飯食べに来たよー!」
その時、階下からやたらでかい声が響いた。
「小花、今日はご飯いろいろ作ってあるから、いっぱい食べなさいね。」
「うわー、楽しみ!」
「それにしても小花、ほんと変わったわねえ。前はあんまり喋らなかったのに。」
「昔のことは言わないでよー、えへへ。」
その直後、階段を上る足音が聞こえた。花が上がってきてる。
午後の俺の態度、確かに花にきつかった。……謝った方がいいのか? なんて考えていた、その時。
「バージョンおじさん、悠も来てる? なんかあいつの臭い匂いがするんだけど、へへ。」
このクソガキ!
俺はコントローラーを握る手に力が入り、ボタンがギシッと鳴った……。




