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崩れゆく世界で渇望している  作者: Altsaber
第一章 なおも朦朧としている世界
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2 レイア、それが私の名前

 彼らの中で、私は一目であの私を救った人を見つけた。不思議なことに、再び彼女を目にしても、以前感じたあの胸の高鳴りはもう現れなかった。


 その時、彼女はきちんと座って私を観察し、それから首を振ってため息をついた。


「はあ……蓮の言った通りね。他人の顔でここまで呆然とした表情を見るのは初めてだわ。」


「でしょ?ほんとに生まれたばかりの赤ちゃんみたい!」


 蓮がそう相槌を打つ。


「念のために聞くけど、本当に自分が誰か覚えてないの?どこから来たのか、どうしてあそこにいたのかも?」


 私を救ったその人がそう問いかける。私は首を横に振って答えた。


「言葉は通じるのに記憶がない……でも食事すら分からないなんて、単なる記憶喪失とは思えないわ。蓮も適応者の兆候はないって言ってたし。それなのに一人であそこに現れた……」


 彼女はそう呟き、急に私のほうへ向き直る。


「本当に怪しいわね。」


「そ、そうだ!怪しすぎる!」


 さっき大声を上げていた赤髪の男が同調する。


「とはいえ、ここに放っておいたらまず生き残れないでしょう。町に着くまで一緒に連れていく、みんな異議ある?」


「反対!こいつ危険すぎる!」


 赤髪の男と、黒いフードの下で黙っていたもう一人が反対を示す。一方、先ほど助けてくれたピンク髪の女性と蓮は賛成した。


「賛成多数ね。任務ももうすぐ終わるし、しばらく一緒に来なさい。蓮、この子の面倒はあなたが見て。」


「反対だって言ってるだろ!」


 赤髪の男はまだ諦めない。


「却下。先に食事。」


 隊長の一声で、赤髪の男も不満げに“食事”という名の行為を始めた。


 誰も私に来いとは言わなかったので、私はその場に立ったまま静かに彼らを見ていた。


「いつ目を覚ますか分からなかったから、あなたの分は用意してなかったの。さっき食べたのは蓮の分よ。まだお腹空いてるなら、私の分も一緒に食べて。」


 ピンク髪の女性が“食べ物”と呼ばれるものを持ってやって来て、私に差し出す。


「うん。」


 私は器を受け取る。さっきの出来事で理解した。下にあるものは“皿”と呼ばれるらしく、食べるものではなく、その上にあるものが食べ物だ。


 少しつまんで口に運ぼうとしたとき、ふと思う。


「あなたは、お腹空いてる?」


 空腹なら食べる。食べるということは空腹ということ。その感覚はあまり好きではない。


「え?わ、私は……空いてないよ……」


 そう言いながらも、彼女の目は皿の中を見ていた。


 空いてないなら食べなくていい。私は自分の分を口に入れ、ひとりで食べようとする。


「この子に嘘はだめよ。」


 蓮が近づいてくる。


「花は嘘ついてる。本当は食いしん坊で、もうお腹ぺこぺこ。」


「ちょっと!食いしん坊じゃないって!」


 ピンク髪の女性が抗議する。


「嘘?」


 私は尋ねる。蓮は彼女を無視した。


「言ってることと本当に思ってることが違うこと。」


「空いてるのに、空いてないって言うのは、どうして?」


「人は食べるためだけに生きてるわけじゃないの。理由は、ちょっと複雑。」


「分からない。」


「大丈夫、これから覚えていけばいい。」


 蓮の言葉はまだ完全には理解できない。でも一つ分かった。ピンク髪の女性は空腹だ。私は食べ物を指で半分に分けた。


「はい。あなたの分。」


「……ありがとう。」


 彼女は礼を言い、空の皿に分けてもらった分を載せて、皆のところへ戻った。


「蓮、あなたの分も。」


 残りをさらに半分にして差し出す。


「ふふ。でも、私が空いてるか聞かないの?」


「ううん。あなたも嘘を言うかもしれないから。」


「はは。でもあなたにだけは、絶対に嘘つきたくない。」


「そう。分かった。」


「蓮、私の分あげる。」


 そのとき、隊長が近づき、自分の皿を差し出した。


「いらないわ。私は平気。それより任務帰りのあなたたちがちゃんと食べなさい。」


「そう……ならいい。」


 隊長は引き下がるが、振り向いて私を見る。


「私の名前は氷宮詩玖。氷宮って呼んで。」


 そう自己紹介し、去っていった。


「名前?」


 目覚めたときも聞かれた言葉だ。


「人を呼ぶためのものよ。“あなた”ばかりじゃ分かりづらいでしょ?」


 蓮が説明する。


「そう……あなたの名前は蓮?」


 皆がそう呼んでいた。


「そうよ。これからはそう呼んで。」


「蓮……」


「うん。」


 呼んでみると返事がある。でも少しだけ、胸が沈む。私は名前を持っていない。


「そういえば、あなたまだ名前ないわよね。つけてあげようか?」


「いいの?」


 気持ちが一気に軽くなる。名前は作れるものらしい。


「うーん……名前には願いとか意味が込められることが多いから、簡単じゃないのよね。」


「大丈夫。私は、名前があればいい。」


「それなら……レイア(re i)にしましょう。目覚めたとき何も覚えてなかったでしょう?ゼロから始まるみたいに。」


「レイア……うん。これが、私の名前。」


 そのあと、蓮と私は食べ物が冷めきる前に、皿を挟んで一口ずつ、急いで平らげた。


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