24 决戦
「ドン!」
私が思考に沈んでいたその瞬間、こちらに奇襲を仕掛けようとしたSaliveが、荒塚悠に蹴り飛ばされた。
「今はお前らがいちゃついてる暇なんてねぇぞ!」
荒塚悠は不満そうに私たちへ文句を投げる。
「ってぇ!お前なにしてんだよ、この野郎!」
次の瞬間、荒塚悠は突然右脚を抱えて悲鳴を上げた。理由は、雛原舞に容赦なく蹴られたからだ。
そしてその張本人は、涙を拭いながらこちらを横目で見ていた。その複雑な視線からは何一つ読み取れない。ただ、その視線に見つめられているだけで全身が落ち着かなくなる。
「うん、分かった。じゃあ、引き続き計画通りにいこう。」
舞はひどくぎこちない笑みを浮かべ、それから私の手を引いて再び歩き出した。
何を理解したのかは分からない。でも、とにかく彼女はもう決断を下したのだろう。
舞の件がひと段落すると、私たちは前進を再開した。他の皆も、さっきの出来事を気にする余裕はなさそうだった。
道中のSaliveが次第に減っていき、やがてsalv4の姿がはっきり見えるようになる。
山のように巨大な物体が地面をゆっくりと這っている。とはいえ、その速度は見た目よりもずっと速い。四肢が地面に叩きつけられるたびに、足元がわずかに震えるのを感じた。
「あと3キロだ。各自、戦闘準備。」
星月蓮が命じると、他のメンバーは一斉に陣形を縮め、私を中央に囲んだ。
salv4との距離が2キロを切った頃、私は突然、異様な感覚に襲われた。まるで何かに見張られているような感覚だ。
「これがsalv4の領域だ。この中にいるSaliveや人間を感知できる。恐鰐の領域は、適応者の権能の発動を鈍らせる効果がある。」
前方の氷宮詩玖が私に説明し、それから皆に向き直る。
「攻撃に備えて!」
氷宮詩玖の声が落ちた直後、恐鰐の背中に閃光が走った。次の瞬間、私が反応するより早く轟音が響き、氷宮詩玖の氷壁が粉々に砕け散った。
さっきの攻撃は恐鰐によるものだろう。しかし、事前に張られた氷壁が受け止めてくれた。
「悠!」
氷宮詩玖は振り返りもせず、荒塚悠の名を叫ぶ。
「おう!」
応じた荒塚悠は隊列を飛び出し、側面へ走る。
「悠様の最強の一撃、受けてみやがれ!」
一定距離に達すると足を止め、気合いの叫びとともに、天を貫く炎が立ち上った。瞬時に空一面が黄色に染まる。
直径およそ10メートルの炎柱が恐鰐の頭部へ突き刺さり、正面から命中した。しかし、その迫力とは裏腹に、恐鰐の体に目に見える傷は残らない。
だが効果はあったらしい。恐鰐の視線がゆっくりと荒塚悠へ向き、その背にさらに強い光が灯る。
「ドン!」
次の瞬間、土煙が舞い上がり、荒塚悠がいた場所に直径6、7メートルの大穴が穿たれた。
「安心しろ、悠は無事だ。あいつは普段は大雑把だが、生き残る力だけは神人の次にある。だがここからは、私たちの番だ。」
氷宮詩玖はそう言い、荒塚悠への絶対的な信頼をにじませた。
悠が注意を引きつけてくれたおかげで、私たちは恐鰐の1キロ圏内まで接近できた。
「ここからは頼んだ。」
氷宮詩玖はそう言って、恐鰐の背へ届く氷柱を立ち上げ、自らは囮として残った。
「しっかり掴まれ。」
行動の要であるバージョン・ジンが、私を片手で背負い、氷柱を踏み駆け上がる。
彼の速度は私よりはるかに速い。背負われている分、動きは制限されるはずだが、今は一秒一秒が重要だ。彼が私を運ぶのが最善の選択だった。舞は後ろから追っている。
私たちが駆ける間、氷柱が次々と横を掠め、恐鰐の体に深い傷を刻む。しかしその傷は瞬く間に修復されていく。
「……ブゥン……」
恐鰐の背が発光し、蓄力音が耳に届く。
やがて大量のレーザーが降り注いだ。その大半は氷宮詩玖へ向かったが、近すぎた私たちにも一部が襲いかかる。
「どけぇ!」
背後で舞が怒鳴る。レーザーの軌道が強引に捻じ曲げられる。それでも数本がこちらへ向かってきた。
「体を縮めろ!」
バージョン・ジンが叫び、身体をひねり跳躍しながら残りの攻撃をかわす。
だが私を守るためか、彼の脚は大きく削られ、白い骨が覗いていた。
「自分に集中しろ。お前が成功しなければ、俺たちは生き残れない。」
氷宮詩玖の様子を振り返ろうとした私に、バージョン・ジンはそう言い聞かせる。
皆の援護で、恐鰐の背の核心まであと二、三百メートル。この距離なら全速なら数秒だ。だが次の攻撃が迫っていた。
「会長、頼む。」
バージョン・ジンが舞に叫ぶ。視界が次第に暗くなり、影に包まれる。
「失望させないで。」
舞の声とともに、首飾りのようなものが後方から放たれ、結界を展開してすべての攻撃を防いだ。
振り返ると、舞の身体は糸の切れた凧のように真っ直ぐ落下していく。どうやら今ので権能を使い果たしたらしい。
彼女が生き延びられるか分からない。だが私にはどうすることもできない。バージョン・ジンの言う通り、私が成し遂げなければ、皆に生存の可能性はない。
「パキッ。」
前方の氷柱が先ほどの攻撃の余波で折れた。残りは跳躍だけでは足りない距離だ。
そのとき、強い推進力を感じた。舞の風だ。
その力を借り、ついに私たちは恐鰐の背に辿り着いた。
「この領域では権能の発動が鈍る。俺でも権核周囲の防御は破れない。」
恐鰐の背を駆けながら、気配を消したままバージョン・ジンが説明する。
「だから二人同時の全力攻撃でしか突破できない。合図に合わせろ。」
「うん。」
応じると、ついに権核へ到達する。
これまで見た低階Saliveの青白い権核とは違い、これは青紫色で、拳二つ分ほどの大きさだった。
「いくぞ、3、2、1!」
カウントが終わると同時に隠蔽が解け、私たちは同時に剣を抜き、権核へ斬りかかる。
「ドン!ドン!」
同時のはずだった。しかしバージョン・ジンの剣は空間を裂いたかのように消え、先に攻撃地点へ到達する。その直後、私の剣が重なるように振り下ろされた。
火花が散り、権核を覆っていた結晶は、ついに砕け散った。




