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崩れゆく世界で渇望している  作者: Altsaber
第一章 なおも朦朧としている世界
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23 避けられない犠牲

「あなたたち、頭おかしくなったの? どうしても無理なら街の中で時間を稼いで、救援を待てばいいじゃない。正面から戦うのと自殺しに行くのと、何が違うのよ。」


 最初に声を荒げて反論したのは舞だった。


「今の状況じゃ、どうやっても逃げ切れない。ほかのSaliveに消耗させられてから追いつかれるくらいなら、権能を温存したまま直接決戦に出たほうがいい。Salv4さえ倒せば、あいつの影響で集まっているSaliveの群れも自然に散るはずだ。」


 氷宮は冷静にそう返した。


「でも、どうやってSalv4を殺すの? まさか自分たちにZe…」


 舞は氷宮を問い詰めていたが、言いかけて途中で何かに気づいたように、私のほうを見た。


 同時に、氷宮も私を見る。


「いや、やせきを危険に晒すつもりはない。」


 舞は突然私のそばへ駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。そして氷宮を睨みつける。その姿は、以前レストランの横で見かけた、餌を守る小さな犬みたいだった。


「もし失敗すれば、私たち全員が死ぬ。だから危険に晒されるのは彼だけじゃない。」


 氷宮の口調は相変わらず静かだった。


「やせきはまだSalv3すら試したことがないんでしょ? どうして彼の能力がSalv4に通用するって言えるの。それに、たとえ成功しても、あんな膨大な権能を彼が耐えられるわけない。」


「それでも、これが今の私たちにとって最善の選択だ。仮に本当に失敗したとしても、Salv4の足を止められれば、他の人たちの撤退時間は稼げる。」


 氷宮と舞が言い争っているあいだにも、Saliveの群れはじわじわと包囲を狭めてきていた。考えている時間は、もうほとんど残されていない。


「私も詩玖の判断に賛成だ。」


「……ちっ。」


 蓮が意見を述べると、舞は舌打ちをして、それ以上は反対しなかった。


「全員、出発。」


 氷宮の号令とともに、私たちはすぐに来た道を引き返した。


「一級、二級Saliveが低階に分類されているのは、人類の科学技術で完全に殺せなくても、制圧は可能だから。三級Saliveは中階に分類される。人類に対してまだ決定的な脅威ではないとはいえ、高出力ミサイルを継続的に撃ち込まないと一時的に抑えられない。そしてそれ以上はすべて高階に分類される。人類が対抗不能だからだ。体格や権能も理由の一つだけど、最も大きいのは——高階Saliveは“領域”と呼ばれる能力を持っていること。」


 進みながら、氷宮は蓮に代わってSaliveの情報を私に説明してくれた。


 蓮本人は、戦闘不能になった花と一緒にビルの上へ身を潜めている。Saliveの群れに囲まれるリスクはあるが、他のメンバーと一緒に戦えば、かえって危険が増し、足手まといになるからだ。


「領域?」


 その言葉を聞くのは初めてだった。これまで基地では低階Salive相手の実験ばかりで、高階の情報を教えられたことはなかった。


「簡単に言えば、権能を周囲の環境に拡散させる能力。一定範囲内では、物理法則の一部すら変えられる。そして権能の性質と同じく、領域の能力も個体ごとに違う。」


「じゃあ、今回のSalv4の能力は?」


 私は氷宮に尋ねた。


「このタイプのSalv4は“恐鰐”と呼ばれている。世界で観測されたのは43体、そのうち16体は討伐済み。情報は比較的揃っている。これが数少ない幸運の一つだ。平均高さ25メートル、全長約70メートル。見た目はワニに似ていて、最大の特徴は背中にある結晶状の突起。そこからレーザーを放つ。一発ごとに、三級適応者の全力攻撃に匹敵する。」


「そして、最も大きな結晶の中に権核がある。私たちの戦術は、君とバージョン・ジンをそこまで送り届けること。ジンが防御を破ったあと、君が権核を吸収する。」


 最初の決定どおり、最も重要な役目は私に託された。自分に務まるのかは分からない。けれど、皆で決めたことなら、私に口を挟む余地はない。ただ全力でやり遂げるだけだ。


 他の場所に比べて、Salv4に近づくほど遭遇するSaliveは少なくなっていった。戦闘の負担は軽くなる。それなのに、皆の表情はむしろ一層重くなっていく。


「ねえ、やせき……あなた、死ぬよ……」


 いつの間にか舞が隣に来て、小さな声でそう言った。声には、もういつもの明るさはない。


「うん。」


 この任務が危険なのは分かっている。でも、私に「死ぬ」とはっきり告げたのは、舞が初めてだった。


 けれど、どう答えればいいのか分からない。私は死そのものに実感がない。生きているのも、彼らが生きてほしいと願ってくれた、その善意のおかげだ。前に蓮の攻撃を庇ったときと同じで、その善意のために死ぬのなら、私はそれで構わないと思っている。


「こんな決断をして、やせきは私のこと、恨む……?」


 舞の声は低いまま。氷宮たちの決断に同意してしまったことを、自分で責めているみたいだった。


 舞も夙も、私を好きだと言った。でも、夙は私を生かすために自分を犠牲にしたのに、舞は私を死地へ送り出そうとしている。それが、少し不思議だった。


 人を好きになるって、本当はどういうことなんだろう。


 それでも、私がやるべきことは変わらない。


「どうして舞を恨むの?」


「え……あ……」


 私の答えに、舞は少し驚いたようだった。けれどすぐに、どこか悲しみの混じった表情に覆われる。うつむいたまま数秒間黙り込み、肩がかすかに震えていた。何かを必死に堪えているみたいに。


「私……」


 結局、舞の言葉は最後まで続かなかった。


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