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崩れゆく世界で渇望している  作者: Altsaber
第一章 なおも朦朧としている世界
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21 死を待つ

「うっ……」


 花の援護がなくなった俺は、はっきりと隊の弱点になっていた。salv2の一体が爪の一撃で俺の剣を弾き飛ばし、そのまま頭頂の角を俺の胸に向けて一直線に突っ込んでくる。まるで俺をこの隊の最初の犠牲者にするつもりみたいだった。


「レイア!」


 真っ先に異変に気づいたのは舞だった。だがsalv3に足止めされている彼女は、ただそれを見ていることしかできない。


 時間が無限に引き伸ばされたみたいに感じる。俺はただ、salv2の角がゆっくりと迫ってくるのを見つめるだけで、何ひとつ動けなかった。


「ドン。」


 氷の盾が俺とsalv2の間に割り込み、接触を遮断する。間違いなく、氷宮詩玖ひみや しぐが気づいて助けてくれたんだ。


 だが、その氷宮の状況は良くなかった。


 俺を救ったその隙にSaliveに包囲され、牙を剥いた群れが四方から一斉に襲いかかる。


「しっかり掴まって。」


 背中の女性にそう告げると、氷宮は前へ踏み込み、足元のSaliveの頭を踏み台にして跳躍した。空中へ身を躍らせ、包囲を一時的に回避する。


 だが、それも一瞬だけ。


「詩玖隊長、後ろ!」


 花の警告で、俺は氷宮の背後から跳びかかるsalv3に気づいた。鋭い爪が風を裂きながら突き出される。


 空中にいる氷宮には回避の余地がない。彼女は体を捻って正面からsalv3に向き直り、背中の女性を安全圏に収めた。


 向きを整えてから、ようやく右手を伸ばし、氷盾を張ろうとする。


「パリン。」


 間に合わない。右手を伸ばした瞬間、薄氷が砕ける音とともにsalv3の爪が迫る。


「ぐっ!」


 その一撃を胸で受け止める。戦闘服は右肩から左腹まで三本の裂傷で引き裂かれ、雪のように白い肌が露わになるが、すぐに噴き出した血で赤く染まった。


「バン!」


 追撃しようとしたsalv3は花の一撃で撃ち抜かれる。


 それでも氷宮は戦闘不能にはならなかった。


 地面に着地すると、彼女は傷口を凍らせて止血し、そのまま再び戦線へ戻る。


「やせき、受け取って!」


 舞が叫び、風で俺の剣を運んできた。


 俺たちは再び前進を開始する。だが一般人を二人抱えただけでも厳しかった戦闘は、氷宮の負傷によってさらに過酷になった。ほんの少しのミスで全滅しかねない。


 この瞬間、俺は救うという行為の代償を思い知る。


 目の前の誰かが危険にあるからと手を差し伸べる。その結果がもっと悪い結末を呼ぶかもしれないなら、俺はどうすればいい?


「このままだと、撤離ポイントに着く前にsalv4に追いつかれる。」


 考える暇もなく、蓮が誰も向き合いたくない現実を告げる。


「追いつかれるまで、どれくらい?」


 氷宮は顔色ひとつ変えずに尋ねる。


「あと三十分。」


 なら、選択肢は二つ。


 途中で救った二人を置いていくか、salv4に追いつかれて交戦するか。


 後者はほぼ自殺だ。


 だが、置いていくという選択は——


「……私たち、ここで下ろしてください。」


 氷宮に抱えられていた若い女性が、小さく言った。


 俺たちは足を止め、彼女たちを見る。今、決断が必要だということは、俺にでも分かる。


「だめ! たとえSaliveに見つからなくても、倒壊した建物に埋もれてしまう。生き延びても、この街を取り戻せる保証はない。ここに残れば、ほぼ確実に死ぬ。」


 花は最後まで諦めない。


「でも……私たちを連れていけば、あなたたちまで死ぬかもしれないでしょう?」


 女性も状況を理解している。


「それは……」


 花も言葉を失う。


「他の適応者なら、最初から見向きもしなかったかもしれません。ここまで連れてきてくれただけで十分です。あなたたちみたいな人がもっと増えれば、人類にはきっと希望があります。だからどうか、生きてください。」


 氷宮に下ろされた女性は恨み言ひとつ言わず、微笑んで礼を述べる。


 老婆は終始無言で、ただ静かに俺たちを見つめていた。何を思っているのかは分からない。


「すみません。近くに隠れて、できるだけ生き延びてください。機会があれば、必ず迎えに来ます。」


 氷宮はそう告げる。


 俺たちは二人が近くのアパートの地下室へ入るのを見届け、再び撤退を開始した。


 去り際に振り返ると、二人は寄り添いながら静かに座っていた。目はとても穏やかだった。


 その心境は分からない。


 自分が今どんな気持ちなのかさえ分からない。


 氷宮たちは生きるために戦っている。


 だが俺にとって、「なぜ生きるのか」という執念そのものが理解できない。


 目覚めたばかりの頃、俺に生きたいという意志はなかった。死ななかったのは、死ぬ理由もなかったからだ。


 蓮は言っていた。生への執着も死への恐怖も、進化の遺伝子が決めたものだと。


 だがあの二人の目は、それとは違って見えた。


 自分で決断しようとしても、ひとつだけ分からないことがある。


 人間とは何なのか。


 そして、俺は何であるべきなのか。


 二人を置いてから、俺たちは徐々にsalv4を引き離していった。


 舞が抱えていた蓮も、再び花へと戻される。


 舞は三階適応者の中でも上位らしく、本気を出した彼女が加わると進軍はかなり楽になった。


「蓮、撤離ポイントまであとどれくらい?」


 しばらく走った後、氷宮が尋ねる。


「約5キロ。今の速度なら三十分くらい。向こうは最大であと一時間待てるって。」


 蓮は手元の装置を確認しながら答えた。


「みんなの権能残量は?」


 花は二割以上、他は一割五分前後。殿を務めるバージョン・ジンはやや多いが二割未満。氷宮は一割しか残っていない。


「神人、私と位置を交代。速度を上げる。途中で何かあったら困る。レイア、これからはあなたにもう少し頑張ってもらう。」


「分かった。」


 隊列は素早く再編され、速度は三割ほど上がった。


 だが——前方で轟音が響き、すべての計画が崩れる。


 衝撃波が襲い、先頭にいた俺の体は吹き飛ばされた。


 全身の権能を総動員して衝撃を和らげようとするが、それでも意識が遠のいていくのを止められなかった。


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