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崩れゆく世界で渇望している  作者: Altsaber
第一章 なおも朦朧としている世界
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19 馴染みのある声

「はあっ!」


 俺はsalv1の頭頂へ剣を叩きつける。刃が触れた瞬間、権核は吸収され、次の一撃へと変換される。


「後ろ!」


 舞の声。振り向くと、不意打ちを狙ったsalv2が、すでに舞の拘束によって身動きできなくなっていた。


 俺は右側から突進してくる別のsalv1を斬り払いながら、左手を伸ばし、拘束されたsalv2の胸へと突き入れる。内部から青い権核を掴み出した瞬間、その巨体は轟音とともに崩壊した。


 周囲の物質が引き寄せられるように集まり、再び肉体を形成しようとする。だがその前に、俺は権核を剣へ押し当てる。右手に鋭い痛みが走り、権核はゆっくりと消滅し、集まっていた物質も四散した。


「どけ」


 飛びかかってきたsalv1を蹴り飛ばし、さらに別の個体へ剣を投げる。即死には至らないが、軌道は逸れ、標的から外れた。


 そのまま一体のsalv1を踏み台に跳躍。剣を掴んだ瞬間、そのsalv1の権核も吸収され、体は崩れ落ちる。


「……ありがとう」


 助けたのは後衛型の適応者らしい。小さな声で礼を言う。


 俺は返事をせず、そのままsaliveの群れへ突っ込む。


 今の俺が単独で安定して対処できるのはsalv1までだ。salv2は舞の援護があってこそ安全に仕留められる。


 salv3は同格の適応者が対応している。舞の指示で意図的に避けているため、全力で戦っていても致命的な危険には陥っていない。


 それでも、舞が俺を庇って包囲されないよう、俺は徐々に後退する。


 気づけば一時間が過ぎ、俺たちは城壁付近まで押し戻されていた。


「司令部より通達。他の防衛線が突破された。内外からの挟撃を避けるため、全員城壁内部へ退避。小隊単位で建物を利用し、遊撃戦に移行せよ」


 舞の指示で、俺たちはsalv3が破壊した穴から市内へ入る。すでに住民は避難済みだ。


 だが他地区の陥落により、大量のsaliveが流入している。街は人類の拠点から、saliveの巣へと変わりつつあった。


「salv4到達まで二時間強。それまで一時間牽制し、その後城西に集合、撤退準備。いい? 最優先は自分の命」


 舞が告げると、集まっていた適応者たちは小隊ごとに散開した。


「やせき、今度こそ勝手に動かないで。私たちは引きつけるだけ。戦闘は極力避ける」


 本来なら舞は安全な指揮所で全体を統括する立場だ。それでも前線に立ち、冷静に判断を下す。その姿は、普段俺のそばにいる彼女とはあまりに違っていた。


「右に多数接近。左へ」


 舞に手を引かれ、路地を駆け抜ける。


 近距離では適応者とsaliveは互いの位置を感知できる。だから適応者は囮になれるし、舞は敵の位置を把握して回避できる。


 だが俺にはその感知能力がない。逆に広範囲の低階saliveが俺を感知し、無意識に引き寄せられる。一方通行の可視状態だ。


 ……そうだ。今さら気づく。俺は広範囲のsaliveを引き寄せる体質だった。城外ではどの防衛線もsaliveで溢れていたから気づかなかったが、市街戦では包囲される危険がある。


「舞、撤退だ!」


 舞も即座に理解し、進路上のsaliveを無視して全速力で城西へ向かう。俺の特性を知っているからだ。


「ちっ!」


 走る最中、舞は急に方向を変え、細い路地へ入る。前方に大群を感知し、迂回したのだろう。


 だが、次第に舞の足が止まる。


「……囲まれた」


 最悪だ。


「舞、先に行け」


 俺を連れていては逃げ切れない。仮に抜け出せても、俺はまたsaliveを引き寄せる。ならば俺が囮になればいい。舞だけでも生き延びられる。


 返答の代わりに、舞の手刀が俺の頭に落ちた。


「っ……!」


 頭を押さえる俺に、舞は呆れたように言う。


「前から思ってたけど、ほんとにバカ。こんな状況で、私があなただけ置いて行くわけないでしょ」


 その言葉で、夙を思い出す。あの状況で、夙が一人で逃げるはずがなかった。


 もし二人とも俺に好意を抱いていたなら、舞がこの提案を拒否するのは当然だ。


 俺はまだ「好き」という感情を理解できない。なぜこんな俺が好かれるのかも分からない。だが、その感情を前提にすれば、舞の行動は予測できる。


 舞は俺の手を握る。


 迫りくるsaliveに向き直る。


「はあっ!」


 同時に踏み込む。


 舞は抑制を解き、凄まじい権能を解放する。見えない風刃が路地を埋め尽くし、触れたものすべてを粉砕する。


 saliveの体が次々と崩れ、粉塵が視界を覆う。舞が暴風を起こして吹き払い、再び攻撃を重ねる。俺は取りこぼしを確実に斬り捨てる。


 だが、それでも流入は止まらない。反対側を防ぐ風壁も軋み、今にも崩れそうだ。


 長くは持たない。明白だ。


 それでも――せめて舞だけでも生き残れれば。


「やっぱりお前か、レイア!」


 その時、上方から聞き覚えのある声が降ってきた。


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