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崩れゆく世界で渇望している  作者: Altsaber
第一章 なおも朦朧としている世界
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16 私は君を連れて離れる

「きゃあ!助けて!」


 ある部屋の中から悲鳴が響き渡った。そしてその入口では、巨大な体躯が無理やり中へ押し入ろうとしていた。


 Salv2――諸懐。牛のような体つきに虎のような頭部、さらに約五十センチはあろうかという角を備えている。四肢からは十数センチの鋭い爪が伸び、極めて攻撃的だ。背中にはラクダのこぶのような隆起があり、鎧状のもので覆われている。


 二メートルを超える巨体はsalv1よりもはるかに大きいが、そのせいで狭いドア枠に引っかかっていた。


 しかしsalv2は小型車のような推進力を持つ。全力で突進するたびに、壁が今にも崩れ落ちそうに揺れた。


「轟音!」


 諸懐の巨体がついに障害を突破し、部屋に隠れていた人間を蟻のように踏み潰そうとする。


 だがその直前、ひとつの影が背中へと跳躍した。黒い剣光が走り、諸懐の隆起した背部が丸ごと削ぎ落とされる。続いてその身は砕け散り、正体不明の物体が混ざり合った残骸だけが床に残った。


 俺はその前にすでに横へ跳んでいた。右手にわずかな痛みを感じる。さきほど吸収したsalv2の権能に伴う感覚だ。


 剣を通して権核を直接吸収できるが、その際、柄から伝わる熱と軽い痛みを感じる。これまでにsalv1を大量に吸収してきたおかげで、ある程度は慣れていた。


 だがsalv2は初めてだった。権核に触れた瞬間、柄から伝わる感覚は明確な痛みに達し、思わず反射的に手放しそうになったほどだ。


 左肩に担いでいた夙さんを下ろし、両手で剣を握って急いで権能を吸収する。さきほどの一撃で大半を消耗してしまった。万一に備え、今のうちに補充しておく必要がある。


「やっぱり、saliveを吸収すれば少しずつ能力が上がってるみたいだな……」


 俺は独り言のように呟く。以前のテストではsalv2にも挑んだが、当時の攻撃では防御を破れなかった。だが今は、salv1を十数体吸収した後の全力の一撃で、諸懐クラスのsalv2なら容易く消滅させられる。


「あの……レイアさん、ですか?」


 助けた相手がようやく落ち着き、恐る恐る声をかけてきた。


 彼女が呼んだ「レイア」は、以前氷宮詩玖ひみや しぐたちに送られてきた際、星月蓮が登録した俺の名前だ。そして「やせき」と呼ぶのは舞と、舞と関わりのある一部の人間だけ。


 視線を向けると、見覚えのある若い女性だった。以前の検査で何度か顔を合わせたことはあるが、言葉は交わしていない。今は破れた服に血が付着し、名札にはかろうじて「時枚楓」と読める文字が見える。そばには腹を貫かれた人物が倒れており、すでに息はなかった。


 撤退中に諸懐に襲われ、この部屋へ逃げ込んだのだろう。


「はい。大きな怪我はありませんか?」


 権能の吸収を終えた俺は、すぐに彼女のもとへ向かい、怪我の有無を確認する。


「大丈夫です。襲われたとき、川……が、私の代わりに受け止めてくれて……」


 瑠璃は隣に倒れている人を指さした。


 俺と同じ状況か。だが今は立ち止まって悲しんでいる余裕はない。saliveに包囲されないためにも、早く脱出しなければならない。


「出口の場所はわかりますよね。案内をお願いします。一緒に出ましょう」


「……はい」


 時枚は迷わなかった。倒れた人物を最後に一瞥すると立ち上がる。俺も夙さんを担ぎ、後に続いた。


 廊下を進む途中、至るところに倒れた機関職員の遺体がある。すべてsaliveによるものだ。奴らは死体を食うことも破壊することもない。ただ遭遇した人間を攻撃し、命が尽きるまで止まらない。


「次の角を右に曲がれば出口です」


 背後からの指示に、俺は歩みを速めた。


 salv2を吸収したことで身体能力はさらに向上している。基地で捕獲されていたのもせいぜい数体のsalv2程度だ。諸懐を倒して以降は遭遇していない。片手しか使えない状況でも、危なげなく対処できていた。


「ドン!」


 激しい音とともに、目の前の壁が崩れ落ちる。粉塵が晴れると、三つの巨体が廊下を埋め尽くしていた――諸懐だ。


「ちっ……」


 同時に三体か。全力でも安定して勝てるとは言い切れない。廊下を利用して一体ずつ処理することは可能だが、その間に後ろの時枚が危険に晒される。後退しても、二人を同時に連れて逃げ切るのは不可能だ。


 あるいは、夙さんを置いて時枚だけ連れて逃げるか。


 だがそんな選択肢は考えたくない。夙さんを時枚に託し、剣を構えて戦闘態勢を取る。


「レイアさん……」


 腕の中で徐々に冷えていく体を感じながら、時枚がためらいがちに声をかける。


「わかってます。でも、彼女を連れて隠れてください」


 言い終えるより早く、俺は諸懐へと突進する。命を落とす可能性があろうと、奴らをこの先へ通すわけにはいかない。


「オオオォッ!」


 天地を震わせる咆哮とともに、奴らも突進してくる。巨体同士が廊下でぶつかり合い、両側の壁が激しく震えた。


「ふざけるな! 誰があいつに手を出していいって言った!」


 激突寸前、聞き覚えのある声が響く。次の瞬間、見えない風の壁に弾き飛ばされた。


 諸懐たちの巨体が凄まじい運動量でその風壁に衝突しても、まったく前へ進めない。


 やがて三体は何かに押し潰されるように変形し、互いの距離がどんどん縮まっていく。


「グォ……」


 咆哮は次第に弱まり、やがて約二メートル四方の立方体へと圧縮された。


「ヒュン!」


 風刃が一閃。立方体は真っ二つに裂かれ、かろうじて原形を留めていた体は瞬時に粉末へと変わる。中から三つの青い権核が転がり落ちた。


「ごめん、遅くなった、やせき!」


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