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15 私が渇しているものは何なのか

「ドン。」


 私は体を何度も地面に打ちつけながら転がり続け、この果てしない衝撃を相殺していた。何回転したのか分からない頃、ようやく止まった。


 地面に横たわり、体を襲う激痛で息もできない。視界は真紅に染まり、手にしていた剣もどこへ飛ばされたのか分からない。


 近づいてくる低い唸り声を感じながら、思わず苦笑する。私はまた同じ循環に陥っているのだろうか。どうして歴史はいつもこんなにも似ているのか。


「ドン!ドン!」


 自分の死を静かに待とうとしたその時、何度も轟音が響いた。


 私は意識をすべて呼吸に集中させ、体の激痛を押さえ込みながら、必死に顔を上げて音の方を見る。夙さんだ。彼女は逃げていなかった。自分の拳銃を構え、貅へ向けて撃っている。


 銃撃を受けた貅は、脅威を失った私から目標を変え、素早く夙さんへと突進する。


「早く……逃げ……」


 だが声は喉から出なかった。


「あなたは絶対に生きて!」


 迫り来る貅に対し、夙さんは逃げるどころか、私がどこへ落としたのか分からない剣をこちらへ投げてきた。何度かぶつかりながら滑り、私のそばまで届く。


 それでも夙さんはその場を動かず、貅へ向けて撃ち続けていた。


 次の瞬間、貅の鋭い牙が夙さんの体を貫いた。


「夙!」


 どこから出たのか分からない力で体を起こし、そばの剣を掴む。刃から淡い温もりが伝わってきた。


 無理やり立ち上がり、背を向けている貅へと突進する。私の動きを感じ取った貅が振り向いた。


 その動きでちょうど腹部ががら空きになる。今度は何の狂いもなかった。私の剣はその身を貫き、核心へと突き刺さる。


 灼けつくような熱流が剣から流れ込み、全身を巡って傷を修復していく。そして貅の巨体は轟音とともに崩れ落ち、口に咥えられていた夙さんも地面へ落ちた。


「夙。」


 私は急いで彼女を受け止める。彼女の体からは血が噴水のように溢れ出し、どれだけ押さえても止められない。


「大丈夫、夙さんは絶対大丈夫だから。ほら、この剣を持って。さっき私はこれで治ったんだ。だから少しだけ耐えて。医療班を見つければきっと助かる。」


 焦りながら剣を握らせ、私は彼女を抱き上げて走り出す。


「む……無駄……この剣は……あなただけ……医療も……もう、間に合わない……」


「夙、諦めないで。きっと方法はある。」


「やせきさん……聞いて……」


 夙さんは左手で剣を抱き、右手で私の頬に触れた。


「初めて……あなたに会った時……もう……好きになってた……話しかけたくて……でも、警告されたの……これ以上……あなたと話したら……私を外すって……」


 彼女の息はどんどん弱くなっていく。それでも言葉を紡ぎ続ける。


「怖かった……もう会えなくなるのが……だから……ずっと避けてた……ごめんね……でも雛原部長は……気にしなかったから……それで、また話せるように……なった……結果なんて……ないって……分かってた……でも、あなたと話すだけで……すごく、嬉しかった……」


「本当は……ずっと胸にしまうつもりだった……この想い……でも今は……伝えたい……理由は……分からないけど……好き……なの……」


 息は今にも途切れそうなのに、それでも告白を続ける。


「うん、分かった。だからしっかりして。絶対に助ける。」


 そう言って慰めながらも、私は分かっていた。可能性はほとんどない。出口がどこかも分からず、こんなふうに走り回っていては間に合わない。今の状態では戦うこともできない。Saliveに出会えば終わりだ。


「ゴォン!」


 まるで私の思考に応じるかのように、一体のSaliveが目の前に立ちはだかる。振り向くと、いつの間にか背後にももう一体。


「ちっ。」


 周囲を見回し、突破口を探そうとしたその時。


「パンッ!」


 銃声が響いた。だが救援ではない。音の発生源は私の腕の中だった。


「夙……」


 夙は銃口を顎の下から自分の頭へ向けていた。口元には変わらず幸福そうな微笑み。


 その瞬間、自分がどんな気持ちなのか分からなかった。他の誰に対してもそうだったように、私は夙に対して特別な感情を抱いていなかった。


 他人との向き合い方なんて分からない。今までずっと、私は誰かの指示に従って動いてきただけだ。


 どうして夙がこんなにも穏やかに死を選べたのか、私には分からない。でもきっと、相当な覚悟があったはずだ。夙も他の人と同じように死を恐れていたのだから。


「好き」という感情が何なのかも分からない。だが、夙にそこまでの決意を抱かせたものが、私が軽く口にできるようなものではないことだけは分かる。


 私は夙を地面に下ろし、彼女の抱いていた剣を握る。吸収された権能が再び全身を巡る。


 好きというものをどう扱えばいいのか分からない。どうしてあれほど生きたがっていた人が、生きる意味もない私のために死ななければならなかったのかも分からない。そして——なぜ私は、こんなことが起きてほしくないと今思っているのかも。


 どうして、どうしてこんなことになる。何が私の望むことで、何が望まないことなのか。そして、それを分けているものは何なのか。


 どうして……どうして……


 そのすべての答えを求める前に、私の世界はすでに崩壊へと向かい始めていた。


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