第十三話 狐に
「キミツキ」
こちらを振り返った彼と目が合う。
藤紫の左目、花紺青の右目、髪は白と紺桔梗が入り混じり、後ろ髪の長さもバラバラ。でも彼と分かる。
「会いたかった」
「っこっちに来るな」
今までになく強い口調で僕を拒絶した彼は立ち上がり後退る。けれどそのまま逃げられたくなくて僕は踏み込んだ。
「なんでそんなこと言うんだよ。僕は君がいなくてずっと寂しか――」
――バッ!
と、手を伸ばしたら掴まれた。右腕の中頃を、何か大きすぎるくらいのモノに。
あれ?
見下ろされて気付いた。彼、こんなに大きかったっけ。二メートルと少しはありそうなくらいの……。
「どうして来た」
額に一対の角が見える。
「会いたかったから」
「どうしてそんなことを言うんだ。私は、君に会ってはいけな……っ」
キミツキは僕から手を離したかと思うと両手で自分の頭を抱える。
「どうして? キミツキは僕のことを好きでしょ? 僕もキミツキが好きだよ。知ってるでしょ? だから、こっちを向いて」
「無理だ、出来ない。頼むから今すぐ、帰――」
「嫌だよ。僕はキミツキと一緒にいたい。ずっと一緒にいるって昔言ったじゃないか」
「それは……っ私が悪かった。だから頼む、早く逃げてくれ」
顔を腕で覆い隠して後退る彼。僕はその腕を掴んだ。
「嫌だ。一緒にいる。一緒にいよう? キミツキ」
暫くして彼の腕が下りて、そこにはぼろぼろと涙を流す顔が見えた。
「どうして、なつきはそんなことを……。っどうして、狐はこんな酷い――」
見ていたキミツキの姿が変わる。僕は両手を広げた。
目の前にいるのは、『キミ』。
いいよ、あげる。ボクのゼンブをキミに。
「あ……ぁああ、駄目だ、ダメだナツキ、ワタシは……っ」
もうそこにいるのは『彼』じゃない。鬼と人、狐との中途半端な姿でもない。
大きな狐の顔が落ちてくる。ボクは見上げ、そのままゆっくりと目を閉じた。




