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110.ダンジョンコア

 私が《聖者の救済エル・リインカルナ》を放つと、黒騎士の体は光に包まれて──。

 次の瞬間には、跡形もなくきれいさっぱり消滅していました。


 おぉぉ……初めて使いましたが、なんとか成功したみたいですね。黒騎士は輪廻の輪の中に飲み込まれていきました。


「お、お嬢様、その力は……」

「ヤバすぎリュ! 近づきたくないリュ!」

「お願いしますお嬢様、怒らないでください……たまにオモチャにしていたことを、許してください……」


 しれっとネビュラちゃんが気になることを言ってますが、今度じっくり問い詰めましょうかね。あ、大切な素体あなたたちを輪廻させたりしないので、その点はご安心ください。


 それにしても、さすがはエルマーリヤの固有魔法《聖者の救済エル・リインカルナ》ですね。ごっそり魔力が持っていかれてしまいましたよ。

 こんなものを簡単に発動しているエルマーリヤは、やはりとんでもない存在ですね。


 ──コトン。

 黒騎士がいた場所に、小さなカードが落ちます。どうやらアイテムカードをドロップしたみたいです。

 拾って確認してみると、カードに描かれていたのは──指輪?


「おお、これは……」


 なんと私が探していた、『万魔殿パンデモニウム』に至る最後の鍵となる指輪ではありませんか!

 まさかダンジョンボスのドロップカードで出現するとは……何という幸運。これも日頃の行いの良さなのでしょうか。最高の宝物をゲットできました。


 鍵をコンプリートした喜びをかみしめたいところですが、それよりも今は──ダンジョンコアです。

 ダンジョンボスを倒したとはいえ、コアはいまだに禍々しい魔力を放ちながら健在です。このまま放置しているとまたモンスターを復活させそうですからね。


「この黒い魔力は──」


 近づいてみると、はっきりとわかりました。

 どうやらダンジョンコアも悪魔の力によって汚染されているようです。私の《鑑定眼》にも【悪魔に汚染】と明記されていますし。

 さきほどの黒騎士といい、いったいどうなっているのでしょうか。


 ダンジョンが凶悪化した原因は、この〝悪魔化″が原因と断定して良いでしょう。

 ただ私には、黒騎士とダンジョンコアの悪魔化が、偶然の産物とは思えません。

 なぜなら──これまで一度も『暴走スタンピード』や『モンスターの悪魔化』といった現象を、私が見聞きしたことがなかったからです。

 ウルティマに教えられていなければ、何が起こっていたのかさえ分からなかったでしょう。


 偶然でないとしたならば、この現象スタンピード人為的に・・・・起こされた・・・・・、ということになります。

 もしダンジョンコアが何者かの手によって、悪魔化されたとしたら……。


 ……ただ、いくら考えても答えは出ません。

 仮説はいくらでも立てられますが、根拠がない今では考えるだけ無駄です。

 それよりもまず、悪魔化したダンジョンコアをどうにかするほうが先決ですからね。


 幸いにも、私は悪魔を撃退する力を持っています。

 ──《浄化の左手》を差し伸べて、ダンジョンコアにまとわりついた悪魔の力を浄化していきます。

 すると──。


「あっ、ダンジョンが!」


 突然、私たちの背後に壁ができて、エーデルたちが居る場所と完全に隔離されてしまいました。

 なるほど、ダンジョンコアは正常に戻るとこうやって隠し部屋ができるのですね。


 おそらく通常のダンジョンでは、このような形でコアが隔離されているのでしょう。だから──これまでコアが見つからなかったのではないでしょうか。


 しかし、壁に囲まれたダンジョンコアの隠し部屋に到達することなど、はたして普通の人間に出来るのでしょうか。

 壁を抜ける能力を持つもの──それこそ次元門ゲートを造ることができる力を持つものであれば、あるいは……。


 様々な思考をしながらも私の左手で浄化を続けていると、やがて──ダンジョンコアは黒い魔力を発するのをやめ、小さな宝石のような大きさになりました。どうやら悪魔の浄化がうまくいったようですね。

 ですが、感じられる魔力が弱まったわけではありません。むしろ研ぎ澄まされた感さえあります。


 さらに私が《浄化の左手》で触り続けると──ほおぉ、なるほど……これは実に興味深いですね。どうやらダンジョンを自由に作り替えることができるようです。


「お嬢様、なにをなさっているのです?」

「ダンジョンを操作しています」

「えっ!? お嬢様はダンジョンマスターになられたのですか!?」


 ダンジョンマスター……なのですかね?

 よくわかりませんが、とりあえず操作を続けて、と。


「全員ダンジョンの外に排出しましたわ。このダンジョンは、まもなく消滅しますからね」

「えっ?!」


 ──なにせ私がコアを〝喰う″のですから。


 おそらく私がダンジョンコアを食べると、このダンジョンは消滅してしまうでしょう。

 消滅に巻き込まれて、私の大切な素体たちが失われてしまっては目も当てられませんからね。


「あなたたちも排出しますわね。先に出て、待っていてください」

「ちょ、お嬢様?! それは──」


 私がさらにダンジョンコアを操作すると、目の前に小型のゲートが出現して──ウルフェ達三人が吸い込まれていきました。おお、まるで師匠やエルマーリヤのようではありませんか。

 さすがはダンジョンコア、このようにしてゲートを作ることができるとは……実に素晴らしいです。



 誰もいなくなった部屋で、私はダンジョンコアを見つめながらふぅと大きく息を漏らします。


 それにしても、何なのでしょうか──この違和感は。


 私のこの左手は、悪魔を浄化する力を持っています。

 逆に言えば、悪魔化したダンジョンコアを元に戻せるのは、私くらいしかいないでしょう。


 私は偶然、サンナミにいました。

 そして、サンナミにもっとも近接したダンジョンで、暴走スタンピードが発生しました。


 まるで、私が来ることが分かっていたかのように──。


 私にはこの一連の流れがどうも偶然とは思えないのです。

 何かに導かれるような、もしくは何者かの掌で踊らされているような──不自然な〝意図″のようなものさえ感じます。


 もしこれが、何者かの手によるのであれば……。

 恐らくその存在は、悪魔を自在に操る力と、壁すらも抜けるゲートを作る力を持っていると推測されます。


 私が知る限り、ゲートを作るほどの力を持つものは、エルマーリヤと師匠の二人だけしか知りません。

 ……もし、他にいるとするならば──。

 その存在は、おそらくは師匠たちと同等か、それ以上の力を持つものたちなのではないでしょうか。



 ……ですが、そんなことはあとで考えましょう。

 まずはダンジョンコアを喰うことが先決です。

 これほどの魔力の塊、はたしてどのようにして食べればよいのでしょうか?



 まぁ、考えても仕方ありませんので、とりあえず口に含んでみます。

 舌で転がしてみると……まるで飴玉を舐めてるようですね。全く味はしませんが。



 すると──。


「あれ? 溶けました?」


 口の中で転がしていたコアが、不意に消失しました。

 間違って飲み込んでしまったのでしょうか?



 ──いいえ、違いました。




 ぶわあああぁああぁつ!!


 ものすごい魔力が、内側からあふれてきます。


 な、なんということでしょうか!?



 こ、これは──!!



 私は自分の内側から、猛烈な魔力が湧き上がってくるのを感じます。

 すごいです、凄すぎます……まるで無限なる魔力の泉が、私の中に突如湧き出したかのように──。


 あぁ、これが──〝ダンジョンコアを喰う″ということなのですね。



 ──今ならば分かります。

 これは、到底普通の人が到達できる場所ではありません。


 こんなもの──人とは呼べません。

 ですが私はダンジョンコアを喰うことで、ようやく──師匠やエルマーリヤと同じ土台に立つことができたのです。


 なんという素晴らしさ。

 なんという開放感。


 私は湧き上がる膨大な魔力に、暫し酔いしれます。



 ──思えば、この時の私は少し浮かれていたのかもしれません。

 魔が差した、とでも言うのでしょうか。


 力を手に入れた途端、ある考えが私の頭に浮かんできました。それは──。



『これだけの力があれば──今の私にも、死霊術が使えるのではないか?』



 幸いにも、『万魔殿パンデモニウム』の鍵は全て手に入りました。

 黒い魔力に切り替える術も、師匠に体感させてもらい、なんとなく出来そうです。


 今の私ならば──相反する死霊術の力も、上手く使いこなせるのではないでしょうか。



 そう思ったら、いてもたってもいられません。

 とてつもなく魅力的な誘惑に、私は抗うことができませんでした。


 私は次元指輪から五つの鍵を取り出すと、全部指に嵌め──死霊術の根源たる黒い魔力を呼び起こします。




 ですが──。









 次の瞬間。




 私の意識は──。







 ──ぶつん──。




 という音と共に──。


 完全に消失したのでした。





これにてエピソード14はおしまいです。



続きまして、人物紹介を挟んでエピソード15『黒百合編』となります!



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― 新着の感想 ―
[一言] みにくいアヒルの仔は目覚めた時に己が美しく優美な白鳥だったと知りました。 限りなく美しく希望の星であるユリィシアは、目覚めるとパンクなケバいネーチャンだったのです。ウソー! 「シモベたちよ…
[気になる点] 本当に食べるとは( *´艸`) 予想外の妄想し予測。 「祝福を受けし癒しの乙女、魔を極めし夢幻の乙女」はユリィシア一人の事を示したりしていたりして [一言] 黒百合の章を楽しみにしてい…
[一言] せっかく増やしたのがパーだなんてやめてくださいよ!?
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