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友達ごっこ  作者:
8/9

過去から未来へ

 キーンコーンカーンコーン


 放課後を知らせるチャイムが鳴り、クラスのやつらも部活へ行く準備や、帰る準備をしている。

 私は早々と教室をあとにし、家への道を歩いた。

 あんな学校、長居する必要なんてない。学級委員の仕事もすべて片付けたし、今日の遊びも終わったし。今日はさっさと家に帰って、はやく寝たい。今日はなぜかものすごく眠い。


 「愛ちゃん!」


 後ろから、私を呼ぶ声がした。

 この呼び方からして、誰かなんてすぐにわかるが、私は変に思われたくなかったため、後ろに振り返った。


 「どうしたの? 桜宮さん」


 走ってきたのか、息が切れている。


 「ちょっと話があるんだけど、いい?」


 彼女は呼吸を整え、落ち着いた感じでそう言った。


 「うん。いいよ」


 私たちは、近くにあった小さな公園へと向かった。

 あそこなら、静かで話しやすいだろう。


 「話って何?」


 わざわざ走ってきたのだから、それなりに重要な話なのだろう。


 「今朝、私の机に書かれていた落書き、あれ書いたの愛ちゃんでしょ?」


 もう気付いていたのか。

 まぁ、あの朝の笑みで、私がやったと思っているということは予想していたがな。


 「よくわかったわね。そうよ、あれをやったのは私。どこで気付いたの?」


 どうせ気付かれることだし、言っても別に問題ないだろう。それに、言ったほうがスリルがあって面白い。


 「今朝、愛ちゃんが教室から出てきたのを見かけたから。私ん机には落書きがあったし、愛ちゃんかなって」


 見られていたのか。

 道理で消えるのがはやかったわけだ。


 「見てたの。で、どうするの? このことを先生やクラスの人間に言うの?」


 言うんだったら、ここで恐怖を味あわせるだけだ。


 「言わないよ。こんなことしてるのには理由があるんでしょ? どうしてこんなことをしているの?」


 言わないだと? この女、何が目的だ。


 「何が目的? あなたを利用したのよ? なのに、どうして何も言わないの?」


 目的があるとしか考えられない。


 「質問してるのこっちなんだけどな。愛ちゃんの裏の顔を言ったって、どうせほとんどの子が信じてくれない。それどころか、私が悪者のように思われてしまう。それが、今まで愛ちゃんと積み上げてきたもの。だから、愛ちゃんの裏の顔を行ったところで、私の利益にはならない。ただそれだけ。それに、愛ちゃんが私を利用していようとしてなかろうと、私は愛ちゃんを信じる。絶対に裏切らない。愛ちゃんは私の友達で、私の憧れだから。で、理由は?」


 そんなの、奇麗事に決まってる。


 「理由? そんなの決まってるじゃない。あなたがあのことを知っていたから。ただそれだけ。私はあいつらに復讐するの。あの日のことを言わなければ、こんなことにはならなかったのにね。まぁ、あなたが私を裏切ろうと、私は傷ついたりなんかしない。だって、あんたのことなんか、友達なんて思ってないもの」


 私に友達なんて必要ない。そんなもの、邪魔になるだけだ。


 「復讐からは、憎しみしか生まれない。私ね、愛ちゃんがいじめられてたって知ってたんだ。知らないって嘘ついたの」


 嘘? なんでそんなことをする必要がある。

 それに知っていたなら、同情したりすればいいじゃないか。


 「なぜそんなことをする必要がある。あんたに何か利益でもあるの?」


 いつもこいつは笑っていた。まるで不幸を寄せ付けないために、そんなふうに笑っていた。


 「愛ちゃんが、昔と同じように学級委員をやってたから。昔と全然変わってない。それを見て、少し安心した。昔の愛ちゃんだって」


 変わってない? 確かに表は変わってないかもしれない。でも、裏は変わった。


 「でも、心のほうは変わってた。少しでも衝撃を与えたら、すぐに壊れてしまいそうなくらい、心はボロボロだった」


 心が、ボロボロ?


 「なんで、そんなことがわかるのよ」


 「だって愛ちゃん、いつも悲しそうな、さびしい目をしていたから」


 悲しそうな、さびしい目? 私が、そんな目をしているわけがない。


 「そんなわけない。私は悲しくもないし、さみしくもない」


 私はもう、誰かに心を開くことをやめたんだ。


 「なら、どうして泣いてるの?」


 泣いている?

 私は無意識に、自分の頬に触れた。

 濡れてる?


 「本当は、助けてほしかったんじゃないの? 誰かのぬくもりを感じたかったんじゃないの? あたたかさを、求めていたんじゃないの?」


 あたたかさ……。


 「私が、あなたのそばにいる。あなたを支えるから。もう、こんな遊びはやめにしよう」


 桜宮さんは、そう言いながら、私を抱きしめてくれた。

 あったかい。すごく、あったかいや。

 そう思ったとき、私の目から涙が溢れた。今までの悲しみをすべて洗い流すかのように。


 「ありがとう」


 これからは、過去にとらわれるのではなく、未来に向かって、一歩ずつ、歩んでいこう。

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