↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/16

16話

名前も知らない世界。


その星へ向かって、守護者の身体は流星のように落ちていく。


燃え上がる大気。


身体を包み込む灼熱。


耳を裂く轟音。


風が全身を引き裂くように吹き荒れた。


(寒い… 苦しい… 私は…)


意識は闇へと沈んでいった。


…


…


…


「ん…」


微かに瞼が震える。


ゆっくりと目を開いた瞬間、眩しい光が視界へ飛び込んできた。


「…ここは?」


見上げた空は青かった。


どこまでも澄み渡る青空。


昨日まで見上げていた、星々が無数に輝く宇宙ではない。


柔らかな風が頬を撫でる。


鳥のさえずり。


木々の揺れる音。


そして――


ブォォォォン…


聞いたこともない轟音。


守護者はゆっくり身体を起こした。


「……」


周囲を見渡す。


そこには見たこともない建物が並んでいた。


石でできた神殿ではない。


木造の集落でもない。


巨大な建物が何本も空へ向かって伸びている。


ガラスに覆われた壁。


輝く看板。


色鮮やかな文字。


(知らない… 全部… 初めて見ること…)


彼女は恐る恐る立ち上がる。


足元には黒い硬い地面。


踏みしめる感触も、今までとはまるで違っていた。


その時だった。


「危ない!」


ブレーキ音が響く。


キィィィィィッ!!


銀色の鉄の塊が目の前で止まる。


運転席から男が顔を出した。


「危ないだろう!!!!ちゃんと前見ろよ!」


守護者は言葉を理解できず、小さく首を傾げた。


男は舌打ちすると、そのまま走り去っていく。


ブォォォォン…


(今のは…何?)


視線を追う。


鉄の塊は音を立てながら道を走り続けていた。


人々は誰一人驚かない。


当たり前のように歩き、当たり前のように笑い、当たり前のようにその鉄の塊へ乗り込んでいく。


(ここは… どこ…?)


守護者は人混みの中へ歩き始めた。


どこを見ても人間ばかりだった。


肩がぶつかる。


「すみません」


誰かがそう言って通り過ぎる。


今度は反対側からぶつかる。


「ごめん」


皆忙しそうだった。


誰も彼女を見ようとはしない。


「私は…」


胸へ手を当てる。


心臓は動いている。


でも――


「私は誰…?」


何も思い出せない。


名前、記憶、家族、仲間、何一つ…


頭の中は真っ白だった。


(何も… ない… どうして…)


頭を押さえる。


思い出そうとするたび、


胸の奥だけが締め付けられる。


まるで何か大切なものを失ったような。


でも、その"何か"すら分からない。


「…」


涙だけが自然と零れ落ちた。


どうして泣いているのか。


それすら分からなかった。


どれほど歩いただろう。


高い建物は少しずつ姿を消し、


やがて静かな森へ辿り着く。


そこには小さな神社が建っていた。


赤い鳥居。


石段。


揺れる木漏れ日。


街とは違う静けさが辺りを包んでいる。


「はぁ…」


守護者は石段へ腰を下ろした。


疲れていた。


身体ではない。


心が。


「思い出せない… 私は…誰?」


その小さな呟きは風に消えていく。


その時――


ザッ……


誰かの足音が聞こえた。


守護者は反射的に立ち上がる。


慌てて辺りを見回す。


(隠れなきゃ…)


そう思っても、隠れる場所はどこにもなかった。


鳥居の向こうから、一人の少年が歩いてくる。


制服姿。


肩へ鞄を掛け、辺りを見回しながら何かを探していた。


「確か、この辺だったよな…」


少年は空を見上げながら小さく呟く。


「星がたくさん落ちたってニュースで見たし」


そして視線が守護者と重なる。


「…あ」


「!」


しばらく沈黙が流れた。


少年は少し困ったように笑う。


「えっと… 君ー この辺で星、見なかった?結構いっぱい落ちたって聞いたんだけど」


守護者は何も答えられない。


ただ、目の前の少年を見つめるだけだった。


(この人は… 誰…?)


少年もまた首を傾げる。


「大丈夫?迷子?」


その何気ない一言が、二人の運命を静かに動かし始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。