二、知ってるよ 4
静寂が心地悪い。情報を入れたくないけど、何か情報を入れなきゃ私が私でなくなるような気分がする。
「李月くん、何か喋って……」
ベンチに足を乗せて、膝に顎を乗せる。
寒いな……
吐く息が白い。
いったい何時を回ってしまっているんだろうか。
李月くんは何も喋ってくれない。ただ黙って横に座っている。
時間がやけに遅く感じる。
「喋ってよ……」
もう一度急かすと、李月くんはポケットから何かを取り出した。
「なんかの一週間記念」
そう言って渡されたのは玉薬をくるんでいたハンカチだった。
「何それ」
静かに微笑む李月くんを横目に、受け取ったハンカチをポケットにしまった。李月くんの体温で僅かに温かい。でもすぐに外の冷気に冷やされた。
「なんで来たの」
黙った李月くんの様子をまた横目で確認しようとしたけど、横髪が邪魔でよく見えなかった。
少し背中を後ろに持っていくと、李月くんは喋りだした。
「……お得意の心読み、今は上手く使えないみたいだね」
「……うん」
「色々と聞きたいことがあったからだよ。でも来るってことは分かってたんじゃないの?」
「そこそこ……」
正直来ると思ってなかったけどね……
確かに私は意味もなく、あのハンカチを道に落としたわけじゃない。
一つは佐江月くんに飲んでいないと気づかれないため、もう一つは李月くんの言う通り、李月くんが来る可能性を考慮したから。
私は、佐江月くんを介抱しているあの中の一人にしか助けを求めてはいない。
助けと言っても、少し身の危険を感じたから手っ取り早く、連絡のできる男の人を探していたらちょうど一番上にいただけなんだけど、李月くんの友達だってことは李月くんを連れてきたさっきまで忘れていた。
だから、正直に言うと李月くんが来ることはあまり予想していなかった。
李月くんが来るという確信を持っていなかったからこそ、どんな言葉を喋ろうか迷う。できるなら李月くんから喋ってほしい。
はぁ……
一度、色んな感情を息に乗せて吐いてから喋ることに決めた。
李月くんの聞きたいことは、大方「降られた理由」だろう。
「あの時は、私もちょっと言いすぎたかな。別に、あなたをそこまで苦しめようとは思ってなかったの。ただ……ああ思っただけだった」
「そう……」
頭が上手く働かない。
今日は疲れた。できればまた今度にしてもらいたいけど、李月くんとまた合う口実になってしまうから嫌だ。
「男の人って欲望にしか目がいってないの?」
「そんなことないと思うけど……」
「そうだね……李月くんはそんなことはなかったね」
「う、うん……」
李月くんはどこか嬉しそうな表情を浮かべた。それが少し私の吐いていった苛立ちを復元させた。
ふんっ……
「あなた、本当にキスで終わらせるつもりだったんだね」
佐江月くんの疲れと、色々とでいたずらに少し大きめな声で喋ると、李月くんは慌てた顔を浮かべた。
「あいつらがいる前で大きな声でそんなこと言うなよ」
「でも、話しをしたいって近づいてきたのは李月くんでしょ? しかもあんなけ無視したんだから、ちょっとくらいは許してよ」
今の私は何でも言ってしまいそうだ。
「それは……そうだね」
何も言えない様子で、口を閉ざした。その様子を見れて、私は苛立ちが収まった。
「君は本当に何も悪くないよ……」
「そう……」
李月くんは頭を下げた。
「もう一度言う。君の気持ちも考えないで、本当にごめん」
「いいよ。もう……」
これであらかたの話はできただろうか。納得してくれただろうか。
はぁ……
「私、苦渋の判断で別れたんだからね。それ分かってる?」
「分かってる。ごめん……」
あなたは何も分かってないよ……
「じゃあ、あそこの佐江月くんにも話しをしてあげて。完全に別れるから」
「分かった。今までごめんな……」
「……ううん。気をつけて帰ってね。遠いでしょ」
「うん。香澄もな」
そうして私は家に帰った。
あのあと、李月くんがどんな説明をしたのかは知らない。けど、これで良かった。
私はとにかく二人には落ち着いていてほしかった。ただそれだけ。
李月くんは、多分それの意味について、一つは気づいてくれたんだと思う。
「らしくない」 それは言葉通りの意味で、別に他意はない。そう思ってしまったから、言葉に出しただけ。
細かく言うとそれ以外もあるけど、まだ答え合わせはしない。それ以外のものは、続くのが辛かった。らしくないという言葉にも繋がるけど、らしくないとはまた違う気もする。
多分私は普通の人とちょっと違う。
普通ならそうなって当たり前だったり、それを楽しんだり、その思いが重なるからこその愛があるんだと思う。
でも、度がすぎているように感じたり、李月くんは違ったけど、佐江月くんのようにその後しか考えていない人が一定数いる。それを私はできるだけ排除したい。
俗に言う、学生恋愛というやつなんだろうか。それを毛嫌いしているような人だ。私という人間は。
私は先を見据えた恋をしたい。だから静かで囁く恋をしたかったんだ。
李月くんは合っていなかったのかもしれない。けど、一つ言えることとしたら佐江月くんと比べると、李月くんはやっぱり雲泥の差ほど私に合っていた。
だからもう会いたくない。会い続けてしまったら、きっと私はその時にまた求めてしまうから。
でも、今日李月くんに会って、きっとこれは始まりにすぎないんだと感じた。
多分、あなたとの話はまだ続いていくんだと思う。全ての答え合わせはまだ出来ていないし、〝私が〟咄嗟に、あなたの手を取ってしまったから。
あの状況下でも私を助けに来るなんて、
――本当にりつらしいね
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