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生命線上に独白の告発を  作者: 為世 斐文


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第22話「乖離点2」

 次の日、私は智花に呼ばれて放課後に学校に残った。

 今日は〝稲吹くん〟は来るんだろうか。

 その不安だけが頭でずっとループして、元気が出ない。今日は授業の内容もあまり頭に入ってこなかった。

 こんな調子で大丈夫かな、私……

「あ、香澄。もうそろ学校着くって」

「分かった」

 智花は笑っている。だから私も楽しい。

 いつもならそのはずなのに、心がずっと疲れている。

「智花、今日ってさ……」

「うん」

 稲吹くんの事をなんて呼ぼうか。

 私はりつとはもう呼べない。でも、いきなり私が稲吹くんだなんて言ったら智花は何かに気づいてしまう。

 そうなれば私はまた甘えてしまって、自己嫌悪に陥っては後悔を積もらせるだけ。

 言えないな……

「前の映画館と同じ場所?」

「ん? そうだよ。どうかしたの?」

「ううん。ちょっと今日は家に帰る時間が限られてて」

「え、それは先に言ってよー」

「ごめんごめん」

 こんな嘘しか吐けなかった。


 しばらくして学校に古江さんたちがやってきた。

「おいっすー」

「やっほー」

 そこに稲吹君の姿は見当たらなかった。

 ほっと胸を撫でおろす私に最悪な一言が聞こえた。

「李月はコンビニ寄ってから来るってさ」

「おっけー」

 全く「おっけー」じゃないよ……

 静かに智花に近寄って肩を叩いた。

「話違うよ」

「ごめん。ばれちゃったんだ……」

「いや、みんな居たからばらしたんじゃないの……?」

 そういうと、智花はてへっと笑った。

 初めて智花に嫌悪感を抱いた。

 打ち明けてしまった方がいいだろうか。

 でも、打ち明けたら私は私でなくなる。

「話が……違う」

 小さくつぶやいたその言葉が、私にとって精一杯の拒絶サインだった。

 智花はそれをただの独白だと思ったのだろうか、それとも聞こえなかったのだろうか、古江さんの方へ行ってアニメについて話し始めてしまった。

 ここで勝手に抜け出すのは流石に感じが悪い。

 もういいや……

 私は昔のように、心を閉ざした。

 何も見ない。何も聞かない。何も喋らない。

 こうすることで私の心が守られるから。何も言わなかったら、みんなが幸せだから。


 ――だから私は、孤独でいい


「玉乃さん」

 完全に心を閉ざす直前だった。

 後ろから稲吹くんが肩を叩いてきた。

 あ……まずい

 稲吹くんは何も考えていないかのような、あのすまし顔を浮かべている。

「これ食べる? ちょっと多かったから、ポップコーンも食べたいし」

 そう言ってコンビニ特有の唐揚げを渡してきた。

 話してしまえば、私は終わる。言葉を喋れば、みんなが不満になる。

 息を多く吸って、下唇を噛みながら、私は稲吹くんの横を見て喋った。

「お腹いっぱいだからいいよ」

「あ、そう?」

 そう。もうお腹いっぱいだ。

 こんなに苦しいのはお腹いっぱい。

 そのあとは、あまり話すこともなく映画館についた。

「智花……流石に、隣に居てほしい」

 智花にそういうと、智花は「んー……」とうなりながら渋々頷いた。

 多分、色々とばれただろう。

 やっぱり子供三人衆にはなっていたけど、途中でこちらを見る素振りがあった。

「香澄さ……稲吹くんと、話さないの?」

 質問に困る。

「あー……結構、普通に迷惑してそうだよね。ごめんね」

 そういう智花に許す寛大な心と、絶対に許したくないという心が両立した。

 何も言いたくない。喋るとどちらに転んでも、誰かが傷ついてしまう。

「香澄……ごめん。ごめんね」

 智花はそっと私の手を取った。

「もう、ずっと隣居ていいから」

 私は小さく頷いた。それしかなかった。



 俺の誕生日からまた数日が経った。もう後五日でクリスマスだ。

 最悪な冬休みが始まりそうで、嫌な気分が蔓延している。というのも二回目の映画を見に行ったあの日から玉乃さんに連絡を取っても、どこか素っ気ない返事が来るばかり。

 映画を見に行った日も、玉乃さんはとても静かで、どこかむず痒かった。こんなのはいつも通りだったはずなのに。二人で遊んだあの日の笑顔を見てから、あの無を感じてから、どうも調子が狂っている。

「はぁぁぁぁぁーー………………」

「なあ奏吾、李月のやつ何があったんだよ」

「まあ、そろそろクリスマスだしな。色々悩んでるんじゃないか」

 俺は玉乃さんを幾度も傷つけてきた。

 でも前は遊びに誘ってくれた。しかも俺の、話しあいの名目でのデートも付き合ってくれた。

 そのあとには俺の誕生日の前日、昔に見せたようなまるで子供みたいな笑顔を見せてくれた。

 だけどじゃあ、なんですぐにいつも通りになったんだ。途中から今までに感じたことのない無を感じた? 俺の誕生日当日の時、なんで全然喋らなかったんだ?

 全く分からない。

「なぁ、李月」

 古江が机に伏す俺の髪をわしゃわしゃといじくった。

「そんなに悩むんならまた遊びに誘ったれよ」

「維吹、そんな簡単じゃないんだよ。知ってるだろ? 玉乃さんと一回は別れてんだぞ」

「うーん……」

「いや……維吹、そうだよな」

 奏吾はまた伊吹に怒っていたが、俺はどこか背中を押された気がした。

 一人で考えても分からないなら、もう答えを求めた方がいい。

「ありがとう。なんか、やってみようと思う」

「お、おぉ! 見ろよ奏吾! 心震えることを語る。これぞ震える伊吹だ!」

「はぁ……。無理すんなよ李月」

「おい、無視すんなよ!」

「それがなければ完璧だったよ」

「な、」

 おだける二人を横目に、緊張と覚悟の気持ちを持って、俺は玉乃さんへメールを送った。

 なんかかしこまると恥ずかしいな……


 数時間後、メールは返ってこなかった。

 ――嫌われたか

 心が握りつぶされる感覚がする。

 やはり、俺が変なことをしてしまったんだろうか。

 そのまま今日はメールが返ってくるどころか、既読すらも付かなかった。



 朝、学校に向かっている時にいきなり飛び出してきた自転車にびっくりして、スマホを地面に落として壊してしまった。

 智花には謝ったが、稲吹くんには何も言えていない。まあ、相手は好きじゃないんだから気にすることでもないんだろうけど、連絡に返信できていなかったりするんなら、世間一般的に失礼に該当してしまう。

 どこか嫌な気分がする。明日の夕方にはスマホが直るらしいけど、むず痒い。

 ……変な気分

 それはスマホがない生活になれていないからだろうか。それとも、心ではまだ稲吹くんを求めてしまっているんだろうか。

 ばかだな……

 稲吹くんの誕生日を祝った日、あの時にもまた稲吹くんはどこか自分を見せてくれなかった。まるでテリトリーを必死に守っているかのよう。その境界線上を超えて、そちらに行くことを拒むよう。

 ずっと上の空。私が笑顔を向けても、視線を外して素っ気なく返事をするだけ。

 きっと、いい加減に私のことが面倒に感じて、降られた理由を知ろうとも思わなくなってきたんだろう。

 一言で言ってしまえば“私に飽きた”と言ったところだろう。

 心底、自分が憎い。

※この作品は他サイトでも掲載しています。

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