第20話「私 too 私6」
「さては香澄、何か困ってるな」
あまり人の寄り付かない五階の廊下。昨日のお母さんの話とこれからと、色々なことを整理しようと思って黙って一人でいたのに、智花は連絡もなしに私を見つけては、私の鼻を押した。
「うん……まあね」
よくここが分かったね……
悩みがあることを知られていることよりも、この居場所を知られていることの驚きと、恐怖感のほうが強い。
本当になんで分かったんだろう。
「言ってみなよ」
智花は誇らしげに笑って隣に座った。
「なんとなくわかってるでしょ」
そういっても智花は笑顔を崩さない。たぶん、智花の中ではこれが今のトレンドなのだろう。前もこの戦法を取ってきていた。
きっと私が何か言うまで崩さないつもりだ。
「りつ……とのことで、ちょっと」
「うん」
「明日、誕生部でしょ? 私の誕生日をりつはちゃんと祝ってくれたの……だから、私もちゃんと祝いたいんだけど……こんな心情だと誘いづらくて」
「もうちょっと詳しく」
苦笑いを浮かべる私に比べて、智花は今度はちゃんと真剣な顔を浮かべている。
きっと、頼りになる智花に変わった。
「前話した後に、思ったことがあってね。りつとは一回別れてるじゃん。なのに、遊びに誘うとかいいのかなって……私が一方的に悪いのに、今もまだりつに迷惑だけをかけてるから……でも、りつの誕生日祝いたいし、いつかちゃんと話をしたい」
視界がぼやけてきた。頬に生暖かい筋ができる。
智花はそんな私の頭を撫でた。
ああ、そっか……私はこんなにも会いたいんだ
「会いたい」
声を震わしていうと、智花はまた私を包み込むように笑った。
「うん。会おう」
智花はスマホの電源をつけた。今は放課後だ。誘うなら時間は有限だ。早めに決めたほうがいい。智花もそれを考えているんだろう。
「一旦さ、まずは今部活中か聞いてみようよ。聞きにくかったら私が古江たちに聞くし」
もう甘えない……
「聞いてみる」
「うん」
私は急いで古江さんと船本さんに連絡を入れた。
結果、今はまだ部活中とのこと。
「それで、別れてるのに誘ってもいいかってことだよね」
「うん。正当化されるかな……」
「私は、別にそんなこと考えないでいいと思うけどな」
「でも……」
「だって、元々は別れてもなかったわけじゃん」
「うん」
「なら、その延長線上というか……とにかく、別にいいと思う。別れたカップルが付き合い始めるのも。よくある話しだよ」
それを聞いた私は安堵から気が抜けた。廊下に倒れて笑みが溢れた。
そっか……誘ってもいいんだ
「でも、相手はまだー、ね。ちょっと分かんないから、慎重に行くべきではあると思うよ」
「うん。ありがと智花」
「いいよー。それじゃあ、私は先に帰っとくね」
「うん。また明日」
「あいにょー」
智花はにへらと笑いながら帰っていった。
でも本当にどうやってここが分かったんだろうか。
まあいいや……
智花が階段の下の方に行ったことを確認した私は一人廊下で悶えた。
とても嬉しかった。まだ私にも付き合える条件があるということが、この上なく嬉しかった。
私は浮かれた気分のまま、りつを遊びに誘った。こうでもしないと、きっと私は遊びに誘えたりしないだろう。
「お疲れ様でした」
「おう、またな惚気坊」
「だからその呼び方やめてくださいよ」
「だってー」
「ばかお前ら、そろそろそのくらいにしとけ。またな李月」
「はい」
サッカー部。俺はすっかり「惚気坊」という変なあだ名をつけられてしまった。
まあ、仕方ない。試合中にベンチまでやってきた玉乃さんがいたんだ。そう言われても何も言い返せない。
ん……メールか
スマホを開くと初めて玉乃さんからメールが届いていた。
今日遊びませんか……か
俺は嬉しさの反面、シャキッとしないといけないと、真面目さを取り繕った。
まあ、断る理由もないしな……
そのメールに「大丈夫だよ」と返信をして校門を出た。
「お、李月」
「おう、お前ら」
「なんかさぁ、部活あるかどうか——」
「ばかお前!」
維吹が奏吾に口を塞がれた。
「俺らちょっと用事があって人待ってんだ。先帰っといていいぞ」
「あ、おう。じゃあまたな」
「おう」
「なんでだよぉー」
「いいから」
きっと何かあったんだろう。多分、玉乃さん関連だ。
俺は、あの時にも言ったけどケジメをつけないといけない。もう一度、しっかりと玉乃 香澄という人物を見るんだ。俺の知っている香澄ではなくて、一から玉乃さんを見る。
それでいい。今度は失敗しない。そしてできたら付き合う。
一度別れたって言っても、相手も遊びに誘ってきたんだ。少しは期待したっていいだろう。
色々と玉乃さんに罪を作りすぎた俺には告白する権利はないけど、玉乃さんがもし、もう一度付き合いたいと言ってくれば、俺はいつだって準備はできている。
というか、もはや告白しなくてもいいのかもしれない。お互いにお互いを少しは知っているんだ。きっとその雰囲気になればすぐわかるはずだ。
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