第130話 情報操作
セレステ教を潰す。オレは皆の前でそう宣言した。
『おいおいおい、滅多なことを言うんじゃねーよ、セレステ教は全世界に広がってるんだぜ、それを潰すなんて出来るわけないないし、ほぼ全てのヒーラーがセレステ教だ。無理に決まってる』
と、いつもおちゃらけているカインがまとなことを言う。
『第一どうしてそういう結論になったんだ。本当にアレクも同意したのか?』
オレの言葉を待たずにアレク自身がその問いに答える。
『ああ、オレはアイシャためにセレステ教を潰す。絶対に』
「まぁ正確にはセレステ教を全て潰すわけじゃない。今のセレステ教の中枢で暗躍してるクソ野郎を潰すのさ」
アイシャが前に出る。
『アレクのプロポーズは嬉しかったけど、何の説明もなしに自分が信じている宗教を潰すなんて同意できないわ。それが暗躍している一部であったとしてもね。ちゃんと理由を説明してくれるかしら』
「分かったよ、これからアレクに説明した内容を皆にも説明する。聞いたらセレステ教に消される可能性があるから覚悟して聞いてくれ」
『おいおい』とか『マジかよ』という呟きが聞こえる。
「オレが神託で魔物の転生者の調査をしていることは知っているよな。それに進展があったんだ。一時期、悪魔の仕業では?と、疑われたが、転生者の管理は天使の管轄だ。他のどんな存在であっても転生に関わることはできない。転生システムに関与できない悪魔では無理だという結論に達した。唯一それができるのは天使だけという前提のもと、天界で天使の存在の洗い出しが実施された。過去に遡り天使の存在を再調査したわけだ。それこそ天魔大戦の時代から今に至るまで。そして見つけたんだ天魔大戦で消滅扱いになった天使の反応を。その天使は今どこに潜んでいると思う?」
『まさか…』
「そう、ディバイン神聖国、セレステ教総本山に消滅したはずの天使の反応があった。だからセレステ教を調査しろって神託があったんだよ。天魔大戦で消滅したと思われていた天使だ、時系列を考えるとセレステ教はその天使が作ったか、もしくはその天使を崇める周りの人間が作ったと考えた方が自然だ」
思い出したようにアイシャさんが語る。
『私が僧侶として修行しているとき噂を聞いたことがある。セレステ教の総本山には天使がいるって…聞き流していたけど、まさか本当にいるなんて思ってもみなかったわ』
「さて、天使がいることが分かったが天使はどうやって人間界で存在を保っているのか。天使や悪魔は基本的に霊体だ、天界や魔界なら何ら問題ないが、物質ベースの人間界において力を使いすぎると霊力が不足して存在が危うくなるそうだ。天界で自然に霊力が回復するが、人間界ではそうはいかない。力を回復する手段が必要だ。それは何か」
ラーニャさんが吐き捨てるように言う。
『受肉ね』
その通りなんだけど、完璧な答えではない。
「半分正解」
『半分?』
「オレは神託で色々と聞いているわけだけど、受肉であっても天使の力の源である霊力は回復しない。天魔大戦の際に何度となく行われた受肉でそれは証明されている。受肉すれば全ての能力が飛躍的に向上する。しかし霊力は回復しない。ただし、受肉においてもう1つ証明されていることがある」
『もう1つ?一体何なの?』
「天使でも悪魔でも起こり得ることだけど、受肉する体の波長が完全に合う場合がある。その場合、霊力が回復することが確認されている」
ここでラーニャが気付く。
『もしかして天魔大戦で大天使に過ぎなかったミカエル様が大活躍して最上位の熾天使に昇格したのって…』
「そう、万単位の天軍において、受肉した肉体と偶然にも完全に波長が合った。人間界において回復が可能だったから継続して活躍ができたわけだ。4大天使はそうだったみたいだな」
『なるほどね、私は受肉するだけで回復が可能かと思っていたわ…そうよね、もし受肉だけで回復可能なら、悪魔による体の乗っ取りがもっと頻繁に起こってもおかしくないはず…恐らく歴史上、悪魔による波長が合う受肉があったのは一度だけね』
「へぇ、悪魔も波長が合う受肉をした奴の記録が残ってるんだ」
『ええ、今は滅びたウロボロスという国があったわ。悪魔が王の体を乗っ取り数年間、大暴れしたと言い伝えられているの…回復が可能ならそれだけ長い期間暴れることができたのも頷けるわ』
「さて、ここで質問だ。天魔大戦時の数十万という規模の天軍において、たった4体の天使にしか発生しなかった、かつ、長い歴史の中でたった1度しか悪魔に発生しなかった波長が合う受肉…確率にはとんでもなく低いわけだけだけど、その受肉の条件が分かっているとしたら?」
『え?分かっているの!?』
ここからはオレの予想だ。
「受肉ってのは肉体の乗っ取りだ。例えば受肉の条件を満たす人間がいたとして、その人間が自ら肉体を提供すると思うか?」
『思わないわね』
「だよなぁ。普通は思わないよな。だがセレステ教により受肉可能な条件を持つ者が"寿命を延ばすため"という理由で、自ら総本山に向かうように情報操作されているとしたら?」
『!?聖痕がその受肉の条件だというの!』
『聖痕が刻まれた者は聖職者としての格が上がるんだろ?条件として十分あり得ることだ。潜んでいる天使が人間界で継続して活動出来ている事についても説明がつく』
『…それは憶測の域を出ないのじゃないかしら?それに忘れてない?スティグマが刻まれた者で総本山に行かなった人は実際に2〜3年で亡くなっているはずよ」
その通りだ。だからこそ胸糞悪いんだよ。
「…ミリアリア、今からお前に質問する。嘘偽りなく答えろ」
『…わかったわ』
「聖騎士時代、総本山に来なかった聖痕の関係者を秘密裏に殺したことはあるか?」
『あるわ』
周囲がざわつく。
『上からは聖痕が刻まれた者が悪事に手を染めていると通達があった。当時の私はそれを信じて疑わなかったわ…私は無実の人間を殺していたということになるのね。聖痕が刻まれた者は短命であるという情報操作の辻褄合わせのためだけに』
会場の全員が沈黙する…
奴隷には事前に今の話をしており、この答えはミリアから事前に聞いていた。今は淡々と語っているが、最初に無実の人間を殺していたことが分かった時、ミリアは怒りに震えていた。
「これで分かったろ?今のセレステ教は天の意思に反している天使にいいように使われているだけの集団だ。アイシャさんを守る事が1番大切なことではあるけれど、今セレステ教の内情を知ってる中枢の連中は潰すべき存在だよ」
『確かにね…』
「アイシャさんがセレステ教総本山に行かないと決めた今、セレステ教から刺客が送られてくるだろう。相手は恐らくディバイン神聖国最強の戦力である聖騎士。これを迎え撃つ。皆、協力してくれ!」
アレクがいの一番に答える。
『ああ、もちろんだ。聖騎士だろうがなんだろうが叩き潰す』
頼もしくなったなぁ。
続いてラーニャさんが答える。
『無論協力するわ。ただとりあえず聖騎士を相手するのは弧月とノーチェでいいでしょ。聖騎士が相手だとしたら、他にまともに戦えるのはのはミレーヌくらいよ』
それもそうか。
「分かった。そうしよう。まずは情報収集、そして迎撃作戦の立案だな」
こうしてセレステ教との戦いが始まるのであった。




