欠如の道理(けつじょのどうり) その4~竹丸、人生初の恐怖体験を味わう~
若殿は呼ばれるたびにそこへいき、倒れた人の呼吸や脈拍を確認してた。
客たちはすっかり怯えきったようにざわめき、口々に
「呪いじゃないか?」とか
「怨念がこもった呪物のせいだ!」とか
「そこに悪霊が見えたぞ」とか好き勝手に話し始めて収拾がつかなくなった。
突然立ち上がって出演者の斗恩を指さし
「あっ!そこを見ろっ!斗恩さんの後ろに束帯姿の顔の白い男が立ってるぞ!」
と言う男が現れると、別の方向から
「本当だ!顔にもやがかかってるように見える!体が透けてるぞっ!」
とか、女性の声で
「え?全体に黒い人の形をした煙のように見えるわ!」
それを聞き、斗恩の方向を見ると、なんだか空間が歪んでぼやけてるように見えて
ゾクッッ!!!
と全身が総毛立った。
腕をまくってみると毛穴が太くなりプツプツしてる。
それを見てまたゾクゾクして、恐怖のあまりブルブル震えるのを抑えられなくなった。
チッ!!しがみつきたいのにっ!!
肝心な時にどこ行ったんだよっ!!
キョロキョロ辺りを見回すとちょうど若殿がこっちに歩いて来て
「『呪物比べの会』はこれでお開きになりそうだな」
話しかけ隣に来た途端、すばやく腕にガッシリとしがみついた。
中央の畳では久万がうろたえたように両手を広げ、客に落ち着くようにと身振りをし
「え~~~皆さん、落ち着いてください。
大丈夫ですから、眩暈など気分の悪い方はその場に横になってください。
腹痛や吐き気があるなど体調の悪い方は雑色が厠へ案内しますので、手を上げてください。
それ以外の方はお座りになって話を聞いてください。」
客が静かになると久万が申し訳なさそうな困り顔で
「今回はこのように強力な呪力をもつ呪物が集まったせいで、皆さまに怖い思いをさせてしまったことは残念ですが、今日のこの体験で呪力や呪いといった目に見えない不思議な現象が、この世に確かに存在すると証明できたと思います。
私はこの活動を通して、呪いや恨みや怨念を祓う陰陽師や祈祷師へと、呪われた不幸な人々をつなぐ役目を果たしたいと思っています。
怨念や恨みに苦しんでいる方々はぜひ我々のような呪物を扱う人間にご相談くださるとお役に立てると思います。
今日はお集まりいただきありがとうございました。
次は一週間後、同様の催しをここで行う事を考えております。
またのお越しをお待ちしております。
では、お帰りは入り口と同じ東門からお願いします。
順番にお越しください!」
ペコッと頭を下げ、しばらくして顔を上げると憑き物が落ちたようなスッキリした顔だった。
うっすら笑みまで浮かべてる。
私は若殿の腕にしがみつきながら
「早く帰りましょっ!!ここにいたら呪われますっ!!漏刻助手の悪霊に憑りつかれますっ!!」
グイグイ引っ張るけど、若殿は頑として動かず、呆れたように私をチラ見して
「いや、話を聞く必要がある。
失神した客が数人いただろ?
それに呪物収集家たちに怪しいところがないかも調べなければならない。」
呟くと、チッ!と舌打ちして
「特に質の悪いヤツは弾正台にしょっ引いてやるっ!!」
イラ立ったように吐き捨てた。
う~~~ん、失神の原因?
私も少し推理してみて思いついたことを口に出す。
「あっ!火鉢がありましたよね!あれに何かをくべて燃やし毒の煙を吸わせたのでは?」
若殿が首を横に振り
「三方向に風を遮るものがないので煙が発生してもすぐに吹き飛ばされるし、『失神した人々』と『火鉢』の距離と方向は全員バラバラだった。
失神した人々だけが毒の煙を吸ったとは考えられない。」
そうね~~~ハッキリ憶えてないけど、多分そう。
「じゃ呪物から病原菌が飛び出して、それを吸った人々が疫病に罹ったのでは?」
若殿が不意打ちをくらったようにポカンと口をあけ
「呼吸により摂取してすぐさま症状が出る病原菌に心当たりがあるか?
早くても発症するまで一日はかかるだろう?」
う~~~~ん、これも違うか~~~!!!
じゃっこれだっ!
「失神した人々は催眠術にかけられたんです!
あらかじめ暗示を与えていて、出演者がきっかけを出せば失神するように!」
若殿は目を丸くして
「なぜそんなことをする必要があるんだ?」
私は肩をすくめ
「さぁ?きっとこの会に箔を付けたかったんじゃないですか?
ホンモノの呪いがかかった呪物だ!と宣伝するために?」
『ふむ!』と唸ると若殿は私との会話をやめ、舞台となった中央の畳を見つめた。
談笑しながら呪物を風呂敷包に包んでる呪物収集家と久万のところへ、若殿がスタスタと近づき
「私もこのあとの『打ち上げ』に参加させてもらえませんか?」
久万が振り向き、困惑したように若殿を見つめ怪訝な顔をし
「あ~~会話が聞こえましたか?
確かにこのあと、ここで食事しながら『反省会』をする予定ですが・・・・ええっと、失礼ですがあなたは?」
若殿が
「弾正台の役人の藤原平次というものです。」
久万は困ったように頭を掻き
「あのぉ、仲間内の食事会ですので、急に参加したいと言われても困るんですが・・・」
若殿がハッ!と何かを思いついたように袂に手を突っ込みゴソゴソ何かを探し、掴んだものを見せながら
「これは川で拾った貝殻なんですが、これを寝所に置いておくと、夜、枕元に死神が出るようになってしまいました。
はじめは母屋の隅に立っていた死神が日を追うごとに近づいているんです。
怖くてどうしようもなくて、誰かに相談したいと思ってたんです。」
怯えたように久万を上目遣いで見つめる。
(その5へつづく)




