創製の文紙(そうせいのふみがみ) その4~竹丸、欠点を利点にするひらめきに感心する。例え悪用でも?~
赤茂は悔しそうに歯ぎしりして
「そうです。頭中将の言う通りっ!
私が紙戸のひとりで耐火性屏風の紙を開発していた品部であることすら忘れるほど、登坂は私を見下していました。
最初に『海藻を材料として作った紙に耐火性があるかもしれない』と報告すると、
『すぐに屏風用の紙を作れ!絶対燃えない紙を作るんだぞっ!』
と命令されました。
しかし、順調には行きませんでした。
方法を変え何度やり直しても失敗し、上手くいかないと報告すると
『この無能の役立たずめっ!何としても完成させろっ!さもないと免税や兵役免除の特権のない品部に落とすぞっ!
無駄に経費だけを使い果たし、何の成果もあげないとは、穀潰しもいいところだっっ!
死んで詫びたってお前の浪費した銭は戻ってこないんだぞっ!!』
と脅され罵られました。
耐火性紙が完成しないことに加えて、ある欠点に気づいたので開発を止めてしまい、すっかり紙屋院勤めに嫌気がさした私は故郷の越前に帰り、自宅の紙漉き工房で紙を作り、細々と売ることにしたんです。
それで食っていけましたしね。
他にも紙戸はいましたから、私が帰郷しても紙屋院は問題なかったんです。」
若殿が興味深そうに目を輝かせて
「その欠点とは墨で書いた文字や絵が、時間とともに消えてしまうことですね?
絵や文字の無い屏風など、内裏はおろか貴族達にも買い手はつかないからですね?」
赤茂は深刻な顔でウンと頷き
「そうです。
寒天のように海藻紙は吸水性がよく、水分を多く含めば燃えにくいだろうと考えたんですが、実際、乾いてしまえば普通の紙と同じように燃えます。
色を抜くために海藻を長時間煮熱したり楮と混ぜたりするので作業工程が増え経費がかかる割に耐火性はほとんどなかったんです。
だから、紙に水分が多いうちに書いた墨文字が時間経過によって広がり消えるという特性を生かして、私を馬鹿にした登坂に復讐しようと思ったんです。
陰陽師を名乗り、術を施したフリをして、文字を消し登坂を怖がらせました。
あの威張り散らしてた上司がビビって震えながら私に泣きつくところなんておかしくてたまりませんでしたよ!
復讐が果たせて留飲が下がりました。
私は満足したんですが、ついでに銭を巻き上げようと言ったのは糊子です。
彼女とは幼馴染で、一緒に上京し紙屋院に勤めていました。
彼女を狙っていた登坂にバレないよう気を付けて付き合ってました。」
登坂の妻を見て赤茂が微笑んだ。
糊子は微笑み返し
「ええ、そもそも二年前、登坂に近づいた時から、赤茂を馬鹿にした復讐をするつもりでした。
登坂は私に心酔して結婚を懇願し、思い通りに操れたので上手くいきました。
私が浮気した?
バカバカしいっ!
登坂は最初から最後までただの金づるの色ボケジジイです!
図書寮で女官をしていたときから、イヤらしい目で見られてウンザリしてたんです!
赤茂のために吐き気のする結婚生活に今まで耐えてきました!
でももう限界っ!
あ~~~~っ!!スッキリした!
ね、赤茂、早く越前に帰りましょうっ!!」
口角の皺が深くなり、さらに十歳は老け込んだように見える登坂は真っ赤な目が潤み、鼻水を啜り、怒りで震えながら
「ズッ!そうかっ!く、くそっっ!!い、今すぐ出ていけっ!このアバズレっ!!」
若殿が私に小声で
「私たちも帰ろう」
囁くのでその後の修羅場を見ずに立ち去ることなった。
残念っ!!
帰り道、若殿に
「何気ない一言が大きな不幸を招くって、言葉はまるで『火種』ですね!」
と言うと、
「そうだな。
次々と燃え移り炎が大きくならないうちに『難燃性』の障壁を用意することは、実生活にも言葉にも重要だな」
ポツリと呟いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
楮など木から紙を作る際に必要な『リグニンを分解する』工程が無いので『海藻から紙を作る』はSDGsにいい!という、紙のように信ぴょう性も薄~~~~い知識を学びました。
基本的に疑い深いので、リグニンを分解する工程が無いからと言って、他に不利益な点、例えば海藻を採取しすぎて生態系を壊すとか、があるので『一長一短でしょう?!』『いいことずくめではないでしょう?!』と眉唾ですが・・・・。
時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。




