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醜女の絵解き(しこめのえとき) その2~竹丸、三人の来客について詳細を知る~

鎌をかけられたことに気づき、


ハッ!


とした四郎さまが悪びれる様子もなく肩をすくめ


「兄上じゃなけりゃ、誰の物なんですか?

私は昨夜ここにあったのを見つけて、中身を見てそんなに面白くも無かったので今朝になって見つけた場所に戻しておきました。」


若殿(わかとの)は顎に指を添え


「ふむ。ということは昨日ここにお前たち以外の誰かが置いたということだな。

竹丸、使用人全員に巻紙について知ってることを聞いてみてくれ!」


気軽に(ちょー)めんどくさいことを命じるのでイラッ!としたが、(あるじ)の命に逆らえばご飯にありつけないのでしぶしぶ聞き込みに出かけた。


屋敷中を歩き回って、雑色や侍女や料理人や洗濯女や文使いの子供まで聞き込みした結果、巻紙を見かけた者はいなかったし、それらしいものを西の対に置いた者もいなかった。


それだけでは終わらず、昨日の来客について聞いてみたのは私の頭のいいところ!


エヘンっ!


さっそく若殿(わかとの)に報告し、さらに続けて


「ええっと、昨日の来客は三人で、一人目は矢田部(やたべの)名実(なざね)という文章生(もんじょうしょう)で、大殿(おおとの)が招いたそうです。

二人目は、大奥様の友人の未亡人でおしゃべりするとすぐに帰ったそうです。

三人目は絵巻物を訪問販売に来た商人で大奥様が絵巻物を買ったそうです。」


若殿(わかとの)は顎に指を添えフム!と唸ると


矢田部(やたべの)名実(なざね)といえば、元慶(がんぎょう)二年に行われた日本紀講筵(にほんぎこうえん)という『日本書紀』の講義・研究を行った宮中行事に参加し、講義担当者の補佐である尚復(しょうふく)を務めた官人だな。

父上をはじめ大勢の公卿や官人が出席して『日本書紀』について講義や意見交換が行われたとされる。

ということは、あの絵巻物はやはり、アレについて描かれているのか?」


ブツブツ独り言?を呟く。


「次はどうするんですか?」


若殿(わかとの)


「父上の腹心の侍女に話を聞こう!」


というわけで、大殿(おおとの)が最も信頼をおき着替(きが)えや配膳などの身の回りの世話を一手に取り仕切る侍女頭の(ほたる)を呼び出し話を聞いた。


(ほたる)は四十歳ぐらいの古参の侍女で、使用人たちを束ねる権力者なのに控えめな『敵に回すと怖い人』!


若殿(わかとの)に対面しても()し目がちに(うやうや)しく


「太郎様、何の御用でしょうか?」


若殿(わかとの)はどうでもいいけど~!って軽い感じで


「昨日、父上は客の矢田部(やたべの)名実(なざね)と何の話をしていた?」


(ほたる)は少しためらったような間をとり


「確か、盗み聞きしたわけではありませんが、『アタ』がどうとか『カシ』や『ハヤト』がどうとか仰っていました。」


若殿(わかとの)が確信したようにニヤッと口の端で笑い


「『ニニギノミコト』がどうとか?

絵巻物を見ていたか?」


(ほたる)は首を(かし)


「いいえ。

絵巻物は見ておられませんでした。

『ニニギノ』・・・・とは聞いたような(おぼ)えがあります。」


「よしわかった!

ありがとう、もう下がっていいよ。」


若殿(わかとの)がご機嫌に言った。


次に北の対を訪れ、若殿(わかとの)が大奥様に挨拶すると、ウキウキと弾んだ声で


「まぁ!太郎なの?!さぁさぁ入ってっ!

母に遠慮はいらないわ!

いつでも会いに来てちょうだいっ!」


溺愛するムスコタン!が訪ねてくるのがよっぽど嬉しいのか、侍女にそそくさと命じて座るための畳を運ばせた。


座り込むや否や若殿(わかとの)


「昨日、母上が応対した二人の客について聞かせてくれませんか?」


大奥様はイキナリの変な質問に面食らったようだったけど、思い出すような仕草をして


「ええと、確か、午前中にお友達の磐菜(いわな)さんがいらしたの。

彼女、今、独り身で寂しいらしくてね、文のやり取りをしてたのだけど、直接会っておしゃべりしたいって言うから招いたのね。

なんせ、一人目の夫を死別して失くしてらして、その後もさんざん嫌な目に遭ったらしくて、も~~~!それはそれはお話を聞くだけで、哀れで情けなくて可哀想でねぇ!

涙なしには聞けた話じゃないのっ!!

そりゃ磐菜(いわな)さんに責任が全く無いとは言えないけれど、だからってあんまりひどい仕打ちなのっ!!

聞いてるだけで気分が悪くなる鬼のような仕打ちでね!

でも、世の殿方ってそんな方が多いのかしらね?

うちの殿だって、もしわたくしが磐菜(いわな)さんの立場なら、そんな態度をとったかもしれないって思うとやるせなくて、情けなくてねぇ。

でも太郎は、まさかそんなことはしないわよね?

情の深い思いやりのある優しい(おのこ)ですものね?

そういえば、あの姫とは上手くいってるの?結婚はいつになるの?その姫は今おいくつ?

いくら(おさ)(づま)とはいえ、限度はあるから、あんまり若いと外聞が悪いわよねぇ・・・。

あっ、話がそれたわ!昨日はね、その磐菜(いわな)さんの愚痴を気のすむまで聞いてあげたのよ!

(わび)しい暮らしをしてる磐菜(いわな)さんをひとりぼっちにするなんてできないでしょ?

だから・・・・」


延々と続きそうなおしゃべりをウンザリ顔の若殿(わかとの)(さえぎ)


「昨日の商人が持ってきた絵巻物の中に『木花之佐久夜毘売(このはなさくやひめ)』を題材にしたものはありますか?」


大奥様はキョトンとして


「えっ?

ええっと、昨日買った絵巻物のこと?

そうね・・・・確か、『伊勢物語』か何か、熱く燃え上がる恋のお話を描いた絵巻物だったわ!

木花之(このはな)・・・ひめ』?ってそんなお話なの?」


大奥様はご自分が購入した物への関心が薄いっ!!


う~~~~ん。


でも私が見たところ、西の対の曹司においてあった絵巻物は墨一色で描いてあったから売り物?になるほど豪華でも華やかでも無いし、恨みのこもったような陰気な作品だから、派手(はで)好きの大奥様が購入したにしては違和感がある。


疑問が湧き、若殿(わかとの)


「あの墨絵の巻物は『木花之佐久夜毘売(このはなさくやひめ)』の話なんですか?

ってどんな話なんですか?」

(その3へつづく)


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