白秋の裸赤竜(はくしゅうのはだかみみず) その3~竹丸、五行思想にツッコミを入れる~
そもそも、五行説の相生(順送りに相手を生み出していく、陽の関係)って、『木』が燃えて『火』が生じ、『火』が燃え尽きて『土』(灰だけど)が生じ・・・辛うじてここまでは許せる。
『土』のなかから『金』が生じ(土中から金属が出てくるから)は、まぁ、これもギリOK!とする。
ただ『金』属が冷えて『水』滴がつくから『金』から『水』を生じ、ってこれは絶対生じてないしっ!!夜露がおりる秋から冬限定だしっ!!
あと、『水』から『木』が生じっていうけど、『木』って『土』から生じてない?
あと、砂鉄=『土』を『火』に入れて燃やすと『金』(鉄)を生じるけど?
そっち(『土生火』『火生金』)の方がしっくりくるけどダメなの?
あと、相克にも色々ツッコミどころが多いが、長くなるのでとりあえず置いといて、巌谷に
「だから、結局、朱夏と賭柄夢のどっちが本当のことを言ってるんですか?」
ズバリ結論を聞く。
巌谷は烏帽子からはみ出る後ろ頭をボリボリ掻き、う~~~んと唸ると
「それは、ええっとぉ~~~、ミミズが『土』を示すとしたら、『火』が足りない!
名前に『火』の季節『夏』と色『朱』が入っている朱夏さんっ!あなたが犯人ですっ!」
ビシッ!
と朱夏を指さして言い放った。
我々がポカンと口を開け、あきれ果てていると、若殿が肩をすくめ賭柄夢に向かって話しかけた。
「その右頬の腫れも先ほど朱夏に殴られたせいですよね?切断された乳首も左側、小指も左手でしたね?」
賭柄夢がウンウンと頷き、
「そうですっ!朱夏は僕が痛がって、のたうち回るのを見て、キラキラした目で、全身を震わせて笑ってました!」
若殿は巌谷に耳打ちし、巌谷が頷いた。
もう一度、賭柄夢に向かって
「では、朱夏さんを弾正台に連行します。」
朱夏は真っ青になって首をブンブン横に振り
「嫌ですっ!違いますっ!私じゃありませんっ!彼が自分でやったのよっ!」
巌谷がどこからか取り出した縄を朱夏の両手首にかけようとすると、若殿が楽しそうに
「そういえば、最近、刑部省の規則が変わって、軽罪については判事の裁量に大きく委ねられるそうで、笞刑(鞭打ち刑)の執行人に民間人を使ってもいいそうです。
私が聞いたところによると、女性でも可能だそうで、ある判事は美女の踊り子か巫女だったか、を採用したとか。」
巌谷が感心したように目を丸くして
「ほぉ~~~!はいはい、私も聞いたことがあります!
その判事も思い切ったことをするなぁ、と同僚の間で話題になりました!
いや~~~~!想像もつきませんな!
美女が力をこめてムチを振るい、罪人の尻を打つ姿ですって?!
どのようなものか、一度是非、その美女が執行人の笞刑を見てみたいものですな!ハッハッハッ!
よし、朱夏っ!大人しくしろっ!
出発するぞっ!まずは、弾正台で取り調べだっ!」
朱夏の両手首をグイッ!と引っ張って歩き始めた。
我々が五・六歩進むと、後ろから
「あのっ、ちょっと待ってっ!待ってくださいっ!
嘘ですっ!!
朱夏がやったなんて、嘘なんですっ!
彼女の言う通り、ホントは全部自分でやりましたっ!!」
賭柄夢が大声で叫んだ。
はぁっ??!!
なぜっそんなことをっっ!!
そして、なぜ今さら打ち明けたっ??!!
ビックリして若殿の顔を見ると、巌谷と二人でニンマリ笑ってた。
なのに、何事も無かったかのように平然とした表情で振り返り、退屈でたまらないという口調で
「え?そうなんですか?
でも、斧は朱夏のでしょう?
あなたがやったという証拠も無いのに犯人を釈放することはできません。」
(その4へつづく)